17話 薬湯茶の正体
ファゼリー伯爵が秘密裏に薬湯茶を医師に見せて調べてみると。侍女のロッティが淹れていたお茶の効能は疲労回復ではなく。伯爵が言った通り避妊が主な効能だと判明した。
ロッティはその日のうちに拘束され、ファゼリー伯爵の厳しい尋問が始まった。同時にロッティの交友関係が詳しく調査された。
朝食室で薬湯茶に疑問を持った日の翌日。王太子の執務室で応接用のソファセットに腰を下ろしたマクシミリアン様と私は、調査の進捗状況についてファゼリー伯爵から報告を受けた。
「ファゼリー伯爵。昨日の今日で……もう、分かったのですか?」
(伯爵が有能な人だとは知っていたけれど。ここまで手際が良いとは思わなかったわ)
思わず私は感心した。
「はい、妃殿下。すべてではありませんが。これに関わった者たちが、素人だったおかげで隠蔽されること無く、至る所で証人と証拠が見つかったので……」
「それで、エドガー。お前のその顔を見ると、あまり良い報告では無さそうだな?」
「ええ。尋問で予想よりも簡単に自白を引き出すことは出来ましたが。あまり聞いていて気持ちの良い内容では無いので、前もって覚悟しておいてください」
ファゼリー伯爵は私と視線を合わせて言った。……つまりマクシミリアン様ではなく、私の方に覚悟が必要らしい。私の侍女のロッティが関わる件だから、当然ではある。
――その後、伯爵の予告通り。私は伯爵が持って来た報告に自分の耳を疑い、次々と衝撃を受けた。
「王宮医の一人と? ……ロッティはその人と不倫関係にあったと言うのですか⁉」
「はい、妃殿下。複数の証言がありますから、間違いありません」
「そうですか。それでファゼリー伯爵、ロッティはいつからその男性と付き合っていたか分かりますか?」
(知らなかった。ロッティに恋人がいたなんて! それも相手には妻子がいる医師ですって? なぜそんな人と……)
友人だと思っていたロッティのことを、私は何も知らなかったことに驚愕し。寂しい思いに捕らわれた。
「……周囲の者たちの話では恐らく三年ほど前から、不倫関係が始まったのではないかと証言が出ています」
「三年……? そんなに前からロッティは……」
(ロッティ、なぜなの⁉)
――まるで……名前も顔も知らない、他人の話を聞いているように。私が知らなかったロッティの話が、ファゼリー伯爵の口から淡々とした言葉で聞かされ。私の頭から血の気が引いた。
たぶん今の私は激しい動揺で、顔が真っ青になっているのだろう。一緒に二人掛けのソファに座るマクシミリアン様が、隣から腕を回して私を抱きしめてくれた。
「それでエドガー。……その不倫相手がロッティに避妊用の茶葉を渡したのか?」
「はい、殿下。その医師も昨日のうちに拘束して尋問したら、そう自白しましたから」
私の代わりにマクシミリアン様が、続けて伯爵にたずねると、ファゼリー伯爵は淡々と、マクシミリアン様に報告を続ける。
「ロッティは……薬湯茶が避妊用だと、知っていたのですか?」
私は恐る恐る……一番、気になっていたことをたずねると。ファゼリー伯爵は躊躇(ためらいながら答えた。
「……はい、妃殿下。……残念ながら……ロッティは何もかも知っていて、不倫相手の共犯になったようです」
普段から冷静沈着なファゼリー伯爵でも。さすがに信頼していた侍女の裏切りにあった私に、気が引けたらしく沈鬱な表情を浮かべる。
私は伯爵の言葉で、頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けた。
「ロッティは避妊用だと知っていて……私に飲ませた⁉」
(私に王子が出来なくて苦しんでいることを、一番知っていたロッティがなぜなの⁉)
「エドガー、理由は? 犯行の動機となる理由をロッティは自白したのか?」
「はい、殿下。それは……不倫相手の医師に唆されたのが、一番の理由だと自白しました」
「一番の理由? ロッティには他にも動機があったのか?」
「……はい」
「ロッティは何を自白したんだ?」
「それは……」
ファゼリー伯爵はチラリッと私に視線を向けた。私の前では答えにくい内容のようだ。私は答えを聞きたくて、話の先を催促した。
「伯爵、教えて下さい。ロッティは何と言ったのですか?」
私が答えを促すと。ファゼリー伯爵は少し沈黙してから、再び意を決したように尋問で聞いたロッティの自白を語った。
「ロッティは……妃殿下に強い恨みを持っていました」
マクシミリアン様の腕の中で私はビクッ! と身体を震わせた。
「……私に恨みですって⁉」
(ロッティ! 私が何をしたと言うの? こんなの、ひどいわ!!)
「何故だ? 私が見る限りベアトリスほど使用人たちに親切な王族はいないと思うが。ベアトリスの何が恨まれると言うのだ?」
「殿下、問題は妃殿下が嫁いで来られる以前まで遡った話になります」
「嫁いでくる以前だと?」
「はい」
「それは、どういうことですか。ファゼリー伯爵?」
(私が母国にいる時に、ロッティに恨まれるようなことをしたということなの⁉)
思いも寄らぬ方向へと話が進み。私は何が何だか分からなくなる。




