18話 ロッティの動機
信頼する侍女ロッティの裏切りで、すでに私は深く傷付いていたのに。これ以上、ファゼリー伯爵がロッティを尋問して自白させた内容を聞けば、私はさらに傷つき立ち直れないのではないかと思えた。それほどロッティの秘密は衝撃的だった。
ファゼリー伯爵も私を気づかい『話しても大丈夫なのか?』と視線を合わせて来た。私の前ですべてを話すことに躊躇している様子だ。
――だが、マクシミリアン様が話を続けるようにと促した。
「エドガーここで隠しても結局は、ベアトリスの耳に入ることだ。いつまでも長引かせるのは良くない。……そうだろう?」
隣に座り私を支え、抱きしめてくれるマクシミリアン様を見あげると。マクシミリアン様も私を見下ろし……『必ず君を支えるよ』と穏やかな瞳で伝えて来た。
「……」
(マクシミリアン様、あなたを信頼します)
不安に駆られて怯えていたけど、私はマクシミリアン様に軽く頷き。ファゼリー伯爵へと視線を真っ直ぐに向けた。
伯爵と目が合い。私の気持ちを汲み取った伯爵は力強く頷いた。『隣に殿下がいるのなら、きっと妃殿下を上手く慰められる』と、主従の信頼もあるからこその判断だろう。
ファゼリー伯爵はロッティの自白に関する報告を再開した。
「ロッティには元々、結婚を誓い合った恋人が母国にいたそうです。ですが周囲からの圧力があり、妃殿下の侍女としてこの国に付いて来たとのことです」
当初、侍女のロッティは尋問で黙秘を続けるかと思われたが。何年にもわたり私を恨み続けて来たせいで鬱憤が溜まっていたらしく。伯爵が尋問の席に着くと、次から次へと胸の内を曝け出したそうだ。
『ファゼリー伯爵様、私は恋人との結婚前に少しだけ行儀見習いで、王宮へ侍女としてあがっただけなのです! なのに、彼との婚約が正式にはまだだからと、妃殿下に付いて行くよう王家から命令されて……』
『君はその頃から、妃殿下を恨んでいたのか?』
ファゼリー伯爵がたずねると、ロッティは泣きながら答えた。
『いいえ、一年か二年……妃殿下がこちらでの生活に慣れるまで我慢したら、私は帰国しても良いと言われていたので。だから私は耐えるつもりでした。……でも!!』
この国で役目を終えた後。帰国して恋人と結婚する際には、慰謝料代わりに王家が持参金を用意するとロッティは説得されていたらしいのだが。
『……でも? でも、何だ?』
『私の恋人は……王家の命令で、強引に結婚を決められてしまったのです!』
『ああ……つまり君が母国へ帰る理由を無くすために。……ということか?』
『ええ、伯爵様! こんなに……憎らしいことはありません!』
「それで母国に残して来たロッティの恋人が結婚したのが、ちょうど3年前です。恐らく……ロッティが王宮医と不倫を始めたのも、ちょうどその頃でしょう」
ファゼリー伯爵は私とマクシミリアン様の向かい側に座り、感情が表れない淡々とした態度で話しながら、視線を自分の手に向けた。
伯爵は顔には出さないけれど、この胸が悪くなりそうな内容を知った時から、複雑な心境を抱えていたのだろう。
「ああ……何てことを。……何てことを……」
(だからロッティは、ずっと私を恨んでいた。そして私が幸せになるのを阻み、隠れて避妊させて復讐していたのね)
恐らくロッティと恋人を引き裂く指示を出したのは、長兄だと見当がついた。王太子でもある兄はそれぐらいのことなら、眉ひとつ動かさずに出来る非情な人だから。
伯爵の話を引き取りマクシミリアン様が話を続けた。
「……それで不倫相手の王宮医はロッティの恨みを利用して、ベアトリスに薬湯茶を飲ませるよう、仕向けたのだな?」
「はい、殿下。……実はロッティが犯した罪はそれだけではありません」
眉間にしわを寄せ、ファゼリー伯爵は鋭い視線を自分の手から、マクシミリアン様へと向けた。
「まだ何かあるのか?」
「妃殿下が流産されたのは……子が流れる薬を、お茶に混ぜたせいだと自白したのです」
私は息を呑み。マクシミリアンは大声で罵った。
「……っ!!」
「クソ―――ッ!!!」
私の頭の中は真っ白になり。その後もファゼリー伯爵が話を続けていたけど、何も理解することが出来なかった。




