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調子に乗って部下たちに私の持つ『千を超えるスキル』を分配しまくったら最後に見事に裏切られたんだけど?  作者: 瑠火


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三章:後編

 

「さあ! 始めようか! 最後の闘いを!」


 南の、インフラを担っていた魔導人形が停止した。今頃、住民たちは困っているのだろうか。そんな事はどうだって良い。イレズミさえ屈服できるなら。


 脳の容量を全て、この闘いに回す。もう負けられない。


 イヴォルグはイレズミ想いなので、もうこれ以上彼女を傷つけたくないし、戦ってほしくもない。でも、仕方がない。これは管理者としての使命。彼は絶対にイレズミを自分の箱庭で、安全に過ごしてほしいだけ。


 割れたステンドグラスの真下、先手はイレズミから。指先に電荷が溜まる。【電磁砲の残渣LV5】を使用し、正反対の位置にいるイヴォルグに向かって電磁光線を真っ直ぐ放つ。


『うん』『これは防ぐことが出来るぅぅぅ!』


 巨大な複数の手を、イレズミに掌を向けるように生成。最後の手まで、電磁光線は貫通したが、イヴォルグには届かず。


 その間、イヴォルグは、対となるように、腕、脚、足、ただし顔と首等は一つ、その他全て人体を構成するに必要なパーツを複数生成。自分の、実体のある分身体を組み立てていく。


『全部が私だ』『そして、足元がお留守ですね』


 床の全てが、一つの口に変換される。巨大な口がこの部屋にいる物全てを飲み込まんとして、天井に向かって直進した。


 しかしイレズミは冷静。イヴォルグに向かって「最後だと思っているのはお前だけだろう……」と小さくつぶやき、先に純愛仮面を足元に瞬間移動させる。


 ここからさらに複雑に、スキルを展開していく。


 その後【防護バリアを生成するスキルの残渣LV5】をピギイと純愛仮面を囲むように発動。巨大な口腔内に飲み込まれるも、三人にダメージは無い。


 さらに【回復するスキルの残渣LV5】と【瞬間移動するスキルの残渣LV5】を組み合わせて【回復を送り込むスキルの残渣LV5】に組み合わせ(マージ)。これをピギイと純愛仮面に発動。二人の傷は完全に消え失せた。そして分解し元に戻す。


 巨大な口の、食道への入口が微かに見えた。落ちるわけにはいかないので、【木を生成するスキルの残渣Lv5】を用い、食道を塞ぐように複数生成。


 閉じた口の中は暗い。抱きかかえられた、傷のない眼でピギイがイレズミを見上げると、へびのように舌をチロリと出すも、表情に宿る、音の無い怒り。


 そして舌先の、見慣れない禍々しい虹色。

 意味を多分に含んだその光は、ピギイにとって絶望の未来を象徴しているように見えた。


 イレズミが、周囲のいたるところから気配を察知。しかし、闇が世界を覆い隠す。

「……相変わらずやることが小賢しいな。イヴォルグ」


【発光体を生成するスキルの残渣LV5】と【召喚獣『黒騎士』の残渣LV5】を結合(マージ)

 すると自ら輝く、ロングソートを構えた漆黒の騎士が生成された。


 強い光に照らされた。その隙にさらにもう二つのスキルを組み合わせ、口腔外に向かって発動しておく。


 周囲を見回すと、イヴォルグが生成した実体のある分身体達が彼女たちを囲んでいることが分かる。


 一斉に攻撃を開始する分身体達。黒騎士と背中合わせに戦うイレズミ。イヴォルグの分身体達を順番に捌き、多少の傷を負いながらも致命傷を与えていく。


「……まだ来るか。ならいい」


 仕方がない。召喚獣もろとも、コア内に手繰り寄せた【爆炎の残渣LV5】で焼き殺してしまおう。


 広がっていく炎が全ての分身体を燃やし尽くす。その後、瞬間移動し、三人で口腔外に出る。


 外では、先程口の中から送りつけていたイレズミの分身体と、イヴォルグの本体が争っていた形跡がある。彼女は、本体が口の中にいないと、光を照らした時に把握し、【分身の残渣LV5】と瞬間移動のスキルを組み合わせて、イヴォルグの足止めを担当させた。


「本当に小賢しいな。お前は。私が中で戦っている間に、お前の魔導杖で一緒に私をぶち抜く算段だったんだろう?」


「そうだよ。よくわかったね。賢い賢い。でも殺すつもりはなかったんだよ。信じて」


 二人は睨み合う。イヴォルグの魔導杖が、イレズミに向かって放たれる。


 ◇


 体を小さくして飛翔するピギイ。


 隣。純愛仮面は空中で跳躍を繰り返し、座標を固定する。上から、怪獣たちの戦いを見下ろす形になる。


「……。イレズミ……ちゃん」


 本当はイレズミを助けに行きたい。でも、ここまで次元が違うんじゃあ足手まといにすらならない地を這う虫。蟻なんて巨人にとって、意識して踏み潰すものではない。今の純愛仮面はその蟻そのものだ。


 イレズミが目にも止まらぬ速さでイヴォルグの右腕を切断する。しかし、すぐに分身体から右腕をぶんどり、連結させた後、しなる脊柱の連結を、イレズミに叩きつける。すると棘骨がイレズミの額に深く刺さり、彼女自身の血で彼女の視界は遮られる。


 即座に再生し、血を止め、電磁砲を両の人差し指から放つ。イヴォルグが頭蓋をマトリョーシカのように、電磁砲と自分の間に幾つも生成。と、同時に、イレズミの足元に肋骨をトラバサミのように生成し、挟み、刺し、捕らえる。すぐさま両足を次元斬で切断し、再生させるイレズミ。


 確かに、純愛仮面にこの戦局を変える力を見出すことは出来ないかもしれない。それでも絶対にいつか来る。


「……私は絶対チャンスが来るって信じてるから……」


 絶対に、出番は来る。


「あの……。純愛仮面……」


 隣にピギイがいたことを忘れていた純愛仮面。男として対応する心構え。


「なんだ少年? また何か考えがあるのか?」

「はい。もしかしたら、二人が相打ち、若しくはイレズミ様の敗北で終わる可能性もあります。しかし、絶対にイヴォルグ様にもダメージは蓄積されているはずです。今見ての通り…………」


 イヴォルグの判断が遅れていると思われるシーンを、二人は幾度となく捉えていく。しかしそれはイレズミも同じ。相打ちの未来もあり得る。


「……どちらにもダメージが蓄積しているが……。それでもイレズミのほうが有利なように見える」


 一見すると、純愛仮面の言う通り。手数は明らかに彼女のほうが多いし、そもそも手段が豊富だ。現時点で、1000の内の幾つを披露しただろうか。まだまだ手を変え品を変え戦う事ができるように思えるも、足取りが快調とは確かに言えなくはなって来た。


「……少年は、私にどうしてほしいんだ?」


「……。私は、あなたに足止めを担当してほしいんです」


 ピギイが作戦の根幹を続ける。


「私は、イレズミ様からスキルを譲渡してもらいに向かいます。隙をついて、電磁砲のスキルでも使えることが出来たなら、イヴォルグ様を倒すことが出来ると思います」

「……。なるほど。心得た。私はもう全快だ。任せておけ」


 機を狙い、天にて座す。


 ◇◇◇


「はあ……! 諦めが悪いな! イヴォルグ!」


「諦められるわけがないだろう……!? 何年、何十年と待った千載一遇のチャンスなんだから!」


 二人の闘いは佳境に入っている。二人の足は重い。再生するも血はもとには戻らない。しかし、イレズミとイヴォルグでは、戦場のアドバンテージが違う。


 イレズミは思考する。


(……。ここはあいつの城の中……。敵陣地、奥深くで戦う私のほうが不利だろう……。もう決着をつけておきたい。……それに…………)


「イレズミ」『ねえ! イレズミ!』『やっぱり弱くなったんだな……』


「アーシュラ全土を巻き込んだ戦争。あの時に君は本当に強かった。そう考えると、先にスキルを奪っておいて正解だったのかもね。お陰で私はあなたと互角に戦える……。それにその力。代償があるようだね」


 イレズミの思考を、何かが痛みという形で邪魔している。これは、『紛い物の千』を使用し始めてすぐの出来事だ。


(……。まあいいか。もう終わらせよう)


 舌先のスキルコアを見せつけるイレズミ。その後完全に脱力をし、腕をブラブラとさせながら俯く。


「なあ。イヴォルグ。なんで私が、お前たち四天王を生かしておいたか分かっているか?」


「……。大陸において大きな役割があったから。私はインフラと貿易。北は環境。西は資源。東は司法」


「そうだ。まあでも。もういいだろう」


【防護バリアを生成するスキルの残渣LV5】

【電磁砲の残渣LV5】

【分身の残渣LV5】

【爆炎の残渣LV5】


「これらを使い、残酷にもお前を焼いて殺す。」


 先ず、【防護バリアを生成するスキルの残渣LV5】を用い、自身と純愛仮面とピギイを囲む。息が荒い、目がくらむ。


 次に、【爆炎の残渣LV5】と【分身の残渣LV5】を結合。この部屋を分身体で一気に埋め尽くす。視界を瞬時に埋め尽くす。脳が焼ける。視界に霧がかかる。


 最後に【電磁砲の残渣LV5】を、【爆炎を抱えた分身体の残渣LV5】に狙いを定め、撃ち抜く。


 すると全ての分身体が爆弾となり、部屋を焼き尽くす。


 ◇◇◇


 煙に包まれ遮られた部屋の中。今いる教会の中にあるカーペットやらの可燃性の物質全てに引火しているようだ。


「゛あ゛あ゛あ……!」


 脳を守るように頭を抱えるイレズミ。これが紛い物の千の代償か。レベル表記はあるものの弱体化され、使うほど脳を焼き切る。そのまま地面に吸い込まれるように倒れ込む。


「イレズミ様! 無事ですか!?」


「イレズミ!?」


 ピギイと純愛仮面が彼女に駆け寄り、純愛仮面が抱きかかえる。


「イレズミ様! イレズミ様!」


 体を小さい状態から、通常のサイズに戻して、イレズミに抱きつくピギイ。


「ピギイ……。終わったよ……。ようやく、私のカッコいいところを見せられたかな……。でも、恐れてもいるだろう……? 足が千切れようとも、心が荒もうとも関係なく蹂躙する姿は、魔王そのものだっただろう」 


 イレズミは懸念していた。あまり見せたくはない、残酷な戦闘方法。ピギイはましてや子共だ。彼には血なまぐさい光景なんて、縁のない生活を送ってほしかった。


 そんな懸念に対して、ピギイは首を横に振る。


 そんなことないですよ。って。


 私はそれでも………………。



『おいおい』『勝 手 に 殺 さ な い で よ ね !』

「……危なかった……。意外と、手段は選ばないんだね。イレズミ。以前と違うじゃないか……」



 煙が晴れた。かろうじて、杖を支えにしながらどうにか体を起こす、イヴォルグ。ローブは焼き切れ、強靭な肉体には痛々しい新鮮な火傷の痕が、全身に記されている。


「……お前……。死んでなかったのか……!?」

「残念だったね……イレズミ……。私には万の魔導人形がある。そう言っただろう……? 機械仕掛けの……。無慈悲な『イレズミ』が」


 そのうちの百だか、二百だかを周囲に固め、盾にし、回避したようだ。つまり、彼は魔導人形たちを軍隊のように、教会の外に整列させていたということになる。


「……ほら……。万の魔導人形たちが勢揃い。……もう逃げ場なんて無いよ。私はね、肉体がなくても、脳が動けば戦える。でも君はどうだろう……?」


 とは言ったものの呂律が回っていない。脳も正常には働いているとは言えないようで、イヴォルグの焦点はさだまらない。


「ああ。痛々しいね。イレズミ。」『可哀想なイレズミ』

『でも外傷はほとんど無いね。良かったよかった』


「そうだ、だって私はイレズミのことが好きなんだ……」


 特に。


 『顔が好き』『目元も美しい』『発せられる声は情動を揺さぶる』『舌もきれいなんだよねー……』『肢体』



 ジリジリと三人に近寄る。それを、ピギイと、純愛仮面が並び立ち、迎撃する準備。


『はあああ?』『もう勝ち目無いでしょう?』『もう消えてくれよ。邪魔くさいなぁ』


 たしかにもう絶望的な戦局だ。それでも、彼はイヴォルグに、『男』として伝えなければならないことがある。



「いいですか。イヴォルグ様」


「私はイレズミ様の……」


「仕事はできるのに料理が下手なところが好き」


「隣りにいる、私だけに魅せてくれる笑顔が大好き」


「温かい体温を、優しい心で分け与えてくれる彼女が大好きです」


 なんで彼は、こんな状況下でも、ほどけたような笑顔をイヴォルグに向けることが出来るのだろうか。イレズミと過ごした日々を思い出せば、血に塗れた戦場にいたとしても思い出を見返す、アルバムのようなものなのか。


「いいですか。イヴォルグ様」

「あなたが好きなイレズミ様は、誰もが知ることが出来るイレズミ様です。他の四天王も、あなたと同じ様に彼女のことが好きなんでしょうが」


 精一杯の、哀れみをイヴォルグに込めながら、イレズミには愛を向ける、双方向別々を向く矢印。スキルなんて無くても、一緒に過ごしていたらこれくらいは、伝えることが出来るようになる。だけどそれは世界で唯一人、ピギイだけ。ピギイだけの、イレズミへの矢印。


「私は、私しか知らないイレズミ様のことが、大好きです」


 言い切った瞬間に、ピギイのスキルコアが光る。

 小さな火の玉を生成し、命中率を上げるスキルを用いて、イヴォルグの目元に発射。


「……お前は本当に鬱陶しいなぁぁぁぁぁぁぁぁ! 使い魔ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 顔に当たるもダメージはない。しかしこれでいい。作戦を決行する。


「純愛仮面! お願いします!」

「承った!」


 作戦の通り、純愛仮面に足止めをしてもらっている間。


 狙うはイレズミのスキル譲渡。


 魔導人形が全て、ピギイの肢体を引き裂かんとして一斉に動き出す


「イレズミ様!」

「……どうすれば良い……!?」

「紛い物でもいいから私に貸してください!」


 尻尾の先にあるスキルコアを、イレズミに差し出すピギイ。それを寝ながらも掴み、口まで持っていき、舌先にあるスキルコアとピギイのコアが接触する。


『スキルを譲渡しています……。』


 無機質なシステムの音声。数秒が惜しい、この間にも純愛仮面がどうにか魔導人形の軍勢と、イヴォルグを相手にするが、一人ではとても……。


『Transferring……。』


 純愛仮面の肩口に風穴が開く、鮮血が飛び散る、しかし彼は間に合った。


 どうにか、スキルの譲渡は完了したようだ。


『……』

『エラー』


「え!? なんでですか!?」


 スキルの譲渡は、出来るはず。何故なら十年前にイレズミのスキルを受け取ったのだから。


(もしかして紛い物だから……!? 純正のスキルじゃないと譲渡システムが使えない……!?)


 しかしピギイの考えるエラー内容とは違ったらしい。大体、この手のシステムは最後にエラー内容を吐くって相場が決まっているのだ。


『エラー』

『空き容量が不足しています。』


 ### 


【九年前】


 ピギイとイレズミがお互い裸のまま、タオルで体を拭きあう、偽物の地球の下で。


「ピギイ」

「なんですか?」

「それ。やる」

「……この二つのスキルですか?」


 それは、【水を生成するスキルLv4】と【磁力を操るスキルLv5】のことだ。こんなにも便利で強力なスキルなのに。


「ああ。私にはスキルなんて無数にあるし。お前の身を守ることにも使えそうだ。それと……」


 ピギイの頭をワシャワシャとタオルで拭くイレズミ。ピギイは目をつむる。可愛くっていたずらしたくてたまらない。目を瞑っている間にほっぺを指先でぷにぷにする。その拍子にピギイが目を開く。


「それと……なんですか?」

「それとこれでまた、時間がある時に一緒に泳ごう。楽しかったし」

「ありがたいんですけど……でも……。こんな大容量のスキル……。扱い切れる自信がありません……」


 そう言って、一度も使うことはなかった。


 ###


 イレズミは立ち上がる。

 あの日と同じ様に、小さな小さな、ピギイの体を後ろから優しく抱きしめて、勇気付けるに務める。


「いいか? ピギイ」

「はい」

「よく狙えよ?」

「はい」

「イヴォルグの頭を狙い澄まして」

「はい」

「狙いすましたふりをして! 天を穿て!」

「はい!」


 二人が狙うは、出口の反対側、イヴォルグが乱入してきた、割れたステンドグラスの奥。そのスペース。


 ◇◇◇


「純愛仮面! 金属製の物を外してください!」


 持っていたブロードソードと、革鎧を脱ぎ捨てる純愛仮面。

 それを確認したピギイのスキルコアが輝く。


 銃の形に構えたピギイの両の人差し指から、弾丸の如く飛び出していく、磁力の塊。そこに集まっていく、常磁性の酸素と、金属でできた魔導人形達。


 強烈な磁力に抗うことが出来るのはさすが魔族と行ったところか。イヴォルグは魔導杖を捨てて、どうにか、ボロボロの、金属が埋め込まれた体で、磁力に負けないようにこらえる。


 その隙に、純愛仮面がイレズミの肩を抱え、出口側にピギイとともに、磁力に引っ張られながらも逃れる。これから起こる、支配からの脱却を象徴する、大爆発から逃れるために。


 もう一度、ピギイだけが振り返り、『小さな火の玉を生成するスキルLv.1』を使用し、自身が生成した磁場に向かって投げつける。


 あの時は、地球のような、青い、水の惑星だった。

 今回はなんだろうな。真っ赤な、太陽か。


 支燃性のイレズミの怒りが、ピギイという火によって着火されたのだとしたら。

 あの時と全く真逆の色、構成になっているのは、運命のいたずらだろうか。それにしちゃ出来過ぎだ。


 ◇◇◇


「よくやった……! ピギイ……! そしてすまん……。足手まといで……」


 現在、城を出て、街を通り過ぎ、魔導協会区の扉を通り過ぎたところ。

 いや、もう城とは呼べないのかも知れない。爆発に依って半壊した城。城主も生きているのかどうかは分からない。でもそれは考えなくて良い。今は自分たちに専念する三人。


「気にするな! イレズミ! くっ……。肩が……!」


 もう三人を追う者はない。とは言い切れない。ミネルヴァがまだ潜んでいる可能性がある。イレズミは瀕死の状態。純愛仮面は肩に風穴が空いているが、それでもイレズミの肩を担ぐ必要があるため、消耗は避けられない。


 無傷なのは、ピギイだけだ。


 そんなピギイのスキルコアが、何かを待っているかのように輝き出す。

『スキルをアップデートしています。Updating data……』

『completed』 

『【自身のサイズを変更するスキルLv.4】へのアップデートが完了しました』


 三人の顔が物語っている、「おい、今の聞いたか?」と。


「なんでこのタイミングで……?」とピギイ。


「いやむしろ……。お前はこのスキルを何度も使っているのに、やっとレベルアップしたなって感じだけどな……」


「いや……。たしかに私は、この旅を通して何度もこのスキルに助けられてきました。」


 別にありがちな、感情が起因して、とか、ステータスが向上して、なんて複雑なシステムではなく、使ってたらスキルのレベルは上がっていく。しかし、それだけではないようで、イレズミが補足する。


「強者との闘いが、スキルを成長させる。だから私は高レベルのスキルをいくつも持っていたのさ。」

 とのこと。さあ。それなら早速スキルを振る舞ってもらおう。







「すごいです……。私、今まで小さくしかなれなかったのに……。」


 ピギイのスキルがレベルアップした結果、巨大化もできるようになった。頭身はそのまま、数倍のサイズになり、イレズミと純愛仮面の二人を両手に抱えることだって出来る力持ち。


「これなら二人を抱えたまま飛ぶことが出来そうです! 任せてください!」


 取り敢えず巨大な少年は、当てもなく中央に向かって飛ぶ。


「……くっくっく……。あははははははは!」


 ピギイの手の位置から、ピギイを見上げるイレズミさんは笑いが止まらない。

 何がそんなに可笑しいんだろうか、いやまあピギイを見ればなんとなく分かるんだが。


「……なんですか。イレズミ様。何がそんなに可笑しいんですか……?」

「いやぁ……。大きくなってもお前は可愛いなって……。どうだ。純愛仮面。なんかもう、さっきまでの激闘が吹き飛ぶだろう」


「え!? ああ。そうだな! 確かに風船みたいに膨らんでて可愛いし、面白い!」


 それでも純愛仮面は笑わない。彼はとにかく、今の現状を楽しんでいるとともに、後悔している。


(なんでこんな馬鹿みたいな名前にしちゃったのかしら。私そのものが馬鹿なの?)


 そんな純愛仮面の後悔と同時に、イレズミの後悔も同時に進行していく。

 どうやら魔王に就任したての頃まで遡っているようで。


「……私が四天王を東西南北に置いたと思っていたが……。もしかしたら、私は彼らに封じ込められていたのかもな」


 その説はあり得る。しかも彼らは重要な役割という名の人質を取り、イレズミに殺されずに済んだ。それを機に、また次の好機を狙うために、彼女を中央に貼り付けにしたと。その事を反省している。


「ピギイ。これからは拠点を変えつつ、スキルを集めて力をつけよう。取り戻すぞ。魔王だった私を」

 巨大化したピギイが首を振る。力強く、訂正したい箇所があるらしい。


「いえ。魔王様。私もスキルを集めます。二人で魔王になるんです。そうすれば、もう誰も私達の中を引き裂くことは出来ません」|


 悶える純愛仮面。そうそうこれが見たかった。障害を超えて無自覚に愛を誓い合う二人の平和な姿が見たかったのだ。


 そんな二人の遠い未来より、もっと近い直近の未来を憂う純愛仮面。


「そういえばこれからどうするんだ? 二人は?」 


 イレズミが代表して答える。悩むことなんて無い。即答だ。


「私達は知り合いの家に泊めてもらう。ガネーシュ村にいるんだ。お母さんみたいに、優しい人が」


 絶対にこれはお姉様のことだ。これはヤバい。


「……なるほど……。(まずい……! 先回りしておかねば……!)」


「純愛仮面も来るか? 多分助けてもらえるぞ」


 汗がダラッだらな純愛仮面。肩の痛みと、ママとしての使命がせめぎ合う。


(駄目よ! ここは無茶をする場面! 先に帰って二人のためにお風呂を沸かしてご飯を作って両手を広げて待ってあげるの!)


 だってそれってめっちゃお母さんっぽいし。ってことで。


「すまん! 少年! 私を先におろしてくれないか!」

「え!? なんでですか!? まだ肩の傷が治ってないじゃないですか!」

「いや……悲鳴が聞こえるんだ! 純愛が助けを呼ぶ声が!」


 どうやら純愛仮面のスキルで純愛のピンチを察知したらしい。

 そういうことならと渋々、純愛仮面を下ろすピギイ。一緒に一旦イレズミも降りる。ピギイは本のサイズに戻る。二人で並び、顔を見合わせ、名残惜しげに純愛仮面を見つめる。


「……分かりました……。あの……。」とピギイ。

「……。えーと……」とイレズミ。

「また会えますよね……?」「また会えるよな……」


「……………………ああ…………」


 ——母乳が出ちゃう……!——




 夜を越えて、朝が来る頃にはピギイとイレズミがお姉様の家に到着する。

 何故かくっそ汗だくのお姉様がそこ出迎えてくれた。でもお互いに何も聞かなかった。ただただ存在を確かめるように抱きしめ、お風呂と食事を一緒に、家族のように終えて、お姉様は自分の部屋に、二人は犬小屋の中に入る。


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