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獣人の猫耳


 そうして雑談を交えながら食事は進み。皿の上も綺麗に空となったところで、俺達はようやくクエストのことについて話し始める。


「ふー、食べた食べた」

「鈴音さん。確認したいのだけれど、貴方は私達のパーティーに入ってくれる、ということで良いのよね?」

「ん? うん、そうだよ。はじめが、引っ越してくるならどうしてもって言うからね。事情もだいたい聞いてるよ。いまは、あれでしょ? 女神クエストの攻略中だとか」

「そうよ。そこまでは話が通っているのね」


 その通り、それはこの一週間の間に何度かあったテレパシーで伝えてある。


「あのさ、そのことで一つ聞きたいんだけれど。どうして二人だけで攻略しようとしてたわけ? 効率的なことを考えると、もう少し頭数揃えたほうが良いでしょ? これ」

「……そこまでは話が通っていないようね」


 その通り、そこまでは話していない。


「まぁ、物凄く簡単に説明するとだな」

「うん」

「こっちが人嫌いで、こっちがぼっちだから」

「……ほー」


 鈴音の反応は、その一言だけだった。


 一文字を長く伸ばしたあと、すこしのあいだ考え込むような仕草を鈴音は取る。どうやらさっきの説明だけでも、ことの現状を把握できたらしい。まぁ、あの短い説明だけでも十分だろう。なぜ、俺達が二人だけでパーティーを組んでいるのか、ということに関しては。


「うーん、人嫌いとぼっちか。そりゃあ無理だろうねぇ。というか、ぼっちだったんだ。はじめって」

「今年の春からな」

「ほほーう。なにやら事情がありそうだねぇ。まっ、それはさておき、クエストのほうは大丈夫でしょ。幸い、三人全員レベル90台だし、これだけ揃えば大半のクエストはなんとかなるよ。いまどれくらい進んでいるんだっけ?」

「女神の挑戦までは攻略済みだよ。残すは女神の試練だけになってる。まぁ、これには殆ど手を付けていない状態だけれどさ」

「んん? 一週間かけてそこまでしか行けなかったの?」

「まぁな、色々とあるんだよ。予定が合わなかったり、学校生活でストレス溜まったりさ」

「ふーん。なら、それも踏まえて作戦会議だね」


 女神と名の付くクエストの最終関門、女神の試練。


 このクエストでは、これまで登場したどの女神の騎士よりも強化された敵が出現する。白い鎧の女神の騎士。青い鎧の女神の騎士【改】。紅い鎧の女神の騎士【烈】と来て、最後にでてくるのは黒い鎧の女神の騎士【真】だ。


 必要討伐数は変わらず十体なので、かかる時間は更に長引くだろう。けれど、今回からは鈴音がいる。三人となったことで、どのくらい時間短縮が出来るのか。それによって、かなりモチベーションに影響が出て来る。


 そこのところは獣人ジャマーの鈴音に期待大だ。


「よし、ここら辺でログインしておくか」


 ファミレスでの作戦会議を終えて、時刻は午後一時をすこし過ぎたころ。俺達は店を出て誰も近寄らない廃工場にまで行くために、まず人気の無い場所でログインした。現実の身体から仮想の身体へとなり、私服から装備へと切り替える。


「おー、ちゃんと猫耳が生えるのか、獣人って」

「そうだよ。猫耳と尻尾がセット生えてくるの。あ、でも触っちゃダメだからね? ビンカンなんだから」

「神経通っているのか、それ」


 種族、獣人は伊達ではなく。鈴音には本当に猫耳と尻尾が生えていた。ちなみに、髪に隠れて見えないが、人間の耳はきちんと残っているらしい。


 装備に関して言えば、やはり動き易さを重視しているのか軽装備だ。ローブのような動きづらそうな物は装備しておらず。どこかの狩猟民族が愛用する武装のような、無骨で露出度の多い装備を身に纏っている。


 そして低身長なのに意外と胸がでかい。


「はじめのスケベ」


 不味い、気付かれた。


「男の前でそんな格好をするほうが悪い」

「仕様がないでしょ。この装備が一番、しっくり来るんだから」

「なら、我慢しろ。これは男のさがで、どうしようもない自然な反応だ」

「知ってる? それ開き直りって言うんだよ? はじめ」


 じっとりとした視線を鈴音から送られつつ、程なくして全員のログインが完了した。


 鈴音は十六夜のバトルドレス姿に惹かれたのか。「おー」という言葉とともにため息を吐いている。女でも女に見とれることがあるのか、と不思議に思ったが。しかし、そう言えば十六夜は男子だけではなく、女子からも頻繁に告白されていた。


 そう考えてみると、あまり不思議なことではないのかも知れない。一部では、十六夜のことをお姉様とよんであがめ、ひれ伏し、たてまつる女子の組織が存在するという。それと似たようなことなのだろう。


 そんなこともありつつ。俺達は鈴音を目的地まで案内するように移動し、廃工場にまで辿り着く。今日も今日とて、人気の無い寂れたところだ。いつも通り、周りを気にせずクエストに専念できそうである。


「にしても、寒くないのか? そんなに露出多くてさ」

「寒くないんだな、これが。獣人は体温が高いって設定だからね。ぽかぽかだよ」

「へぇ、便利だな。代わりに夏が地獄そうだけれど」

「言わないでよぉ、それが気がかりで仕様がないんだからぁ」


 鈴音は「うへぇー」と肩を落とす。夏はまだまだ先だが、事と次第によってはなんらかの対策を打たなくちゃあならないかもな。なにせ、異変が起こってからまだ季節は動いていないのだ。この先どうなるかなんて誰にも分からない。


「そろそろ始めましょうか」


 その言葉でふと気が付くと、いつの間にか廃工場の奥にある、広いスペースに到着していた。元は沢山の機械類が置かれていたであろう場所。金属の破片が転がり、油の染みが各所に点在する、こざっぱりとした空間だ。


「私がクエストを受注しておくから、後から参加してね」


 十六夜は指先で虚空を叩き、メニュー画面を操作する。


 それにならって俺達も視界にメニュー画面を展開させ。先に十六夜が受注したクエスト、女神の試練に参加する。三人がきちんと参加したことを確認すると、十六夜はまた虚空を叩いて操作を終了した。


 いましがた視界にクエスト準備中の文字とタイマーが表示されたところだ。


「じゃあ、作戦通りにあたしは行動するよ。はじめが狙った敵を優先的に弱体化させて、その他は移動速度低下のバッドステータスをかければ良いんでしょ?」

「それで間違いないわ。手が回らない分の足止めは、私の魔法と剣技で賄うから安心して」

「りょうかーい。信用してるからね、ゆうなっ」


 事前に決めた役割を再確認していると、あっという間に一分が過ぎる。


 タイマーはゼロとなり、クエストの内容通りに女神の騎士【真】は姿を見せた。両刃の大剣を掲げるように携え、正しき姿勢をもって佇む十体の騎士達。それらは初め、人形や銅像のようにぴくりとも動かない。だが、一定範囲内に足を踏み入れた瞬間、奴等は命を吹き込まれたかのように一斉に動き出す。


 一言も声を発することなく、一切の感情を見せることなく。ただ己が使命を全うせんと、目の前のプレイヤーに試練を与えるため、騎士はその大剣を振るうのだ。

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