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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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猿神の罠③

「渋い顔? そうですか? 不機嫌そうに見えました?いつも通りですよ。いや、むしろ機嫌が良いくらいだ。最初は嫌々だったかもしれませんが、あの妙に縦に長い人、気に入ったみたいですよ。生長さん、ああ見えて、素顔は特撮好きのおっさんです。オタクと言っても良い。そうそう、鬼牟田さんの第一印象はマグマ大使だったみたいです。ぬぼっと縦に長い感じが似ているそうです。僕はマグマ大使って、よく分かりませんけど」

 浅井が楽しそうに言う。上司の陰口は楽しいものだ。西脇が「はは。マグマ大使ですか。言われてみれば」と笑った時、家の中からマグマ大使が転がり出てきた。

「どうしました? 先生」

 圭亮が青い顔で震えながら言う。「僕には無理です」

「ちょっと生々しかったですか?」浅井が聞くと、「かなりです」と真顔で答えた。

 圭亮に続いて、生長が家から出てきた。「さあ、日が暮れて来ました。一旦、美嶽セメントに引き上げるとしましょう」

 車に乗り込むと同時に、「先生、先生。宝来家の様子、教えて下さい」と西脇が催促した。

「すいません。西脇さん。気分が悪くなってしまいました」

「そうですか。それで、どんな様子だったのです。被害者は宝来宗治で間違いない。串刺しになっていたというところまでは分かりました」

「ああ~少し休ませて下さい」

「休んでもらっていて構わないので教えて下さい」

 西脇は容赦ない。苦しい息の下、圭亮が説明を始める。「玄関からゴミが散乱していました。ゴミ屋敷でした。それでも証拠となりそうなゴミは鑑識が持ち出した後だと生長さんは言っていました。うっ!」

 玄関から台所があり、台所の右手に居間があった。

「開け放たれた襖から中が見えました。うっ! 殺害現場のようでした」

 圭亮がえずきながら現場の様子を描写した。奥の板壁に大量の飛沫血痕が飛び散っており、そして、畳の上にはおびただしい量の血溜まりがくっきりと残っていた。

 犯罪現場を見慣れていない圭亮はそれを見ただけで気分が悪くなってしまった。生長の説明では、宝来宗治は胸を槍で貫かれ、板壁に串刺しになっていたと言う。鳩尾の辺りを槍が貫いていた。

「槍ですか!? あの武士が使っていた槍が凶器だったのですか? 本当に伝説通り、槍で串刺しになっていたのですか?」

 西脇でなくとも、にわかには信じられない。

「その槍が凶器だそうです」

「まさかとは思いましたが、本当に槍だったのですね~」と西脇が声を上げる。

「碇屋恭一氏の生首が見つかった後、刑事さんが宝来家に事情聴取に行っています。何せ、神社に一番近い家が宝来家ですからね。自分は何も知らないと答えたそうですが、何でも良いので犯行当夜、何か変わったことはなかったか食い下がったところ、鳥の鳴き声を聞いたと答えたそうです」

「夜中に鳥の鳴き声ですか?」

 田舎のことだ。フクロウなど、夜中に鳴く鳥くらいいるだろう。

「碇屋恭一さんが殺されたあの夜、宝来さんは酒を買いに酒屋に行ったそうです。滅多に出歩かない人でしたが、酒の買い出しには行っていたみたいですね。坂下の酒屋まで歩いて酒を買い、一升瓶を提げてぶらぶらと家に戻る途中、鳥か獣か、変な鳴き声を聞いたと言うのです。チェイーという気味の悪い甲高い鳴き声で、昔、何処かで聞いたことがあるけど、思い出せない。そう言ったそうです」

「それで?」

「他に何か見たり聞いたりしていないか尋ねたところ、何も覚えていないと答えたそうですが、明らかに何か思い出した様子だったと生長さんは言っていました」

「何でしょうね?」

「分かりません。うっ!」と圭亮はまた、えづいた。

「しかし、鬼牟田先生。被害者は宝来宗治でした。息子の直樹じゃありませんでしたね」

「そうですね。直樹さんの失踪は一連の事件に関係が無かったのかもしれませんね。噂通り、単なる家出だったのかもしれません」

 圭亮はどこか浮かない様子だった。


 美嶽瑠璃子の美貌に驚かされた。

 日本人離れした整った顔立ちに、凛とした品があって、光り輝くような美しさという表現がぴったりだった。奈保子の美しさの源泉を見た思いだった。

 現場取材を終えた後、美嶽セメントに戻ると、貴広から「うちで一緒に食事をしませんか?何分、田舎のことですので、お口に合うかどうか分かりませんけど」と夕食に誘われた。藤代と菊本はホテルに戻って編集作業があるということで、美嶽家に世話になる西脇と圭亮が食事に呼ばれることになった。

 美嶽家へまでは貴広が自ら車を運転して連れ戻ってくれるという。

 冬の日暮れは早い。

 会社を出ると夕闇が辺りを覆っていた。休み無く稼動を続ける美嶽セメントは、工場の明かりで昼間のように明るかったが、工場の前を流れる今井川は、工場の明かりが届かず、まるで地が避けて暗闇がぽっかりと広がっているかのようだった。

 美嶽家は美嶽セメントから目と鼻の先の距離にある。美嶽家の庭から続く山道を歩けば美嶽セメントに行き着く。車だと一旦、川沿いを暫く走った後、交差点を直角に曲がり、坂道を上った場所に美嶽家があった。

「ようこそいらっしゃいました」と出迎えてくれたのが美嶽瑠璃子だった。

 その美しさに呆然としていると、瑠璃子の背後からぼさぼさの長髪に髭面の男が顔を出した。らんらんと輝く目で西脇と圭亮を睨みつけている。睨み殺そうとしているかのようだ。白目勝ちの異様に鋭い目付きをしている。子供だったら泣き出しそうな面相だ。

 瑠璃子と並んで立つと、正に美女と野獣だった。

 目立つ上下の緑色のジャージを着ている。美嶽家に住み込みで働いている後藤という男だと紹介された。優雅な美嶽家に似合わない。どういう素性の男なのか気になった。

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