旧知の仲間
Ⅰ
「さて、そろそろ出るとするか。伝票もーらい」
十六夜の隙をついて、伝票を取り上げる。
「あ……どう言う風の吹き回しかしら?」
「この前、回復アイテムをくれただろう? そのお返しだよ」
本当は相手がお花でも摘みに行っている間に、会計を終わらせているのが良いらしい。と、どこかの恋愛ドラマでみた。のだが、そういうのは面倒なので、手っ取り早く伝票を取り上げるという手段にでた。
この辺が俺のダメなところなんだろうな、という自覚はある。だから、ぼっちになるのだ。
「お返しって、架空通貨とリアルマネーでは釣り合いが取れていないわよ」
「こう言うことに釣り合いなんて考えなくてもいいんだよ。厚意には厚意で応える。そんなアバウトなものだぜ、こんなのは。それに、ここへ損得勘定を入れだしたら切りが無い。 お宅はラッキーって思っておけば、それで良いんだよ」
「……ラッキー、ね。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。けれど、次は私が払うからね」
「はいよ。それじゃあ行こうか」
なんだか鼬ごっこの様相を呈し始めたような気がするが、まぁ気にしないでおこう。
手早く会計を済ませて、俺達はファミリーレストランをでる。暖房のきいた店内から外に出ると、やはりいつも以上に寒く感じる。吐き出した息にも白い色がついて雲散霧消すしていく。
「うー、そろそろ一日で一番暖かくなる時間帯なんだけれどな」
「この時期の太陽は当てにならないわね」
「本当にな。でも、文句も言ってられないか。気張ってクエストに挑むとしよう」
寒さに震える身体を鼓舞して、ふたたび廃工場までの道を歩いて行く。そこからは小休止を何度か挟みながら、クエストを受注し続けた。
クエスト、推奨レベル50の女神の試験。
デフォルトな女神の騎士の強化版。青い鎧を身に纏う女神の騎士【改】の十体の討伐がクリア条件のクエストだ。更に強くなった女神の騎士が相手だが、攻撃手段はデフォルトの女神の騎士と変わらないので対処法は同じである。
一回のクエストに掛かる時間が多くなったものの、危なげなくクリアを重ね。空が茜色に染まり、夕日が地平線に沈み始めたころには、二つ目の女神装備、女神の籠手を入手することが出来ていた。
「ふー、今度はちゃんと十六夜のほうに出たな。……あれ? 今度は装備しないのか?」
苦労して女神装備を手に入れたのは良いけれど、十六夜は一向にそれを装備しようとしない。そんな素振りさえも、何故か見せないでいる。
「えぇ、重さの確認はもう出来たから、もう装備して確認する必要はないわ」
「んんん? ……あぁ、そうか。十六夜って一度パーツをすべて揃えてから、一気に装備するタイプの人間か」
「ご明察。かく装備を一つずつ順に装備していくと、なんだか不格好になるしょう? 私、それが嫌なのよ」
「あー、なんとなく気持ちは分かるよ」
そう言う拘りみたいなものを持っている奴は結構いる。十六夜みたな奴もいれば、もっと高性能な武器が他にあるだろうにと言いたくなるほど、一つの武器に愛着を持っている奴もいる。
この辺のことは個人の趣味だから何も言うまい。俺にも拘りみたいなものは持っているし、それをとやかく言われたくはないからな。
「でも、やっと半分か」
「まだ半分よ。しかも、これから敵が更に強くなる」
「止めてくれよ、気が滅入るだろ」
しかし、そろそろ二人じゃあ人数的にキツいものがあるかもな。次のクエストは推奨レベル60で、強化されていないゴブリンジェネラル討伐クエストと同等の難易度を誇る。その次は推奨レベル70だ。このまま二人だけだと、ちょいと時間が掛かりすぎるかも。
せめてもう一人、人材が欲しいところだな。
「突然だが、ここで二択問題だ。このまま更に続けてクエストをやるか。今日のところは此処までにして家に帰るか。さて、答えはどっちだ」
「今日のところは此処までにして家に帰るわ」
「よかった。気持ちは同じだったみたいだな」
人数的な問題の話はこれまでにして、それは端に置いておいて、もうすぐ日が暮れる。
女神の騎士も合計して、五百体ほど倒した。流石に、今日の所は気力が持ちそうにない。これ以上、クエストを続行するのは無理だろう。それは俺も十六夜も身にしみて分かっているので、今日の所はこれでお終い、ということになった。
「家まで送っていこうか?」
「その気持ちだけ受け取っておくわ。大丈夫よ、家に戻るまでずっと仮想の身体でいるから。それなら危険な目にあう道理はなくなるでしょう?」
「たしかに。それじゃあ、またな」
「えぇ、さようなら」
廃工場を後にして十六夜と分かれると、俺はそのまま自宅へと向かった。
道路の上を曲がりくねりならが歩いて行くのは面倒なので、いつものように民家の屋根を飛び移っていく。そうして一直線に帰り道、いや、帰り屋根を飛び移っていると、唐突に頭の中で音が鳴る。
「おっと!?」
びっくりして足を止めたあと。よくよく考えてみると、この音は他のプレイヤーからのテレパシーを知らせる音だ、ということを思い出す。テレパシーはプレイヤー間でだけ効果を発揮する電話のような機能だ。フレンドリストに登録されたプレイヤーなら、誰とでもテレパシーで会話をすることが出来る。
「誰からだ?」
視界にメニュー画面を展開させ、テレパシーと書かれたアイコンに触れる。そうして表示されたプレイヤーの名前を見て、俺はひどく懐かしい気分を覚えた。昔のことを思い出しながら、俺はそっと名前に触れる。
「もしもし、猫又か?」
Ⅱ
それから一週間が過ぎた休日の昼頃のこと。俺と十六夜は駅のホームに立ち、もう十数分もすれば来るであろう、とある人物を待っていた。
「それで、こっちに引っ越してくるという、その猫又さんって人は、どんな人なのかしら? 一くんとは、勝手知ったる仲だと言うのは聞いていたけれど。具体的に、どんな性格をした人? 私、あまり騒がしい人は苦手なのだけれど」
「どんな人なのか、か。そうだな……」
目の前を急ぎ足で通り過ぎていく人達を眺めながら、頭の中に猫又の情報を浮かべていく。
猫又は俺や十六夜と同い年、十七歳だ。キャラの性別は女性で、本人も女らしい。その真偽のほどはテレパシーによって会話をした際に、真実だと確認済みだ。溌剌とした活発なイメージを抱かせる、そんな少女の声音だった。
そのキャラクターネームに違わない、獣人という種族をもち。キャラクターの頭部には猫耳がついている。たしか、尻尾も生えていたはずだ。
そして、この獣人という種族は、通常では手に入らないものだったりする。
本来、プレイヤーはすべて人間という種族であり、それ以外の選択肢などそもそも与えられていない。ならどうして猫又は獣人という種族に成れているのか? それは俺の暗器使いや、十六夜の魔法騎士と同じ、過去のイベント戦においての上位報酬だったからだ。
化石職業ならぬ化石種族、それが猫又の種族、獣人だ。
「獣人、か。ということは、かなりの高レベルということよね?」
その情報を提供された十六夜は、すこし何かを思い出すような仕草を取ったあと、そう言葉を口にした。たぶん、過去にあったイベントクエストの上位報酬を思い出していたのだろう。
「あぁ、フレンドリストから確認したところ、今ではレベル91らしい。十分、戦力になるぜ。なんたって呪術師、ジャマーだからな、猫又は」
「呪術師、たしかに私達のパーティーに必要な人材ではあるわね」
呪術師とは、その言葉の響き通り、妨害魔法によって敵にバッドステータスを与え、攻撃や防御のジャマをする職業だ。攻撃力低下、防御力低下、命中率低下、などなど、とにかく敵を弱くしてくれる。
パーティーに一人、呪術師がいれば戦闘がぐっと楽になる。特に、俺達のような人数の少ないパーティーなら尚更だ。喉から手が出るほど欲しいと言っても過言では無い。




