エピローグ
【犬小屋の中・そして手紙の真実】
犬小屋の中が豪勢になっていた。ベッドのようにマットと毛布が完備されており、快適度MAX。その中で、二人は久方ぶりにじゃれあう。
「こちょこちょこちょこちょこちょこちょ」
「アハハハハハハ! くすぐったいですー! おりゃ仕返し! こちょこちょこちょこちょこちょこちょ」
「いだだだだだだ! なんか痛い! いたくすぐったい!」
「あ! 戦いの傷が……!?」
ピギイは無傷そのもの。イレズミが回復してくれた後、戦場のメインウェポンはイレズミが担当してくれていたので。
「……。なんか回復もまにあってんのかよく分からないな。あんな激闘はもう懲り懲りだ」
先の戦争で並ではない攻撃をもろに受けまくったイレズミの体は流石に傷まみれ。打撲のあとに切り傷。筋肉痛だってある。
「大丈夫ですか……?」
「……ああ……。ふふふ……」
「……? なんで笑ってるんですか……?」
思い出し、笑うイレズミ。
「いや……。本当に嫌な思いもしたけど、嬉しいこともたくさんあったなーって。魔王を止めたあの日から。それが続いたなーって。思い返して笑ってた」
「……途中死にかけてたようなもんじゃないですか」
「……でも、ピギイが助けてくれた」
ピギイは内心、自分は足手まといなんじゃないかって思っていたピギイ。戦闘能力があるわけでもない。イヴォルグを逆撫でしてしまったりもした。それに、スキルの分配だって、防ぐことが出来たのは彼だけだっただろう。旅の間、その責任感はついて待っていた。
でも良かった。またこれで、いつもの日々が続く。彼はそう確信する。
イレズミの尻尾がスルスルとピギイの尻尾に絡みつく。ピギイもそれにいじらしく応える。イレズミはピギイの目を、奥を見る。
「ねえ、ピギイ……?」
今日の彼女が醸し出す雰囲気は、いつもとちょっとだけ様子が違う。いたずらっ子なコインの表は、振り返ったら赤らむ少女。どっちも彼女の一面だけれど、どっちが出るのか分からない。
「……何でしょう……? イレズミ様」
尻尾を絡めた後に結んだ両手は、一層、二人のつながりを強固にする木の根っこ。二人の間の距離は0に近づく。そうやって世界から二人以外を締め出した後、もう一度、ふふふと笑う女の子は、
「私はあなたと一緒にいたい。それ以外は何も望まないと言いたいけれど。でも本当は、あなたと一緒に外に出て、行く宛もなく歩き慣れた道を歩いたりして……」
と、いたずらっ子な表を見せた。
「なんでそれを知ってるんですか!?」
ピギイはアワアワと慌てふためく。イレズミが一枚の紙をピギイに渡す。
「……悪い……これ……拾っちゃった……」
見るとあの、執務室に落ちていた、ピギイが認めたボロボロの、未完成の恋文。つまり、手紙の主はピギイで、あの時持ち去ったのはイレズミだったのだ。
「ねえ……聞いて。ピギイ」
「……はい。」
「私もあなたと一緒にいたい。それ以外は何も望まないと言いたいけれど」
でも本当はね……?
「あなたと一緒に行く宛もなく歩き慣れた道を歩いたり、残飯でもいいし端材でもいいから一緒に食べたものの味の感想を伝え合ったり、もっと美味しいものを作って食べたりもしたい。」
「一緒の犬小屋で雨風を凌いだりしてもいいし、いつか2人で建てた小屋で家具の配置で喧嘩だってしてもいいし。」
「別に何やったって良い。走ってもいいし寝転んでもいいし何してもいいし何もしなくても良い」
胸を、両手で抑えるイレズミ。
「この気持ちが何なのか、正直私には分からない。ただ、あなたに助けられてから更に、胸の鼓動が痛い
ほどに私を苦しめるだけ」
だから。
「一緒に探してくれる? この気持ちの、痛みの正体が、何なのかを。」
真っ赤な顔。表面張力に依って、バンジージャンプの如く飛び降りることを許されない瞳の雫。
絶対に、ピギイしか見たことのない、彼女の開いた眩しい微笑み。
「……はい……!」
ピギイは安心して涙を流す。お前が泣くんかい。
「ははは! なんで泣くんだよお前は」
「安心したんです……! 手紙のこととか、漫画喫茶でのこととかで、イレズミ様が私のことを気持ち悪がったりしてないかなって……。それに……。宿での件、覚えていますか……? 私がイレズミ様に『元の関係に戻れますよね?』と尋ねたら『分からないって』返答があったじゃないですか」
「いやそれはだって……。分からなかったんだもん……。すっごい鼓動がうるさくて……。呪いとかなのかなって思っちゃってた……。とにかく戸惑ってたんだよ」
何じゃそりゃ。
純愛にもほどがあるだろう。現に家からお姉様が悶えるゾンビのようなうめき声が聞こえるじゃないか。
イレズミが続ける。
「それに……手紙に関しては四天王がキモいだけだから……。お前の手紙の内容はとっても可愛いし、何よりお前なら私はなに書かかれたって嬉しいぞ………………あ。嘘です……」
といい、その後
「サタリカと同じ内容だったら引く……」
と、気になることをぼそっと言う。そんな言い方をされたら興味が出るというもの。
「……それってどんな内容なんですか……?」
「……それはな……」
なぜか耳元で囁くイレズミ。青ざめたピギイが一言。
「……怖いですね……」
「……だろ……?」
ドン引きした後、あんなにやばいやつもいるもんだなってことで、顔を見合わせて笑い合う二人。余裕がある証拠。あんなキショキショポエムを思い出して笑えるんだから。
それにしたって脳が穢れた。さっそくピギイに浄化してもらおう。
「ピギイ…」
「……はい」
「手紙の続きを聞かせて」
しかし困った。ピギイが書く予定だった続きはイレズミに先取りされてしまった、その殆どを。同じ事を言い返しても良いが、それでは芸がないような。なので………………。
「イレズミ様」
「…………なぁに? ピギイ」
「…………あ、あの……」
「………………?」
「もしよろしければ……。一緒にお手紙の続きを作ってくれませんか……?」
イレズミの瞳孔が開き、ピギイが想定した未来を思案する。
手紙を完成させるために、二人で一緒に歩む未来を、彼と私で計画するんだ。それってなんだか、始まりと結末を決めて物語を創る、漫画家みたいじゃないか。
「……ピギイ。だったらさ、結末だけは決めておこう」
「……というと?」
「……じゃあさ……。ペンを貸して……?」
と言い、イレズミはペンを手に取り、ピギイから背を向けて、見えないようになにかを綴る。
「出来た!」
「見せてください! ………………………………。これって手紙って言わなくないですか…………?」
「……でも別に良いだろう?」
手紙は開いたまま、二人の愛の軌跡を見せびらかす。表面に、二人が書いた内容が記されている。いつぞやのピギイが消しゴムで消したあとも残っている。
どうせなら新しい紙に書けば良いものを。
『私はあなたと一緒にいたい。それ以外は何も望まないと言いたいけれど。でも本当は、あなたと一緒に外に出て、行く宛もなく歩き慣れた道を歩いたりして……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
二人は幸せにいつまでも暮らしましたとさ。』
最後までご覧頂きありがとうございました。続きを書く余地はありますが、それは書籍化がもし叶ったら、また二人+お姉様のお話の続きを書こうかなと思っています。まあこんな狂った構成のお話、どうなるのかわかりませんが。拾ってもらえる気はしない。
元々はとある公募用に書いていましたが、なろうの、とあるコンテストをマジで一週間前に知っていても経ってもいられなくなり、残り二万文字をそっこうでしあげたという割と荒療治。まあプロットは完成してたからスムーズではありましたが。何かしらのミスはあるかも知れません。
まあとりまあざした。




