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生首の神饌  作者: 西季幽司
第一章「生首村」
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串刺し③

 驚いた。予想外の展開だ。いや、ある意味、予想通りの展開と言えた。第一報は思いもよらないところからもたらされた。

 情報源は美嶽奈保子だった。

 インタビューが行われたあの日、あの短い間に、アシスタントの田中久美は美嶽奈保子と連絡先を交換していた。今しがた、奈保子から久美に電話があったと言う。奈保子の話の内容に驚いて、久美が西脇に電話をかけてきた。

 日頃の寝不足から、家にいる時は半分寝ている状態だ。この奈保子からの連絡がサタデー・ホットラインの放送が終わり、久々、自宅でくつろいでいた西脇に爆撃を食らわせるようなショックを与えた。一気に目が覚めた。

「死んだ~⁉ 殺されたのかい?」

 思わず声が大きくなる。受話器の向こうで久美が答える。「みたいです」

「だ、誰が? 誰が殺されたって言うの?」

「まだはっきりとしないそうですけど、恐らく宝来宗治さんじゃないかという話です」

 奈保子によれば村外れの宝来家に警察官が大勢、押し寄せていると言う。宝来家には現在、宗治しか住んでおらず、何かあったのなら宗治に違いないと言う。

「もっと詳しいこと、分からないの?」

「無理です。奈保子さんだって、お母さんからのまた聞きなのですから」

 地元の母親に連絡を取ったところ、宝来家で何かあったみたいだという話を聞かされた。美嶽家は町の有力者だ。あちこち確認を取った結果、どうやら宝来家で死体がみつかったことが分かった。死体が見つかったとすれば宝来宗治以外にいない。

 気にしても仕方がない。あなたは東京観光を楽しんで来なさいと母親から言われたそうだが、奈保子は気になって仕方がなかった。町の友人に連絡を取ったが母親から聞かされ以上のことは分からなかった。いや、宝来家で何かあったなど知らない者ばかりだった。そこでテレビ局なら何か知っているのではないかと、久美に電話をかけてきたのだ。

「鬼牟田先生は名探偵だとお聞きしました。一刻も早く今井の町に来て頂いて、事件を解決してもらえないでしょうか?」奈保子からそう頼まれたと言う。

 電話を切ってから西脇は考え込んだ。

 昨日、放送で宝来家の子供たちに危険が迫っているかもしれないと伝えたばかりだ。父親だったとは予想外だったが、宝来家の人間が殺されたことに間違いなさそうだ。他局の先駆けて仕入れたこの情報をどう使えば視聴率に結び付くのか考えていた。まだ噂に過ぎない情報だ。うかつに公共の電波に乗せる訳には行かない。確認を取る必要があった。

「夜分にすいません」藤代に電話をかけると、宝来家で何かあったようだという伝え「何とか裏を取れませんか?」と頼んだ。

 藤代は興奮した様子で「やってみます。もし本当なら、天と地がひっくり返るような大騒ぎになります。週末の放送、西脇さん、随分、思い切ったことをするなと感心しながら見ていました」とハスキーボイスで言うと電話を切った。

 手早く身支度を済ませると家を出た。

 テレビ局に着くと、寺井がいた。「西脇さん。大変なことになりましたね。きっと来ると思っていました」と言う。

「久美ちゃん、君にも連絡をしたんだ」

「久美ちゃん?」

「宝来家の話、久美ちゃんから連絡があったんじゃないの?」

「何、言っているのです。西脇さん。テレビ、ニュース、見ていないのですか?」

「ニュース?」

「今しがた山口県警から発表がありました。宝来家とは言っていませんでしたけど、今井町でまた死体が見つかったそうです。死体に外傷があり、県警では殺人事件として捜査するそうです。それに――」と寺井が言った時、西脇の携帯電話が鳴った。

 藤代からの電話だった。「やられました。西脇さん」と藤代は言う。

「山口県警から今井町で新たに死体が発見されたことが発表されました。それと併せて、東野正純の死亡推定時刻が碇屋恭一の死亡より前だったことが発表されました」

「東野正純は碇屋恭一が殺害される前に死んでいた⁉」

「必然、東野正純に碇屋恭一は殺せない。東野正純の死についても不振な点が見られ、自殺、他殺の両面で捜査を行っているそうです。騒ぎが大きくなるのを防ぐために、発表を遅らせていたようです。それが三件目の事件の発生を受けて、とうとう隠せなくなった。そこで、一気に情報を公開したのだと思います」

「そう」と答えるのが精いっぱいだった。情報が多すぎて処理しきれない。

「西脇さん。賭けに勝ちましたね。山口県警は連続殺人事件として捜査を行うそうです」

「ああ、そうか」

 助かった。やはり東野正純は犯人ではなかった。もし間違っていたら、報道局長から雷を落とされるところだった。いや、首が飛んでいたかもしれない。

「被害者が宝来宗治だったことまでは確認できていません。詳しいことが分かりましたら、また連絡します」と言って藤代は電話を切った。

 藤代との電話を終えると、西脇は崩れるように椅子に腰を降ろした。やはり、心のどこかで危険な賭けに出たことを後悔していたのかもしれない。ほっとした途端に疲れが一気に押し寄せてきた。

 翌日には遺体発見の様子が明らかになって来た。

 被害者はやはり宝来宗治だった。宝来家は山申神社へと登る参道の入り口にある。神社に一番近い民家だ。

 事情聴取に来た捜査員が宝来宗治の遺体を発見した。

 警察発表では「遺体は激しく損傷していた」ということだったが、サタデー・ホットラインで生首伝説が放送された後だったためか遺体は伝説通りに串刺しになっていたという噂がまことしやかに流れた。

 今井町の事件は連続殺人事件として、再び世間の耳目を集めた。事件は終わったものとして報道を怠っていた他局は泡を食ってサクラ・テレビを追随し始めた。

 西脇は報道局長に呼ばれた。

「西脇さん。素晴らしい反響ですね」

 今度の報道局長は西脇のわずか二つ上、上背こそないが小麦色に日焼けした肌に切れ長の目のイケメンだ。国際部出身で西脇と接点はあまりない。国際関係には強いが国内の事件、事故を扱う社会部の仕事には疎いと聞いている。

「ありがとうございます」

「先週の放送で現地取材の話題が出ていましたが、どうなっていますか?」

「えっ⁉ ああ、すいません。局長にご相談する前に番組で言ってしまって」

 あれは宮崎の独断だ。クレームかと思ったが「何時、相談に来るのかと待っていたのですよ。鬼牟田先生を連れて、是非、取材に行って下さい。他局を出し抜いて、連続殺人事件だと暴いてみせただけでも大手柄なのに、これで事件を解決!――なんてことになったら、番組の注目度がうなぎ上りです。視聴率が跳ね上がります。西脇さん。期待していますよ」と逆にあおられてしまった。

「はい!事件を解決して、うちが独占で放送できるように頑張ります」

 西脇はすっかり舞い上がってしまった。

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