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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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猿神の罠②

 規制線を跨いで、本殿の賽銭箱に近づく。

 取り巻きのように二人についてぞろぞろと歩いて行く。西脇は漏れ聞こえてくる二人の会話を聞き逃さないように耳を澄ましていた。傍らの藤代も真剣な表情で聞き入っていた。

「ここ、賽銭箱の前の目立つ場所に、こちらを向く形で生首が据えられていました」

 まるでさらし首だ。「ぞっとしますね」

 賽銭箱の前に黒く変色した場所があった。恐らく、そこに生首が置かれていたのだ。きっと憤怒の形相で参拝に来る人を睨みつけていたに違いない。第一発見者は肝をつぶしたことだろう。

「碇屋恭一さんはここに来る前に食堂で食事をとった際に、マゴに会ったと言っていたと聞きました」

「よくご存じだ」

「碇屋恭一さんに孫はいません。彼の言ったマゴについて捜査は進んでいるのですか?」

「それが大事なことですか?」

「分かりません。ですが、気になります。マコさんという人に会ったと言ったのを女将さんが聞き間違えたのかと思ったのですが、別の可能性に思い当たりました」

「何でしょう?」

「ほら。馬子にも衣裳という言葉があるでしょう。その馬子です。昔、馬の世話をしていた身分の低い人を馬子と呼んだそうです。誰かを馬鹿にして言った言葉ではないでしょうか?」

「碇屋恭一氏は漁協に出るようになってから、学がないことを気にしてようです。四文字熟語や故事成語を会話に入れて、ひけらかすところがあったと聞きました。誤用が多くて、却って陰で馬鹿にされていたようですが」

「学歴は?」

「高校中退です。碇屋恭一氏が昼間、誰かに会ったとして、それが事件にどうつながるのか」

「何か犯人につながる証拠は残されていなかったのですか?」

「見つかっていません。境内に碇屋恭一氏が乗って来た車が停まっていました。恐らく、犯人も車で来たのでしょうが、御覧の通り、神社までは舗装道路だし、境内は砂利です。足跡もタイヤ痕も残っていませんでした。こんな寂れた場所です。目撃証言も皆無でした。ご覧の通り田舎です。ここに限らず町中、防犯カメラなんて、ほとんどありませんからね」

「まるで猿神の仕業ですね」

「猿神?」

「この神社は猿神を祭っていると聞きました。碇屋恭一氏は猿神の罠にかかってしまった。悪さをして、猿神に胴体を食べられてしまった」

 圭亮の言葉に生長が渋い顔をした。


 日が落ちるのと競争するかのように宝来家に急いだ。

 宝来家は神社の参道を下って直ぐの場所にある。坂道を一気に下り、山道との分岐点で車を泊めた。道が多少、広くなっている。ここから宝来家は目と鼻の先だ。

 神社の参道の入り口に宝来家はあった。こぢんまりした戸建ての民家で道路に面した家の周囲がブロック塀で囲われている。ブロック塀と建屋の間には、人が一人、ぎりぎり通ることができる隙間があった。そこから裏庭に回り込むことができる。手入れが悪いので、塀と建屋の間には雑草が生い茂っていた。門には小ぶりな民家に不似合いな立派な御影石の表札がかかっていた。

 宝来家の門には黄色い立ち入り禁止の規制線が張られていた。

 生長がドアを開けながら圭亮を中へと案内する。「鬼牟田さん、鑑識による証拠の採取が終わったばかりです。中は少々、刺激が強いかもしれません」

 殺人事件の現場に立ち入った経験などない。暢気な圭亮も生長の一言で、一気に緊張した様子だった。

 西脇たちは門前で待機させられた。

「入ってみたかったですね」と藤代が言うので、「見ていて下さい。先生、直ぐに出てきますよ」と半笑いで西脇が言った。

 今回は浅井が中に入らずに残っていて、「何故です?」と聞いてきた。

「先生、小心者でグロいのがダメですから、直ぐに気分が悪くなって出てくると思います」

 西脇が返事をすると、「はは」と浅井が笑った。

「刑事さん。被害者は宝来宗治さん、そうですよね?」藤代が尋ねる。

 被害者の姓名はまだ発表されていない。

「ぼちぼち警察発表が終わる頃ですから言っても構わないでしょう。そうです。宝来宗治氏です」

「串刺しになっていたという噂ですけど」

「う~ん」と浅井はうなってから「否定はしません」と答えた。

「串刺しですか~⁉こりゃあ驚いた。刑事さん。見ました?」

「現場は見ましたよ。そりゃあもう凄惨な現場でした」と浅井が言った時、「ひっ!」と家の中から悲鳴が聞こえた。圭亮の悲鳴だ。

「はは」と三人で笑った。

 西脇が浅井に聞く。「ところで、生長さんって、どういう方ですか?」

「長さんですか。県警刑事部捜査一課のエースですよ。優秀な刑事です。今回の事件の捜査責任者として県警から派遣されて来ています」

「そんなに優秀な刑事さんが、我々の相手をしてくれている訳ですね」

「別に、あなたがたマスコミの面倒を見ている訳ではありません。警視庁のお偉いさんからうちの部長に話があった、あの、鬼牟田という人の相手をしているだけです。正直に言えば、捜査に人手が足りなくて、鬼牟田さんの相手をしている時間さえ、もったいないのですけどね」

 随分、はっきりとものを言う青年だ。警視庁のお偉いさんとは須磨のことだろう。西脇が考えていたのより、ずっと大物のようだ。今度も利用できそうだ。是非、圭亮には今の関係を維持していてもらいたい。

「それで生長さん、渋い顔をされているのですね」

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