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妨害の魔法


「おいおい、冗談キツいぞ」


 幾つもの雷に打たれた黄金の騎士だったが、しかしその体力ゲージはミリ単位でしか削れていない。まさか、魔法にまで有効打になり得ないのか。バッドステータスも物理攻撃も、魔法スキルも通用しないなんてことが有り得るのか? そんなモンスターが居ても良いのか。


 疑問と困惑に襲われるなか、女神の騎士【覇】は俺ではなく十六夜のほうに身体の正面を向ける。さっきの魔法で注意が十六夜のほうに行ってしまった。また直ぐに自分の方へと向かせなければ。


 纏まらない脳内で無理矢理決断を下し、がら空きの背中を目がけて一歩を踏み出す。


「どぅりゃああああああああああああッ!」


 そのかけ声と共に、上から獣人が振ってくる。俺よりも先に行動に出ていた者がいた。獣人ジャマー。鈴音は巨大な戦斧を振り掲げ、女神の騎士【覇】に攻撃を仕掛ける。それは斬り付けるなどという上品なものではなく、粗暴で荒っぽい叩き潰すという攻撃だ。


 その岩をも砕く一撃は、なぜか弾き返されず。黄金の鎧に食らい付き、更に引き裂いて見せる。体力ゲージもそれなりに削れ、ここに来て初めてまともなダメージが通る。


「ゆうなッ! 魔法耐性低下だよ!」


 着地と同時に十字を描くように横一線を喰らわせながら、鈴音は叫ぶ。


 見れば、いつの間にか黄金の騎士は暗色のエフェクトにかかっている。体力ゲージの上にも、バッドステータスを示すアイコンが表示されていた。あいつはバッドステータスに耐性を持っていたはずなのに。


「なんで……そうか、耐性貫通だ」


 たぶん、あの戦斧に耐性貫通の効果が付与されている。全ての耐性を無視して効果を与えること。それが耐性貫通だ。


 状況から判断するに、その効果を用いて女神の騎士【覇】を一度、攻撃し。耐性貫通が有効だと確信した鈴音は、続けざまに二撃目を喰らわせると同時に、妨害魔法のスキルを発動した。


 だから、弾かれる筈の攻撃が弾かれず、利かないはずの妨害魔法が利いたのだ。


 その結論に、十六夜も至ったのだろう。鈴音の声に応えるかたちで、魔法スキルは発動される。


 今度の魔法は雷の雨じゃあない。幾つもの炎の剣を飛ばして攻撃する、フレイムソードだ。燃え盛る刃は空を渡り、黄金の鎧を貫いて突き刺さる。魔法耐性低下のバッドステータスにより、その攻撃はより重く、大きなダメージをたたき出した。


 体力は確実に減らせている。十六夜と鈴音がいれば、なんとかなる。なら、俺の仕事は二人のサポート以外にありえない。


 踏み出した一歩に繋げて、もう片方の足を前に出す。黄金の騎士に向かう足は止めず、片腕を視界のはしへと伸ばして虚空を叩く。暗器使ウェポンマスターいの固有スキル、ウェポンチェンジ発動。装備武器を槍からハンマーへ。


 手にするのは、ジュエリー・テールのオリジナル武器、宝石鎚【黒曜石】だ。硝子によく似た性質をもつ黒い宝石を模した大鎚を携え。女神の騎士【覇】に肉薄した俺は、弾き返されるのを承知で宝石鎚を振り下ろす。


「……なるほど、こう言う攻撃には弱いわけだ」


 それに対抗する形で振るわれた大剣を押し退け、黄金の鎧と接触した宝石鎚は、けれど弾き返されなかった。


 逆向きに発生した力を、打撃の威力が上回ったのだ。単純な引き算、二から一を引いても一残る。引かれたぶん、ダメージに期待は出来ないが。しかし、このでかいハンマーで上から殴りつけ、弾かれないというのは、それだけで女神の騎士【覇】の動きを制限できることの証明だ。


「鈴音ッ」

「あいよっと!」


 脇を擦り抜けた鈴音が戦斧を薙ぎ払い、胴の鎧に深い亀裂を刻み込む。


「移動速度低下!」


 直後、鈴音の手が虚空を叩いたことで、ふたたび暗色のエフェクトが発生し、体力ゲージの上にバッドステータスのアイコンが増える。これで黄金の騎士は、一時的に両足を失ったことになる。


「畳みかけるぞ!」


 宝石鎚の一撃をもって、更に鎧の身体を押さえ付け。その隙を縫うようにして、十六夜の魔法スキルと鈴音の耐性貫通が本領を発揮する。一度、見付けた突破口を全力で突き進み。そして女神の騎士【覇】の体力を、折り返し地点である半分にまで削りきる。


 だが、状況が好転することはなく。あの時のゴブリンジェネラルのように、女神の騎士【覇】はその行動パターンや性質にいたるまでもを著しく変貌させる。


「ぐあッ」


 その時、一番近くにいたのは俺だった。ゆえに、その変貌の影響を色濃く受け、ダメージを負う。それは、その変化は、雷を纏うという形で現れる。黄金の鎧を駆け巡り、放電される雷が、至近距離にいた俺を押し退けたのだ。


 身体中が痺れている。感電のステータス異常が起こっているのか。動けないが、女神の騎士【覇】は移動速度低下のバッドステータスにかかっているから、これ以上の追撃はない。しかし、どうする。これじゃあ近づけない。


「一くん、平気?」

「あぁ、なんとかな。けれど、サンダーレインを喰らった気分だ」


 押し退けられた先が、ちょうど近くだったらしく。十六夜が駆け寄って来てくれた。


 掛けられた声に返事をして、痺れる身体をゆっくりと動かして立ち上がる。その頃には鈴音もこちらに来てくれ「はじめ、大丈夫?」と心配してくれた。それに「問題ない」と返し、俺の視線は変貌した女神の騎士【覇】に向かう。


「これじゃあ近づけたくても近づけないな」


 ほとばしる雷を見据え、黄金の騎士を警戒しつつ。俺の手は視界のはしに向かっていた。


 メニュー画面から手持ちのアイテム欄を開き、一覧の中からアイテムを選ぶ。そうして具現化されたのは、生命の宝玉という名前の回復アイテムだ。それを具現化させ、手の平にのせると、俺はそれを握りつぶした。


 そうすることによって砕け散り、粉にも等しい細かな破片となった宝玉は、俺達三人の身体に吸収されるようにして消滅する。これで俺達の体力は回復した。いま出来るのはこれくらいだ。


「魔法耐性低下のバッドステータスは、すでに効力切れ。これじゃあ私の魔法も、意味はないわね」

「うー、近づいて直接攻撃しなきゃ耐性貫通は仕事してくれないし、厄介だねぇ」


 あの雷は耐性の類いではないので、鈴音の戦斧でも無効化は出来ない。無効化するには、もっと別の方法が必要だ。こちらも雷に対する耐性をつけるとか。放電を全て躱して、懐に飛び込むとか。いずれにしても、現状では不可能に近いのだけれど。


「くっそー。なんで急に雷なんて出て来るかなー、もー」

「……いや、ちょっと待てよ。急なんかじゃあないのかも?」

「と、言うと? なにかしら、一くん」

「もしかしたら初めからあいつは、雷か電気を使っていたんじゃあないのか? 磁力、って形でさ」


 ゆっくりと、こちらに近付いてくる女神の騎士【覇】の挙動を監視しながら。推測の域をでない希望的観測を述べる。


「磁力……たしかに、その設定なら辻褄があうわね。磁力の維持に使っていた雷を、いまは放出しているというのなら。一応の筋は通っている」

「俺のハンマーを弾けなかったのは、たぶんその所為だ。すべての物理攻撃を弾くって効果なら、こうはならないはず」

「ってことはさ。いまの状態なら磁力がないから、物理攻撃が有効ってこと? でも、近づけないんじゃあ同じことだよ。あの雷の上に、あいつは普通に攻撃までしてくるんだから」


 そう、結局のところ、それが問題点だ。


 いくら磁力が放電に変わって、物理攻撃が有効になったとしても、近づけなければ意味が無い。魔法スキルにも耐性があり、弓矢による遠距離攻撃もあの雷に焼かれてしまうだろう。ならば、残る方法は一つだ。あの雷そのものを断ち切るしかない。


「二人とも、俺に良い考えがある」


 俺はそのたった一つの方法を二人に話した。


「本当に出来るのかしら? そんなこと」

「設定上はな。可能ってことになっている」

「んー、不確かな物に頼るのは不安で仕様がないけれど。いまはそれ以外に対処法がないしね。やるだけやってみようよ」

「……そうね、このままで埒が明かないのだし、移動速度低下のバッドステータスもそろそろ効力切れになる。かけてみましょうか、一くんに」


 話はまとまった。陣形として、俺が先頭を走るように前に出て、二人は後ろにつく。あとは、どうかあの雷を断ち切れるようにと祈るのみだ。俺は深く息を吐き、そして手で背後の二人に合図を出すと、意を決して走り出した。

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