14話 苦い薬湯茶2
王太子付きの側近、ファゼリー伯爵エドガーが急ぎの案件を持って朝食室へやって来た。ベアトリスとの至福の時を邪魔されるのは痛いが。
エドガーが緊急だと言うのなら本当にそうなのだろうと、拒むことは出来ない。
「おはようございます。殿下、妃殿下。お食事中に申し訳ありません」
「エドガーにしては珍しいな。急ぎの案件とは何だ?」
「中央神殿の件です」
「アレか!」
(ベアトリスの前で口に出すのは憚られる話だ)
私の戴冠式を行う前に譲位の儀式を行う高位神官の一人が、多額の賄賂を受け取り、神殿が運営する孤児院の子供を他国へ売買していたという。実に獣以下の所業についての話だ。
エドガーもベアトリスが流産してから、こうした子供の問題に敏感になっていることを良く理解しているため。一瞬だけチラリとベアトリスへ視線を向けて躊躇する。
ごつくて近寄りがたい容姿の持ち主だが、エドガー自身も妻が大好きな愛妻家だから。『側妃は最後の手段』だと、一貫して私が側妃を娶ることを反対していた。
――むしろ私たちの夫婦関係が壊れることで、王国にとって将来的に損失が出るのではないかと懸念を持っているぐらいだ。
確かにベアトリスと距離を取るようになってからの私は、注意力が散漫になり。以前よりも仕事の効率が格段に落ちている。そんな私の姿をずっと見ている側近のエドガーからすれば、当然の判断だと思う。
ベアトリスに躊躇していたが、エドガーはすぐに気持ちを切り替えたらしく。私へ視線を戻して口を開いた。
「……尻尾を掴めそうなので。神殿内部の捜査をする許可を殿下に頂きたく」
上手く子供の売買に関する部分だけ話をボカして。エドガーは上着の内ポケットから書類を出して、机の上に並べて置く。
「ふむ……ずいぶん、早かったな?」
私は満足だと笑って労い。エドガーが持って来た書類を読みながら、近くに立つ使用人にペンとインクを持ってくるよう指示する。
「真っ黒な殿下の戴冠式は、せめて表面上だけは一点の曇りの無い、清廉潔白な神官たちで固めたいと思いまして」
エドガーは澄ました顔でサラリと不敬な発言をする。学園生時代からの付き合いだから、友人として平気でコレぐらいは言うのだ。
「おいおい! エドガー、私が真っ黒だって? それでは口が過ぎるぞ」
(まったく、コイツめ! 憎たらしい奴だ!)
内心で悪態をつきながらも、有能で信頼のおける側近に揶揄われ、私はのびのびと笑った。
戴冠式の儀式をするような高位神官になるほど、清廉潔白さからは程遠い。腹黒で偽善的な者たちばかりなのが世の常識である。
ついでに私自身も、高位神官に負けない腹黒い王子だと。普段からエドガーに揶揄われているのだが。
……すると私とエドガーのやり取りを見ていたベアトリスが、明るい笑い声をあげた。
「ふふふっ……殿下がいつも、真面目なファゼリー伯爵を揶揄うからいけないのですよ。少しぐらい返されても、仕方ありませんわね」
「ベアトリスにそう言われては、私もこれ以上、エドガーに文句を言えないな……仕方ない。私が書類に署名をするまで、健康のために身体に良い薬湯茶を飲んで行け!」
「まぁ、マクシミリアン様!」
ベアトリスは心配そうに止めようとするが。私は自分の側近に揶揄われた仕返しが出来ると、大人げなく満面の笑みを浮かべた。
「ロッティ! 急いでファゼリー伯爵に、お茶を淹れてくれ!」
「は……はい、殿下」
私が指示を出すとロッティは顔を強張らせて、お茶を淹れに朝食室を出て行く。
有能で察しの良いファゼリー伯爵は、ロッティに出された薬湯茶を渋々一口飲むと……急に難しい顔をして黙りこんでしまう。
「エドガー、遠慮するな! 全部飲み干せ! 疲労回復に効くのだそうだ」
私が苦い薬湯茶をもっと飲めとエドガーにすすめると……
「殿下、実は緊急の案件がもう一つありまして……人払いをして頂けますか?」
「んん?」
「お願いします、殿下!」




