2話 王女シルヴィー
戴冠式が近くなり、王太子のマクシミリアン様と王太子妃の私も、目が回りそうなほどの激務に忙殺される日々を送っていた。
以前はどれだけ忙しくても、朝食だけは一緒にとっていたけど。今ではその時間さえも取れず、完全なすれ違いの生活が続いている。
軽く昼食をすませた後、私は――
「ちょうどシルヴィーがお昼寝をする時間ね? 寝顔だけ見に行こうかしら」
(ようやく側妃を娶るという話が本当かどうか、マクシミリアン様にたずねようと決心したのに。今度は公務が忙しくて顔も見られないなんて……皮肉だわ)
せめて娘だけは寂しくないようにと。私は時間を絞り出してシルヴィー王女の子供部屋へ向かった。
私が子供部屋へ入るとなぜかシルヴィー王女は、乳母に背中を向けてプクッとふくれていた。
「……あら。 シルヴィー、どうしたの?」
助けがあらわれたと。母親の私の顔を見て乳母はお辞儀をすると、ホッとため息をつき説明する。
「妃殿下! ……実は王女殿下はお昼寝がしたくないと、おっしゃられまして……」
プクプクの手で腕組みをして、ムッとしながらピンクのソファーに座るシルヴィーの隣に私も腰を下ろし。プクッとふくれた頬を指先で突っついた。
「まぁ、シルヴィー……食後のお昼寝をしないと。午後からのお勉強が眠くて出来なくなってしまうわよ?」
「でもお母様、私は眠りたくないの!」
頬を私に触れられると。娘のシルヴィーは増々プクプクッと頬をふくらます。
「あらあら。ふふふっ……困ったわね?」
(私の娘はなんて可愛いくて愛おしいのかしら? こういうところは、父親のマクシミリアン様にそっくりだわ)
「王女殿下は昨日、庭園で見つけた蝶を見に行きたくて、眠りたくないとおっしゃられているのです」
「それなら……今からお母様と庭園を、ぐるりと一周だけする散歩に行きましょう?」
「お母様、本当に⁉」
シルヴィーはふくれるのをやめて、パッ… とソファを飛び降りて、私の膝に抱き付いた。
「ええ。……そのかわり散歩から帰ったら必ずお昼寝をして、しっかりお勉強をするのが約束よ?」
「約束します、お母様! たくさんお勉強します!」
「シルヴィーは良い子ね」
(まだ文字をおぼえ始めたばかりだけど。とても利発で賢い子だと、教師が褒めていたわね。私もそう思うわ)
この国が男性優位でなければ王女のシルヴィーも、王位を継承出来たのに。残念な話だ。
私自身も男性優位の国でなければ。王子を産んでいないという理由で、夫のマクシミリアン様に、側妃を作られる心配をしなくて済んだかもしれない。
柔らかな娘の頬にキスをして、ソファーから腰を上げた。




