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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第12章
203/205

冷めた心を持つ者

その者はかつて雷猿の神童と云われた。確かにその者は他の同年代よりも強く雷魔法の適性もあり特質した存在だったのは間違いない。



しかしどれだけ神童と謳われても努力を怠れば凡人に成り果ててしまうもの。努力をせずにその地位を保てるのは一握りの天才くらいであろう。



彼は努力する事を怠ってしまった。



しかし幼少期から成長して大人に近づくと彼の黄金期が終わりを告げ、小さい頃から努力してきた者たちに次々と追い抜かれていった。



彼もようやく努力を始めたが、かつて優秀だっただけに彼は自分の伸び代に気づいてしまう。努力の差でその伸びがどれだけ違いが出るかも知ってしまった。



それでも彼は黄金期の輝きを忘れることができず、他の同世代が強くなって自分を追い越してゆくその光景に嫉妬心を募らせていき、その鬱憤を晴らす為に横柄な態度を取る様になった。



やがて、彼は部族内で腫れ物扱いされる様になり、それが彼のプライドを大きく傷つけて遂には禁忌を犯してしまった。



雷猿が最も大切にしているもので子育てにも必ずといって必要不可欠な果実である雷樹桃。それは食べれば雷の魔力に対してより強大な力を手にする事ができる。



しかしそれは大人が食べる際には許可が必要な上、その時はちょうど子育ての時期故に厳重に管理保管されていた。



その保管されている雷樹桃を食べれば今の幼子達が上手く成長出来ず今後生きていくのが危うくなってしまう。



だか、それがなんだと言わんばかりに彼は周りの制止を振り切って保管場所へ突撃してそこにあった雷樹桃と他にも備蓄してあった雷猿にとって有益な己の力を増幅させる物も食い尽くした。



それらを食い尽くした後、彼の身体に異変が生じた。



筋肉が見るからに増えて骨もより頑強となり、体毛が黄色から青白いものへと変化し全身に稲妻模様が大きくはっきりと現れた。



そしてその体内の魔力はまるで大海原の濁流の様に巨大で荒々しくなり呼吸をするだけでも雷の魔力が漏れて静電気が発生していた。



今までにない高揚感と全能感に心を躍らせ向かってくる古参を薙ぎ倒し自分を追い越して行った同世代と新参を返り討ちにしていった。



もはや誰も敵わぬといった時、ふと冷静になって周りを見渡せば自分に向けられる視線は称賛などではなく、恐怖と咎める様な視線だけ。



その視線達を受けた彼は胸の内がぽっかりと空白になった感覚に襲われ、先程までの高揚感と全能感は消え失せて代わりに憂鬱と苛立ちに似た何かが現れた。



その後、彼は部族を自ら去った。



それからというもの全てが退屈なものへと成り果ててしまった。何を食べても満たされず、強者と謳われていた者との決闘に圧勝しても満たされず。



欲しかった力は手に入れたのに何故こうも満たされないのか。それが分からず苛立ちが募るばかり。



やがて非干渉地に程近い場所に巣を構え、そのうち自分と同じ追放者が集まって集団ができた。そして一番強いからとリーダーをやらされているが、秩序などある筈もなく皆が思い思いに過ごして今日まで至る。




***




その日も追放組のリーダーをやらされている彼は惰眠を貪っていた。



数日前かその辺りに彼の取り巻きが非干渉地から人間の集団を攫ってきた。初めは大人と思しき奴らが拙い魔法で抵抗してきたが、そんな魔法はここでは赤子ですら使わない。



すぐに制圧し使えない大人の雄はその場で殺して()が使える大人の雌は欲が有り余った奴らの捌け口となって壊れ処分した。



他の人間の幼体も同様。使えない雄は潰して雌達の餌として雌は飽きるまで使って(・・・)壊れたら潰して雄と同様に餌とした。



人間の雌の味が気に入った奴らは数も少なくなってそろそろ追加で攫ってこようと相談していた。



一応見栄えのいい雌達はリーダーに献上したがリーダーは人間の雌に興味無く、放置していた。雌達もここなら比較的安全なのがわかっている様で寝ぐらの隅で大人しくしている。騒げば自分の末路がどうなるか実際に見て理解しているから。



そんな片方にとってよくある日常でもう片方はいつまで続くか分からない地獄の日々が続いていくだろうと思われたその時───



遠吠えが棲家を囲う様にして辺り一帯に響き渡った。その遠吠えは狼に似ているが歪でひび割れたものでどこか不安を掻き立てる様なものだった。



そして遠吠えが鳴り止まない内に外の奴らが騒がしくなり、やがて聴き慣れた蹂躙の音と悲鳴が鳴り出し、血の香りが風に乗って寝ぐらまでやってきた。



襲撃を受けている事を理解したリーダーが寝ぐらから顔を出すとそこには血で染まった棲家に殺されてはいないが手足が無惨に食いちぎられて苦痛に呻いている取り巻き、そして今まで見た事ない石の様な皮を持つ狼の群れを引き連れた獣モドキの雌がいた。



その雌は自分より頭1つ分小柄で栗色と銀の混ざった毛色をしていた。しかしその小柄な身体から発する気配は巣篭もり()の夜の如く冷たく、それでいて飢えた獣の様に荒々しいもので何よりその身体から感じる魔力は自分と同等かそれ以上。



リーダーは確信する。



風の噂で耳にした密林の新たなボス。それが今目の前にいるその獣モドキの雌──理玖だということを。




彼は寝ぐらから出て、まだ己を見ていない理玖へと歩みを進めた。



重傷を負った取り巻き達に対して仲間意識は無いが仮にもリーダーなら襲撃を受けた時対処するもの。



何より………目の前の彼女が自分のあの禁忌を犯したあの日から消えない憂鬱とした苛立ちから解放してくれるだろうと思ったから。



全身に軽く魔力を纏わせる。そうするだけで空気がバチリッと弾ける。音に反応してかそれとも最初から待っていたのか理玖はゆっくりとリーダーの方へ視線を向ける。



種族が違くても整っているとわかるその顔には紫の宝石の様な目があった。



リーダーははっきりと向こうが自分の姿を視認したのを確信した瞬間、地面を蹴り上げて挨拶代わりに雷の魔力を纏わせた拳で頭に向かって殴り付けた。



今までならその拳を受けた者は頭が消し飛ぶか受け止めても軽くはない傷を受けた。しかし、目の前の彼女は片手でしかも傷一つ無くその拳を受け止めた。



リーダーは牙を剥き出し笑う。ようやく骨のある相手に出会えてと。



理玖は表情を変えない。特に何でもないただの作業だと言わんばかりに。

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お猿の仲にも社会ありか(٥↼_↼) 弱肉強食が唯一の野生の法律(◡ω◡) はみ出し組の大将がどれ程やら(⌐■-■)
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