6話 夜の訪問者
立っているのもやっとというほど疲れ果て、ロッティの手を借りノロノロと寝支度を終えた私は、ようやくベッドへ入ろうとした時……寝室に訪問者があらわれた。
こんな遅い時間に私の寝室へ、訪れることが許されるのは一人しかいない。私の夫、マクシミリアン様が数ヶ月ぶりに訪れたのだ。
「妃殿下、王太子殿下がお見えになりました!」
久しぶりに王太子妃の寝室へ訪れた王太子を歓迎しているらしく。侍女のロッティはニッコリと笑い燥いだ様子で私に報告した。
「殿下が……? そう、わかったわロッティ。あなたはもう下がって良いわ」
「はい……妃殿下」
興味津々で瞳を光らせていたロッティは、王太子夫妻の今夜の成り行きを最後まで見ていたかったのだろう。ほんの少し残念そうな顔をする。
「……」
(やれやれ。明日の朝、ロッティに根掘り葉掘りと今夜のことを聞かれるのでしょうね?)
いつもなら、そんなロッティに苦笑を浮かべるところだが。疲れ切っていた私は煩わしさを感じてフゥ―――ッ……とため息をもらす。
ロッティが寝室を出て私の許可が出たことを伝えに行く。夫の立場なら問答無用でズカズカと妻の寝室に入って来ても良さそうなのに。こうして先に伺いを立てるところは、気づかい上手なマクシミリアン様らしいところだが。その気づかいが、なぜ今日の昼間は働かなかったのだろうか。
マクシミリアン様が私の寝室に入って来た。その後になぜかロッティも続いて部屋に戻って来る。
私は先に下がって良いと伝えたのに。ロッティは興味本位で王太子と妃の会話を盗み聞きしようとしているようだ。侍女としてロッティの配慮の無さに私は顔を顰めた。
(ロッティ! なんて図々しいの⁉ さすがにコレは注意しないと……)
「ベアトリス、顔色が悪いな。それでその……今夜は疲れているか?」
「いいえ、殿下」
(正直、今にもバタンッ! とベッドへ倒れてしまいそうなほど疲れているけれど。この状況で、そうは言っていられないわ)
妻を心配する目の前に立つ背が高い夫を、私は以前のように愛情の籠った目で見上げることもなく。視線をそらしたまま素っ気なく答えた。そんな無礼な態度を私がとっても、今なら許されるはずだ。
私が脱いだドレスを抱えてモタモタ(たぶんわざと)と侍女のロッティが寝室を出てゆくのを、二人でベッドに腰を下ろして待つ。
自分が部屋を出て行くまで私たちが話を始めない悟ったロッティは、残念そうに落胆して寝室から出て行った。
――パタンッと扉が閉まると、マクシミリアン様はおずおずと緊張した様子で口を開いた。
「ベアトリス……昼間のことだが……」
「シフナル侯爵家のコンスタンス嬢と殿下が、二人で会っていたことですね……?」
(マクシミリアン様……あなたは昼間の言い訳をしに来たのでしょう? 私の寝室へ来るなんて、何か月ぶりかしら。流産で傷ついた心と身体がようやく癒えたと伝えたのは、半年以上前だったから……)
これが昨夜のことなら嬉しくて飛び上がって喜び、寝室に迎え入れたでしょうけれど。でも、今夜は気が重くて面倒に感じてしまう。
(でもここまで来たら……話を早く済ませてしまいましょう)
話の主導権を握りたくて、私は先に本題を口に出した。
「……っ!」
マクシミリアン様は妻に隠れて会っていた、令嬢の名前をズバリと言い当てられて顔を強張らせる。
「……」
私は動揺を隠せない夫の顔をジッと見つめて観察した。
(マクシミリアン様、そんなに動揺するぐらいなら。側妃候補の令嬢と私に隠れて会う前に、側妃を娶ることを前もって話してくれたら良かったのに! 不意打ちのように知って、私はあれからずっと混乱しているわ! とても冷静ではいられない)
昼間の庭園で侯爵令嬢と密会していた夫の姿が脳裏を過ぎり。治まっていた胸の痛みがヂクヂクと再発した。ほとんど無意識で私は痛む胸をおさえた。




