21話 即位してから
戴冠式を終えて、マクシミリアン様が国王へと即位して二年。私たちに待望の王子が誕生して、王国中が祝賀ムードに包まれる。
――そこで社交シーズンの始まりに合わせて、王子のお披露目をかねた誕生を祝う舞踏会が王宮で開催された。
「今夜は我が息子王子アンリの誕生を祝い、国中から皆が集まってくれたことを嬉しく思う!」
国王となったマクシミリアン様は、王宮広間に響き渡る朗々とした声で貴族たちに労いの言葉をかけた。
「おめでとうございます!陛下!」
「おめでとうございます!」
「おお、なんと麗しい王子殿下だ!! おめでとうございます!」
「アンリ王子殿下のご誕生を、心からお祝い申し上げます!」
王妃となった私が胸に抱く小さな王子の顔を、貴族たちは一目見てホッと胸を撫で下ろした。
何しろ現国王のマクシミリアン様に王子が誕生しなければ。王位継承権第一位はマクシミリアン様の政敵である兄のままだからだ。
万が一マクシミリアン様に命を落とすような不幸があった場合、我がままで癇癪持ちの兄が王座につくこととなる。……そうなれば、暴君となるのは目に見えていたからだ。
これを機にマクシミリアン様の兄は、臣籍へと下ることが決まっている。
舞踏会に集まった貴族たちへの挨拶が終わると。私の腕の中で眠ってしまった小さなアンリ王子を連れて、マクシミリアン様と三人で王族専用のバルコニーへ出て休憩することにした。
「疲れただろう、ベアトリス? 私がアンリを抱こう」
「ええ、お願いします、マクシミリアン様。ふふっ……」
(ほんの少し前まで国中から集まった貴族たちに、囲まれていたというのに。私の可愛いアンリはスヤスヤと気持ち良さそうに眠ってしまったわ。泣かれなくて良かった)
夫の腕に渡す前に、息子の小さな額にキスを落とす。
「今日のアンリは臣下たちの前でも立派だったな。きっと良い国王になるぞ!」
マクシミリアン様は息子の寝顔を蕩けそうな笑みを浮かべて眺め、自慢げに言った。
「ふふふっ……こんなに小さいのに、アンリはなんて剛胆なのかしら?」
(それになんて愛おしいの?)
あまり人見知りをしないアンリは、初めて会った貴族たちの前でもつぶらな瞳をパチッ! と開けて、泣くこともなく珍しそうに見ていた。
「未だに信じられないよ。こうして自分の息子を抱いているなんて……本当に奇跡だな」
二年前は側妃を娶ろうかと、マクシミリアン様が悩んでいたのが嘘のようだった。
「本当に……あんなに悩んでいたのに」
(あの頃のことを思うと今も胸が痛むわ。もっと早くロッティの狂気に気が付いていたら、流産した二人の子もこの場にいたかも知れない)
バルコニーの扉にはめられたガラス越しに、私は室内でコンスタンス嬢(王太子妃の側近)と一緒に、ニコニコと笑う王女シルヴィーの姿を眺めた。
大罪を犯した元侍女ロッティは、母国に帰る機会を永遠に失い。犯行を唆した者たちと共に断頭台の露と消えた。
「……」
(ロッティは憎いけれど。彼女の狂気にまったく気づかなかった、自分も憎い。私は自分のことで必死になり、少しもロッティ個人のことを、知ろうとはしなかった)
そんな私が彼女の友人だと言っていたなんて、本当に自分でも呆れてしまう。私のそんな傲慢さが、二人の子を死なせる原因となったのだから……悔やんでも悔やみきれない。
そんな複雑な思いを抱いていたから。処刑されたロッティが埋葬された、穴を掘って埋めるだけの墓地に、私は王宮の庭園から勿忘草の花を移植した。
墓石も何も無く、次々と処刑された犯罪者たちが埋められる、じめじめとした陰気な地は。私が植えた勿忘草からこぼれた種が、春になると芽吹き小さな青い花の絨毯を、年々広げているそうだ。
「ベアトリス…」
「……?」
ついつい物思いに耽ってしまっていた私は、夫に呼ばれて振り向くと……唇にキスをされた。
「疲れただろう? このままアンリと下がると良い。私がしばらく留まれば、誰も文句は言わないだろうから」
「ありがとうございます。そうさせてもらいますわ……」
優しい夫にキスを返し、私は眠る息子をそっと夫から受け取り微笑んだ。
次で最終話です。
ココまで読んで下さりありがとうございます(^^)/




