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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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力の誇示②

 二人並んで動く歩道を歩いて行く。「現地での宿泊先ですけど、今井町には宿泊施設が無いようです。そこで、隣町のホテルを予約しようとしましたが、ほら、先日、お会いした例の美嶽社長から、うちに泊まってはどうかと申し出がありました。町を取材するのに便利ですし、先生、今井町の歴史の話をとことん聞くことが出来ますよ。流石に、大勢で押しかける訳には行きませんから藤代さんと相談の結果、僕と先生の二人がご厄介になることにしました」

「藤代さんたちはどうするのですか?」

「藤代さんたちは既に柳井のホテルに宿泊中です。毎日、通ってくれます。車で三十分もかからないということです」

「大丈夫ですか?ご迷惑じゃありませんか」

「美嶽社長から是非にと言われています。それに、ほら、娘さん、飛び切りの美人だし、同じ屋根の下、独身の先生には楽しいかもしれません」

「そんな、西脇さん」

 他人の家に泊まるなど、神経質な圭亮には気苦労の多いことだ。だが、心の何処かで奈保子と再会できることを喜んでいるに違いない。

「ところで、先生、この事件の犯人について、どう考えていますか?」

「そうですね。東野正純さんは自殺ではなく殺されたのだと思います。一連の事件が同一犯の仕業だと仮定してみましょう。犯人は自殺に見せかける為に、東野正純さんの遺体を木に吊るした。実に骨の折れる大変な作業を行っています。碇屋恭一さんは首を切り落とされ、胴体部分は未だに見つかっていません。首を残して、重たい胴体部分を持ち去っている。宝来さんの事件は詳細が発表されていませんが、槍で串刺しになったのだとすると、犯人は異様に力の強い人間だということになります。僕は犯人の力の誇示を感じてしまいます」

「力の誇示ですか?」

「はい。犯人は強靭な肉体と精神を持った人物のような気がします。そして、自らの力を誇示したいという欲求がある。日頃、抑圧されていて、その恨みが積み重なって爆発した。そして遺体に対して自分の方が格上なのだということを思い知らせた。例えるなら、そんな感じです」

「現地でそんな人物を探し出すことができれば犯人だということですね」

「まだ、よく分かりません。今はそう思っているだけです。現地で、色々なことを見聞きすると、また違う考えが頭に浮かぶかもしれません」

「須磨さんから何か言われましたか?」

「現地入りしたら、生長(いきなが)さんという刑事を訪ねて、彼の指示に従うように指示を受けました」

「警察の内部情報を教えてもらえそうですか?」

「それは分かりません」

「普通に考えて、一方通行でしょうね。我々が掴んだ情報は吸い上げるけど、何も教えてはくれない。警察なんて、そんなものです。でも、まあ、先生、先ずは、生長さんを訪ねることにしましょう。そして、現地では生長さんの指示に従って動きましょう」

 現地で警察と喧嘩をして良いことなどない。

「はい」圭亮が子供のように頷いた。


 広島空港から中国自動車道を飛ばし、午後二時過ぎに今井町に到着した。

 空港には、藤代とカメラマンの菊本の二人が、ワゴン車で出迎えに来てくれていた。藤代は饅頭のような顔に笑顔を湛えながら二人を出迎えてくれた。顔は丸いが意外にしまった体つきだ。聞くと「走るのが趣味です」という健康オタクだった。

 菊本は一重瞼に低い鼻、弁当箱を思わせる顔だ。無口な若者で、終始、黙ってハンドルを握っていた。「僕、人見知りなのです」と自分で言うくらいなので、親しくなればしゃべってくれそうだ。

 圭亮は飛行機が苦手とあって、機内では、終始、強張った表情でひじ掛けを握り締めていた。隣に座った西脇はと言えば、飛行機が羽田空港の滑走路を移動している頃にはすっかり熟睡していた。結局、広島空港に到着するまで目を覚まさなかった。

「良いですね~飛行機で熟睡できるなんて羨ましい。西脇さんは」珍しく圭亮が皮肉を言う。

 広島空港から自動車道を飛ばして山口県へと入った。やがて、車は自動車道を降り、海岸沿いの国道を走り始めた。

 海岸へと押し寄せるなだらかな山と瀬戸内の穏やかな海との間を縫うように国道が走っている。海岸線を走る道を右に左にカーブを切りながら車は進む。睡魔が圭亮を襲い始めた時、車は突如、山間に開けた細長い町へと進路を変えた。

 今井町だ。町の中央を流れる川が、山を削ぎ落とし、平地が細長く続いている。恐らく町のメインロードを走っているのだろう。道の両側には民家と田畑が延々と続いている。やっとあった店はシャッターの降りた酒屋だった。都会で見たことのないコンビニを通り過ぎ、川沿いの道を走る。山手方向に向かうと、やがて道は工場の正門に突き当たった。美嶽貴広の経営する美嶽セメントだ。

 車中、藤代から美嶽セメントの副社長であり社長夫人の美嶽瑠璃子の好意で、仮設捜査本部が会社の会議室におかれていることを聞かされた。

 柳井警察署に捜査本部が置かれ捜査が行われているが、県警では今井町に拠点が欲しかったようで、初めは町民館に仮設の捜査本部を置くことを検討していた。美嶽瑠璃子は町内会長を勤めており、町民館の使用について柳井警察署より相談を受けた際に、美嶽セメントの会議室を捜査本部として利用してはどうかと提案した。広いだけで町民館には椅子や机、それに電話やホワイトボードなどの設備がない。何かと不便だった。

 美嶽セメントの会議室なら、冷暖房完備でホワイトボードは勿論、ファックスもある。テーブル毎に電源があるし、会社の無線が使い放題だ。パソコンが自由に使える。

 また、二、三人なら会社の寮に空きがあるということで、県警から出張ってきている刑事が美嶽セメントの独身寮に宿泊しているらしい。

 圭亮は広島空港で須磨から聞いた生長の携帯電話に電話をし、今井町に向かっている旨を報告しておいた。「分かりました」とこちらも口数が少なかった。

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