7話 夜の訪問者2
昼間の密会相手の正体を、私が知っていたことに驚いたマクシミリアン様は私に聞き返した。
私は隣に座るマクシミリアン様から目をそらし。自分の膝に置いた手をジッと見つめた。
「ベアトリス……君はコンスタンス嬢を知っていたのか⁉」
「ええ、彼女がデビュタントの時に会いましたから。王太子妃として当然です」
ほとんどのデビュタントたちは、社交シーズンの始めに開かれる王宮主催の舞踏会で社交界デビューを果たすことを目標にしている。だから私たち王族は、その年デビューする貴族の令嬢たちと自然と対面することになる。
「そうか、デビュタントか。なるほど……そうだったな」
「はい。特にコンスタンス嬢は聡明な令嬢として有名で、社交界でも未婚の息子を持つ親たちは皆、彼女に注目していますから」
私とあまり接点が無かったとしても王太子妃の立場上、有力貴族のシフナル侯爵家の令嬢を知らないわけが無いのだ。
ベッドに私と並んで座ったマクシミリアン様は、膝に置いた私の手を取り指先にキスをしてから本題に入ろうと口を開くが。
「ベアトリス、実はコンスタンス嬢は……」
「あなたの側妃候補ですね?」
私はマクシミリアン様が言おうとしていたことを先に言った。
「……ベアトリス」
私の手に触れていたマクシミリアン様の手がビクッと強張った。
「今さら説明は不要ですわ、殿下。私も王太子妃として、この国に嫁いで来た時から、殿下が私以外にも側妃を娶られることは覚悟しておりましたから」
マクシミリアン様の強張った大きな手から、私は自分の手を引き抜き。もう片方の手と組み合わせて自分の膝の上に置いた。
私はギリギリで持ちこたえていた。
(これ以上、こんな話を続けていたら惨めに泣いてしまいそう。……だから分かり切った言い訳なんて聞きたくないわ)
とにかくこの話を早く終わらせたかった。
チラリと隣を見ると……そんな私の酷い態度に、マクシミリアンは眉間に深いシワが寄せた。
「ベアトリス……」
「ですから殿下、私のことはお気になさらず。この寝室へ無理をしてまで来て下さらなくても結構です」
「……待ってくれ、ベアトリス!」
「これからは殿下が求める女性のもとへ、行かれれば良いのです。そうすればお世継ぎもすぐに産まれるでしょうし」
「ベアトリス、私の話を聞いてくれ!」
「聞かなくてもわかります」
(こんな意地悪なこと、私だって言いたくない。なのにあなたは数ヶ月ぶりに、私の寝室へ訪れて。今まで愛しあうのに使っていた、このベッドに座り。他の女性と結婚する話を、この私にしようとするなんて! どうしてあなたは、そんなに残酷なの?)
「頼むから聞いてくれ!」
「嫌です!」
「私が愛しているのは君だけだ! だから……」
「今さら止めて下さい!」
(私を愛している? 嘘だわ! 確かに以前は愛していたかもしれないけれど。今は王子を産めない私に失望し、飽きてしまったのよ! 何か月も前から健康を取り戻した私の寝室に、来なくなったのもそのせいでしょう?)
「ベアトリス!」
話をまともに聞こうとしない私に焦れたらしく。礼儀正しいマクシミリアン様にしては珍しく、強引に私を抱きしめた。
「殿下……マクシミリアン様! どうか、今はやめて下さい! 触れられたくないわ! 放して下さい」
「私の話を聞いてくれ!」
「もう、じゅうぶん聞きました! ……だから、もう放して!」
どうしても触れられたくなくて、私は広い胸をおし返そうとマクシミリアン様に抵抗するがビクともしない。
「お願いだ、ベアトリス! 大切な話なんだ!」
「嫌だわ、嫌! 聞きたくない! 放して下さい!」
(何もかもグチャグチャだわ! 壊れてしまいそう!)
「ベアトリス!」
マクシミリアン様の腕の中で暴れる私は……何度も、何度も、キスをされる。最初は額に。次は頬に。耳や首筋……そして唇にも。
「嫌……ううっ!」
「私を拒まないでくれ」
「マクシミリ……ッ…!」
「ベアトリス……ベアトリス……私には君だけだ!」
繰り返し続けられるキスの雨を拒むことが出来ず。抵抗することに疲れ、マクシミリアン様を徐々に受け入れた私はベッドに押し倒された。
――切なげに私の名を呼ぶマクシミリアン様にしがみつき、涙をこぼした。
大きな手のひらが薄い寝衣の下に滑り込み、私の肌を撫で上げる。熱い手に刺激され私の身体に火が灯る。
「お願いだ、ベアトリス」
「酷いわ、マクシミリアン様!」
「ごめん……でも、私は……っ!」
「んっ…」
マクシミリアン様の唇が私の肌に触れるたびに、身体の奥についた火の勢いが増し、内側からあぶられる。
荒れた心を抱えたまま与えられる刺激に煽られ……私は夢中で夫の情熱に応えた。一年ぶりの情交に夜が明けるまで溺れ続けた。




