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爆龍VS大魔王

「────ッ!!」


 突如身体中を炙られてゆくような強い痛みが襲いかかる。


 掛け布団と呼べるか分からない程に薄い布切れを蹴飛ばし、自身を取り囲む牢屋の柵にしがみつき、わけも分からないまま悶絶する。


「ギ……ァ……な、なんだ……!?」


 制御が効かなくなって来たのか、意志とは反対に浮き出てくる龍皮。

 なんとかそれを押さえ付けるも、今度は身体中から湯気が立ち上るように黒い霧のような“ナニカ”が現れる。


 その霧はメギトの眼前に立ち塞がるようにして舞い上がり、ゆっくりと、なにかを宣告するように言った。


「……屍龍。これは爆龍の龍魔力だ」


「……ア゛ア゛!? て、て゛めぇ……!!」


 屍龍と呼ばれたメギトは、その黒い霧の正体を知っていた。


「こく……りゅ……!!」


「爆龍の燃え盛る龍魔力が、お前が仕掛けている兵隊共の龍魔力に干渉し、魔導回路を焼いて回っている」


「……んだ……そんなこと……出来るわけ……」


「本来、メテン同士の龍魔力の接合は“捕食”を除いて不可能。有り得ない話だが、別の誰かが魔導回路同士を接合する中継役を担っている可能性がある」


「んな事……伝えて……どうすんだ!?」


「死体との接合を解除しろ。自分の身を案ずるのであればだ。俺は再三忠告を重ねてきたはずだ。単身で龍小屋に挑むなと……!」


「……るせぇぞ!! クソが!!!」


 黒龍と呼んだ黒い霧を切り裂くように手で払い除ける。

 鉄柵にしがみつきながら必死に立ち上がり、自身の右手を掲げ、


「おい……! 出てこい!! スライム野郎!!」


 魔王の名を呼ぶ。


「これはとてつもないことだぞ! メテン君!!」


 右腕から分離するようにして現れた球体型のスライム、イルムは、まるでプレゼントを貰った子供のように独房の冷たい床を跳ね回りながら饒舌に語りだす。


「今焼かれているのは君の肉体じゃなくて君の周りに漂う魔道回路。つまり誰かの“炎系魔術”が君の龍魔力に無理矢理干渉し、魔導回路を焼いている状態なんだ! 他者同士の魔導回路の干渉なんて“そこそこ位の高い大魔導士”なんかじゃあ絶対にこなせない程めちゃくちゃ複雑なもの! それも未だに未知数と言われる龍魔力にできる奴がいるなんて……!」


「よく…わかんねえこと……言ってねえで……とめる……方法……ねえのか!?」


「単純なことだよ。交流してしまえばいい。逆に言えば、相手がわざわざ自分の魔力をこっちによこしてくれているんだから、釣り糸を手繰り寄せるように自分の魔力を辿っていけば相手の位置は分かるはずだよ」


「……わかったら?」


「僕がなんとかしよう。僕のお父さんがね。おーーーい!!」


 イルムは美青年の姿にかわると同時に、両手で口を覆って何かをよびかける。


「さけんでんじゃ……ねぇ…! きこえん……だろ!」


「ああ、あの看守僕の唇だから大丈夫」


 得意げに告げるイルムの呼びかけに応え、彼とは違った別のスライムがメギトの檻に入ってくる。

 初めて対面した時“元魔王”に変身してメギトをも慄かせてみせたスライムである。


「行ってこい! お父さん!!」


 イルムが指をパチンと鳴らし、そのスライムに向けて合図を放つ。


「ああ!? おい!! お、俺の右手に!?」


「叫んでんじゃねえ、きこえんだろ?」


 メギトの右手の中へスライムが潜り込んでゆく。


「……!!」


「今君の魔道回路を辿って僕のお父さんが向かっているよ。お父さんがスーパー魔導士さんを上手く邪魔してくれれば君は大丈夫!」


 イルムの魅せる満面の笑みと見事なサムズアップ。苛立つ余裕すらないメギトは、灰色の壁に自身の頭をぶつけ、痛みに耐え続けた。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「さてと……そろそろ来てもおかしくはないね」


 地中に溶岩のような液体を流し込み続けているキリュウの背を見つめ、クルドは呟く。


 ヒトの気配のない王都近辺は蒸し返り、陽炎が発生している。あまりの暑さにクルドは堪らずローブの着丈部分を掴み、パタパタと振り捌いてなんとか凌ごうとする。


「──────ッ!」


 そんな灼熱をひと裂きするように冷徹な視線が2人に向けられる。


「……きた」


 水色に輝く綿を浮かすクルドが呟く。

 地面から這い出てくるようにして、徐々に姿が露わになってゆく白髪オールバック黒マントの男。

 クルドはピクリを眉を動かす。


「……あいつ…確か“大魔王”…? あたしが9歳の時には死んだって聞いたけど……」


 大魔王はその病的なほど白々とした腕を突き出して、ごにょごにょと言葉にならないナニカを唱えだす。

 突き出した手から自身の身体よりも大きな白色の熱球体を発生させ、


「───ヴ・ヴァウア・オーヴァ!」


 熱球体はクルドではなく、未だに熱を注入したままでいるキリュウへと放たれていた。

 太陽のように煌々と輝くそれは直下の大地を抉るように溶かして進む。


「………」


 対するキリュウはその熱球体を一瞬たりとも視界に入れずに右手だけを翳して受け止める。

 その龍皮はイブキの“黒”とは少し違う、ほんの少しだけ赤みを帯びた“重油”のような黒色をしていた。


「……これが、お前たちのいう“タイラント”か……?」


 呟くキリュウは、ここではじめて自身に攻撃を放った大魔王を見やる。

 赤く染まった月夜のような双眸を尖らせ、更に次の攻撃に移らんとする大魔王。キリュウはまるで動じずにゆっくりと彼の元へ歩んでいき、大魔王の眼前で拳を握る。


「……邪魔だ」


 煌黒の右手が大魔王の腹を貫いた。差し違えるように放たれた大魔王の氷塊魔術は、キリュウの身体に触れうことすらなく、空中で溶けてなくなっていた。


「……うそでしょ」


「ん?」


 突如背後から聞こえた声。それを聞き取ったクルドは振り返って気配を確かめるも、何も変化のない風景に首を傾げる。


「流石にこんなとこくるヒトいないっか。あっついし」


 ため息をつくようにぼやいたクルドは、にらみ合う両者に視線を戻す。


「ボゥ・ブウ・ヴ!!」


「……?」


 腹に風穴が空いた状態でも顔色一つ変えずに攻撃を加える大魔王に、流石のキリュウも眉間にシワを寄せて手を引き抜き、その場を離れる。


 放たれた暴風の刃は龍皮化したキリュウの右手に吸い込まれてゆくように直撃。

 破れたスーツの裾を気にせずに、轟々と黒々と燃え盛る右手を握りしめるキリュウは、追撃呪文をしかける大魔王の元へゆっくりと歩を進め、溶解した岩石の粒を放つ。


「……ヌァッ!」


 対する大魔王。白色のマントを翻し岩石弾を防いだあと、掲げた右手から古びた金色の杖を発現させ、その先端にある紫色の水晶を光らせる。


「うわっ。めちゃくちゃな魔力だ……あたしの5倍はあるかも」


 水晶から発生する漆黒の暗雲。星々煌めく夜空はその暗雲に塗り潰されていき、気が付く頃には雷鳴ひしめく地獄のような模様へと変わっていった。


「天候を変えちゃった。完龍化したメテンでも出来るのと出来ないのがいるのに」


「ガ・ビビナ・ドンッ!!」


 解読不能の詠唱に合わせ、大小様々な雷が地上へと落下してゆく。

 それは狼狽するように空を見上げていたクルドの頭上にも容赦なく降りかかる。

 彼女は一瞬ヒヤリと顔を引き攣らせ、紙一重でこれを躱した後にキリュウへ向け、


「キリュウさん! けっこーやばいよアイツ! このまま王都とかまで雷広がったらめんどいって!」


「…………」


「……なんか言ってよ。まったく」


 何も答えないキリュウ。降り掛かってくる雷を両手で防ぎ、尚も杖を掲げて暗雲を広げる大魔王の元へと近づいてゆく。


「……ッ!!」


 拳を振り上げ、突進するキリュウ。大魔王は杖で三度ほど地面を小突くと、跳ね上がるようにその身が宙へと飛び、キリュウの猛攻を躱した。


「ビョウ・ガイ・ダッ!!!」


 呪文に合わせて杖は水色に光り、その直下に先程のものの三倍はあるであろう巨大な氷塊を生成する。


「さすがにやばいかな」


 ポケットから綿を取り出すクルド。

 大魔王の杖へ向けて放たれた五つの綿は、そこに辿り着くことなく見えない壁のようなものに弾かれて焼き焦げる。


自動防御壁(フルオート・バリア)……!?」


 大魔王はクルドを気にせず、家ひとつ分ほどにまで増大された氷塊をキリュウへ向けて放つ。


 身を潰して来るような勢いで落下する氷塊。真下に控えるキリュウはそれでも顔色一つ変えることなく両手を前に突き出し、


「……そろそろいいだろう。充分だ」


 キリュウの呟きと、氷塊が溶けて蒸発するまでの時間に大差は無かった。


 吹き荒れる突風はとてつもない熱気を乗せ、事前に対策を施していたクルドの皮膚すらも炙る。


「あちッ! うっわ……」


 その熱気の奥で伸びている翼は、まさに“赤黒いマグマがそのまま翼の形を持って広がった”かのような禍々しさを持っていた。


「……勝てる気がしないなぁ」


 再びクルドの背後に聞こえてきた“誰か”の声。

 その声は呆れたように、お手上げだと失笑するように“絶望”しているようだった。

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