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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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力の誇示④

 規制線の前まで来ると、「ここから先は鬼牟田さんのみで、テレビ局の方はご遠慮下さい」と生長が言った。仕方がない。現場を案内してもらえるだけで勿怪の幸いだ。生長の機嫌を損ねたくない。西脇は不満そうな藤代を「ここで待ちましょう」となだめた。

「撮影しても大丈夫ですかね?」藤代が聞く。

「刑事の顔さえ映さなければ大丈夫でしょう」

「まあ、ここからの絵ならすでにテレビで流れていますからね。おい」と藤代は菊本に「鬼牟田先生の絵を撮っておけ」と指示を出した。

 生長は一本の大木の前に圭亮を案内すると何か説明している。

「あの木に東野正純が吊るされていた訳ですね?」

「でしょうね」

「どの枝ですかね?」

「一番、低いやつじゃないですか?」

「それだとちょっと細いような」

「でも、その上の枝だと地面から距離が()()ありませんか?」

 藤代と会話する間も、生長と圭亮の会話に耳を澄ませていたが、遠すぎて聞こえなかった。やがて、圭亮と生長が話を続けながら戻って来た。

「――に自殺を偽装しようと言う意図はなかったのではないかと思えます」と圭亮が言っている声が聞こえた。

 圭亮は軽々と規制線を跨いだ。それを見た生長と浅井は一瞬、戸惑った後、規制線を潜った。まるで巨人だ。長身の生長をもってしても圭亮の前では小さく見える。

「さて、次に参りましょう」生長が言う。

 行きはよいよい帰りは怖い。降りた分だけ登らなければならない。一行は黙々と斜面を登り始めた。体力を消耗するが、やはり上るのは下りるのより楽だ。

「チョウさん、大丈夫ですか?」浅井が生長に声をかけていた。歩き慣れている刑事でもきついようだ。

 苦しい息の下で生長が答える。「チョウさんって・・・呼ぶな・・・はあ、はあ」

「だって、イキさんじゃあピンと来ないし、名前のカズさんと呼ぶと生意気でしょう」

「お前が・・・チョウさんって呼ぶものだから、最近・・・一課の連中が・・・みな・・・俺のことチョウさんって呼び出した」

「良いじゃないですか。チョウさんって、名刑事の響きがありませんか?」

「ああ、そうですね~」横から、圭亮が相槌を打つ。生長が渋い顔をする。

 何とか坂を上り切った。道路に出る。

 道路まで這い上がった時には冬山で気温が低いとは言え、汗ばむほどだった。皆、息が切れていたので、暫く呼吸を整える。若い浅井と菊本は平気そうだ。特に菊本はカメラを持って上り下りをした。体力がある。健康オタクらしい藤代は息を切らせていたが、もう元気を取り戻していた。日頃から体を動かしているからだろう。

 西脇と圭亮だけが、ぜいぜいと荒い息を吐き続けていた。

「この先にUターンできる場所があります」浅井が車に乗り込んだ。生長が倒れ込むように車に乗り込む。ぜいぜいと荒い息をしながら西脇と圭亮も車に乗り込んだ。苦しい息のもと、西脇が圭亮に尋ねる。「せ、先生。い、生長刑事とどんな話をしていたのです?」

「や、やはり、ひ、東野正純さんは自殺したのでありませんね。く、詳しいことは言えませんが、自殺とは思えない点がいくつかあります」

「じ、自殺するには、枝が高すぎることですか?」

「西脇さんも気が付いていましたか。遺体は地面から一メートル以上も浮いていたそうです。あの木の周りには踏み台になりそうな切り株や岩もありませんでした。首を吊るとしたら木の枝から垂れ下がったロープを両腕で掴み、懸垂の要領で上体を持ち上げてロープに首を通し、首を吊ったか、幹にロープを結んでから木の枝に上り、首にロープを巻いて枝から飛び降りなければなりません。東野正純さんは優男だったようなので、懸垂は無理でしょう。首にロープを巻いて飛び降りるのは怖いですし、お兄さんの証言では、彼に自殺なんてする度胸はなかったということだったみたいです」

 他にいくらでも足場の良い首吊りに適した木がある。わざわざあんな場所で苦労して自殺をしたと言うのは変だ。

「それに遺体は革靴を履いていたそうです」

 調子にのって生長から聞いた捜査状況を話してしまっている。

「山歩きには不向きですね」

「それもありますが、山道から木の周りにかけて長靴らしき足跡はあったそうですが、革靴の足跡はひとつも残っていなかったそうです。脅して連れて来て、あの場所で殺害し、遺体を吊るしたのではないかとも考えましたが、それも違うようです」

 遺体が運ばれて来たということだ。わざわざ遺体を担いて急斜面を下ってきた。信じられない。道路から往復するだけで、これだけ大変だったのに。犯人は恐るべき体力の持ち主だ。

「東野正純は殺されたと、先生もそう思っているのですね?」

「はい。彼は殺され、遺体がここまで運ばれた。そして木に吊るされたのだと思います」

「どうしてそんな面倒なことを?」

 誰だってそう思うだろう。

「分かりません。ただ、僕は――」と圭亮が考え込む。

 ふと圭亮が言った言葉を思い出した。「力の誇示ですか?」

「はい。重たい遺体をここまで担いできて、足場の悪い山の斜面の木の上に吊るす。とても常人のなし得える業ではありません。他殺に見せかける気もない。まるで、どうだ、俺にしかできないだろうと強烈にアピールをしているように感じます」

 藤代が口を挟む。「何故、力を誇示しなければならなかったのでしょうか?」

「難しいですね。犯人は日頃、抑圧された環境にいた。自らの力を誇示したいという欲求があり、そのストレスが爆発した。被害者に対して、自分の方が格上なのだということを思い知らせた。そうも考えられます」空港で圭亮は同じようなことを言っていた。

 続けて圭亮が言った。「だけど、違うかもしれません。もっと別の複雑な事情がある。現場を見て、そんな気がしてきました」

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