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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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猿神の罠①

 冬の日暮れは早い。次の殺害現場である神社まで急がねばならない。ワゴン車は軽快に山道を飛ばして坂道を駆け下りた。

 今度は下りなので、二十分ほどで山裾まで降りることができた。ここから神社の境内までの迂回路を登れば、直接、車で乗り入れることができる。細長い階段が参道として一直線に伸びているが、神社の境内まで車が上がっていけるように、側道が斜面を大きく蛇行して神社の境内まで伸びているのだ。砂利を踏みながら、神社の急坂を一気に駆け上った。

 山申神社の境内に到着した。

 境内には砂利が敷き詰めてあった。真ん中部分が黄色い立ち入り禁止の規制線で囲われている。本殿の賽銭箱の周りにも黄色いテープが張り巡らされている。こちらは生首が供えられていた場所に違いない。

 生長はまた西脇たちを規制線の外に待機させると、圭亮を従えて規制線を跨いだ。

 昼下がりの神社は参拝客もなく閑散としていた。耳を澄ませば何とか生長と圭亮の会話を盗み聞くことができた。西脇と藤代は顔を見合わせて軽く頷いた。

 生長は境内にある規制線の中で地面を指差しながら「碇屋恭一氏はこの場所で殺害され、鋭利な刃物で首を一刀両断、切り落とされたものと考えられています。碇屋恭一の死因は、頭部を切断されたことによる失血死でした。切断面から生活反応が見られました。生きたまま首を切り落とされたことになります」と口にした。

「ひぃ!」と圭亮は小さな悲鳴を上げながら、「碇屋恭一という人物は、確か漁師で、網元の跡取り息子だと聞きました。鋭利な刃物で首を切り落とされるなど、犯人によほど恨まれていたようですが、一体、どういう人物だったのでしょうか?」と生長に尋ねた。

「手の付けられない乱暴物だったようです。最近は父親の代理として漁協に顔を出していたので大人しくしていたようですが、漁師仲間によると、一度、キレると手がつけられないところは変わっていなかったそうです」

「この事件の犯人は、わざと自らの力を誇示するかのように人を殺害しています。碇屋恭一氏よりも自分の方が上であるということを示したかったのかもしれません。犯人は日頃、碇屋恭一氏から虐げられていた。その鬱憤が爆発し、残酷な殺害手段に訴えた。そう考えられます」

「我々もそれは考えました。碇屋恭一氏に恨みを抱いている人物は少なくありません。現在、対象者を絞り込んで捜査を行っております」

「すいません、勝手なことばかり言って。こうやって推理を積み重ねて、一つの結論にたどり着くのが僕の分析手法なものですから」

 圭亮は長い身体をくねらせた。仕草が子供っぽい。西脇はハラハラしながら圭亮を見守っている。まるで保護者だ。

「いえ」と生長は短く答えただけだった。

 生長がこちらを振り向いた。西脇と藤代は慌ててあらぬ方向に目をやった。盗み聞きを気づかれたかもしれない。

 規制線の中にいた浅井が規制線を跨ぐと、こちらに歩いて来て手を振った。「ダメですよ。カメラは――」

 振り返ると背後で菊本がカメラを回していた。直ぐに「すいません」とカメラを降ろしたが、西脇は、よくやったと褒めてやりたかった。これで少しは使えそうな絵が撮れた。

 生長と圭亮は規制線を出ると拝殿に向かった。生首が供えられていた場所だ。それっと、西脇たちも移動をする。間隔を開けながらついて行く。二人の会話を聞き洩らさないように、西脇も藤代も無言だ。

 何故か最後尾を浅井と菊本が並んで歩いて来る。「はは」と浅井の笑い声が聞こえた。若者同士だ。話が合うのだろう。

 拝殿の前で圭亮は手を合わせた。参拝なのか死者を悼んでいるのか分からない。「凶器について特定はできているのでしょうか?」圭亮が尋ねた。

「いいえ、まだです。刀身の長い鋭利な刃物だと言うことは分かっています」

「どうしても日本刀を連想してしまいますね。一刀両断、首を切り落とすなんて、日本刀でなければ無理でしょう。犯人は碇屋恭一さんの胴体を持ち去っています。生首伝説では高階泰章は碇屋嘉平の生首を持って宝来家にやって来ましたが、胴体は碇屋家に置いたままでした。手に槍を持っていたからでしょう。槍と生首で両手が塞がっていた訳です。ほんのちょっとした違いですが、生首伝説との違いが気になります」

「ああ、生首伝説。あれには参りました」生長が渋い顔だ。

 放送後、県警より生首伝説について問い合わせがあった。報告が上がっていない。聞いていない。どうなっているのだという叱責と共に美嶽貴広から聴取を行うように指示を受けたという。

「余計なことをとは言いませんが――」生長は言葉を切った。須磨にも言われた。事前に一言欲しかったと言いたかったのだろう。

「すいません」別に圭亮の責任ではないが、謝るしかなかった。

「いえ。我々の聞き込み不足でした。ところで、何故、犯人は碇屋恭一氏の胴体を持ち去ったのでしょうか?」

「そうですねえ~正直、分かりません。碇屋恭一氏の胴体部分はまだ見つかっていないのですか?」

「捜索は続けているのですが見つかっていません。山に埋めたか、海に捨てたか、この辺は都会と違って死体の処理には困らないところですからね」

「胴体部分に、人に見られては困る痕跡をつけてしまったからではないでしょうか? 犯人であることを指し示すような」

「痕跡ですか?」

「傷跡なのかもしれません。特殊な凶器を使ったとか。死因は分かっているのですか?」

「頭部に目立った外傷はありませんでした。胴体部分が見つかれば死因を特定することができると思うのですが」

「それが胴体部分を持ち去った理由かもしれませんね。死因を特定されたくなかった」

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