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調子に乗って部下たちに私の持つ『千を超えるスキル』を分配しまくったら最後に見事に裏切られたんだけど?  作者: 瑠火


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三章開始前:幕間。

 ミネルヴァが去った後、イレズミとピギイはもう一日をお姉様と共に過ごした。それぞれの服を川に行き皆で洗濯。乾かす間、近くの山で、山菜やらきのこ類やらボアの肉の調達。130㌢モードのピギイとイレズミがウキウキ。


「お鍋の予感がします!」

「そうだな! 鍋の予感がするよな!」


 しかし、そんな二人を嘲笑うように不敵に高笑うお姉様。


「……はーっはっはっは! 甘い! 甘いわ! 二人とも! まるでカレーの甘口のように甘い!」


「カレーなんだな」

「カレーなんですね」


「そうよ! カレーよ!」

「「やったー!」」


 そんな感じで楽しく、イレズミがやってみたかったスローライフの一端を楽しむ。採った食材を調理し、鍋にぶち込み、スパイスを入れる。と、ここでしょうもないハプニング。


「あら。マッチが無いわ。どうしましょう」


 困った困った。これではカレーが出来ない。そんなときはこれ。


「ピギイ。お前『小さい火の玉を生成するスキル』取ってたろ。使ってくれ」

「ああ、そう言えばそうでしたね。えーっと……。」


 ピギイのスキルコアが光る。ピギイの手のひらから火の玉が生成される。それを見てイレズミがニヤリと笑う。


「ふふふ……本当に小さい火だな……。私の方がよっぽどでかいぞ……。……ほら」


 木造建築の中でピギイの火の玉より少しだけ大きい火球を出すイレズミ。


「まあスキルデータの残渣だし。戦闘には使えないが。こんなものか」


 スキル分配前はもっとデカい火を出せていたんだぞ。と、ピギイに自慢する酒屋のジジイみたいな事を言うイレズミをじーっと睨みつけるお姉様。


「イレズミちゃん……。普通に危ないからやめてちょうだい」

「ああ。すまない。しかし、恐らく水を生成するスキルも使えるはずだから……」

「……家を燃やす前提の話はしないで。とにかく、それならお風呂の準備をお願い」


 イレズミがお風呂用のかまどに薪を入れる。空の浴槽に、先程イレズミが言っていた水を生成するスキルで水を入れようとするも……。


「あれ? 出ないな。残骸データが無いのか?」


 するとあからさまにピギイががっかりする声を上げる。


「えー。残念です……。水筒を購入する必要が無くなると思ったのに……」

「確かに……。火も大事だけど水のほうがよっぽど大事だよな―! まあ良いか。水は普通に溜めよう」


 というわけで家の設備を遣わせてもらい、水を貯める。かまどに薪をぶち込み、そこにピギイの小さな火の玉を入れる。


 二人がキッチンに戻ると、お姉様が暖炉の上に網を置いて、村で購入しておいたフランスパンの様な形状のパンをスライスして、炙る準備。イレズミが薪を持ち、暖炉の中に薪を入れて、ピギイが火を灯す。


数分後……。


「じゃあ二人でお鍋とパン、見ててね―。」


 お風呂に入ってくるらしいお姉様。気を利かせたつもりなのかも知れない。


「大役を任されたぞ! じゃあ二人でやるか」


 童心に返りっぱなしの少女の尻尾が弾む。そんなわけで少女は少年の髪を結び、並び、しゃがんで暖炉を見つめる。焼けたパンを少女が卓にある皿に移す。次を焼く。鍋を混ぜる。座る。


 ふっと少年は少女の横顔を見る。


 少女の顔が火に照らされて、頬は紅く燃ゆる。両の眼尻は枝垂れ、長い睫毛は白目・黒目を少々遮る。下ると口元は少しだけゆるりと、昔を懐かしむように笑んでいた。ただ、いつもと顔の部分の配置と角度が違うだけで、こうも印象が違うものか。そりゃ、手紙だって書きたくもなる。


「……どうした。ピギイ」

「……! なんでもありません……」


 と、言いつつ顔を逸らすも、なにか名残り惜しくなったのか、少年は少女の方向に体重をかけることにし、結果、小さな肩を寄せる。


「……なんでもあるじゃないか……」


 少女は少年を受け止める。


 お姉様がお風呂から出た。全てのパンはカリカリに身を焼かれ、鍋に入ったカレーも準備ができているときてる。


 全ての料理を皿に並べ、昨日と同じ卓に着き、いただきますと良い、パンに手を付ける。


「ねえ……。」

「……なんだ? お姉様」

「このパン、少し焦げ臭いけど。ちゃんと見てた?」

「……ああ! ハハハ!」

「……なによ。なんで笑うの」

「ちゃんと見てたよ。他のは大丈夫だから安心してくれ」 

「……なら良いけど」


 だったらなんで、この子の顔はこんなにも真っ赤なのかしらね。あなたは笑ってるけど。パンじゃなくて違うところでも見つめてたんじゃないの? なんて、お姉様は少年を見て、内心呆れ、悶える。

 

 楽しい一日は終わるのが早い。いつの間にか朝が来た。目覚めてすぐ、二人は乾かした服を着る。

 再三指摘された準備不足は、お姉様が解決してくれた。リュックサックの中に水筒、着替え、携帯食料、銭、折りたたみ斧等々……。


「折りたたみ斧って何だ。そんな物初めて聞いたぞ」

「うふふ……。イレズミちゃんにはお似合いかなって」

「誰が蛮族じゃ」

「まあまあ。この斧斬れ味すごいんだから。」


 というわけで断る道理も無いので言われた通りにありがたく持っていく。

 イレズミはミネルヴァから着想を得て、アラビアンなマスクで口元を隠すことにした。これなら男の好奇な目から、多少は逃れることが出来るだろうということ。


 ピギイにはショルダーバックを。丁度良いサイズのリュックが彼にはなかったので。


「本当に良いんでしょうか? 何から何まで……。」

「良いの。お金なんていっぱいあるから。」


 二人が準備を終えて、玄関の前。寂しそうな表情のお姉様(ママ)に見送られる。

 可愛い子どもの独り立ち。子を産んだのなら、それは避けられない宿命。産んでないけど。


「イレズミちゃん。ピギイ君」


 お姉様の声に、表情で反応する二人。お姉様が二人を交互に見回し、力強い表情を構える。


「いつでも戻っておいで。お母さんはここで待ってるから」


 椅子に座っている二人を交互に抱きしめるお姉様。

 (お母さん……?)(お母さんですか……?)


 交互に抱きしめた後、最後に二人を同時に抱きしめるお姉様。ちょっとだけ、涙が出ちゃう。


「……じゃあいってらっしゃい!」

 なんやかんやで二人も泣いちゃう。


 二人が去った後。こちらお姉様。二階に向かい、自身と同じサイズの鏡の前に立ち、顔を見つめる。


「……生きる理由が出来たわね……」


 別に死のうとか思ってないらしいが、でも生きる意味を見出したらしい。


「……。この家から離れることになるなんて……」


 お姉様はお姉様用にこしらえた荷物。剣。そして……。目元だけを隠したベネチアンマスク。

 お姉様が自身の臍の代わり腹部の中心を陣取る、スキルコアを服の上から撫でる。確かに、イレズミとピギイに反応するスキルが詰められたコアと、鍛え抜かれた腹直筋は変わらずここにある。


 戦う準備はできた。


「……私……。行きます。」


 純愛の守護者、始動。 


 ◇◇◇

 

 同時刻。視点も度々移動するが、今はミネルヴァを捉える。


 城下町:ジュネーブ。魔導協会に常に守られた町。


 この街のテクノロジーはその他の国大陸を凌駕する。街にはいたるところに、金属に守られた監視カメラが点在し、犯罪率を著しく下げる役割を担う。


 ミネルヴァの足取りは重い、鉛のように。


 気乗りしないが進む必要がある、城の内部まで。


 街の裏門を搦手門と呼び、表門を大手門と東の島嶼国では呼んだりする。ミネルヴァは、北に位置する裏門から入門する。


 南はお客様。魔導協会は世界を相手に商いを行う。故に大陸側の門が、裏。


「本音」「真意」「裏事情」。には、善悪問わず、騙したい意図が潜む。「弱点」「体皮の裏側」「他の四天王」これらはすべて、イヴォルグにとって隠されるべき恥部である。


 ザッザッと歩行音はミネルヴァから。サイレンの音が魔導協会から。

 

『国民の皆様。こんにちわ。放送室が八時をお知らせします。今日の天気は晴れのち曇り。雨の心配は…………』


 ◇◇◇

 

 ジュネーブでは魔動器が汎用的に、各家庭で、事業所で、店舗などで所構わず使用されている。


 人々の生活が本格的に動き出す前の時間帯。


 こちらの家庭では専業主婦の女性が、魔導人形「イレズミ」を使用している。少女のような装いのぬいぐるみ型の魔導デバイス。かわいいクリクリとした目をパチクリさせ、口をぎこちなく動かしながら、


「イレズミ」は応答、通信を担う。


「ねー『イレズミ』。今日の天気は?」

『日中は隅々まで青い空が広がりますが、夕方4時頃を迎えると曇りになります』

「雨は降らないんだね。了解」

『ハイ! またいつでもお声がけください。』 


 このあと、女性は吸引式の掃除用具を使い、床に落ちたごみを効率的に拾う。


 お次はこちら。「イレズミ」といつものように話しかける少女。齢は8を数える。


「ねー『イレズミ』。聞いてよー。」

『どうしたの? リンちゃん』


「最近植えた花なんだけどね。コレってすっごい良い匂いがするんだけど、青虫さんがよくくっつくの。コレってどうにかならない?」

『青虫さんねー。かわいいけど、葉っぱを食べたりするから、それが嫌だよねー』


「そうなの! 葉っぱが穴だらけになっちゃって……」

『それは大変! なら、近くのお花屋さんがあるでしょ? あそこで虫除け剤を銀貨二枚で買うことができるから、ママにおねだりして買って貰ったほうが良いよ!』


「うん! わかった! ありがとう『イレズミ』!」

『いえいえ! じゃあ行ってらっしゃい! 気をつけてね!』


 セキュリティだって立派に機能する。一人の、外部から入ってきた魔族の男が街で、金銭の不足から起因する犯行を試みた。とある一軒家での一幕。


「大人しくしろ……」

「……助けて……『イレズミ』……」

『犯罪行為を感知。セキュリティモードに移行します。』


 犯罪者が無力化される光景をご覧あれ。部屋を汚したら国民が可哀想なので、「イレズミ」が犯罪者の頚椎を小さな手で掴み、へし折った。扉の外から「イレズミ」が複数押し寄せる。心配だったのだ。被害者に怪我がないかどうか。


 外の「イレズミ」が去ったあと。持ち主の「イレズミ」と被害者のやり取り。

『怪我はありませんでしたか?』

「大丈夫だよ! ありがとう! 『イレズミ』は力持ちだねー」


『はい! 貴女を守るために、夜な夜な筋トレしてるんですよ……?』

「またー冗談ばっかり!」


 ひとり暮らしの女性。カナさん。年齢は45。未亡人。更に、早い時に、一人の男の子まで亡くしてしまった。

 ここにも一台の「イレズミ」。実は、「イレズミ」は男性ボイスも、少年ボイスも兼ね備えている。優しく、迷走神経に心地よく響くバリトンボイスと、快活な少年の声が響き渡る。


『こうして、狐さんは島に取り残されてしまいましたとさ……おしまいおしまい』

『いい話だね! すっごい良かったよ! ねえママ!?』


「本当ね……。もっと続きが聞きたいわ……」

『じゃあ! 僕が考えた話を聞いてよ! 良い?』


『ああ……でもシュンに出来るかなー……?』

『出来るもん! 聞いて!』


『しょうがないなー……じゃあカナ……一緒に聞こうか』

「……はい……」


 カメラが忙しい。最後はひとり暮らしの男性。30歳くらいか。少々脂を蓄えた腹をつまみながら「イレズミ」を抱きしめる。

「……『イレズミ』ィィィィ……」

『どうしたの……? タクちゃん……?』


「……好き……」

『ふふふ……私も好きだよ……。タクちゃん』


「違うよ!『イレズミ』は僕が一回好きと言ったら『百回』好きと言わなきゃ!」

『えー……ちょっと恥ずかしいよ……なら先にタクちゃんから言って!』


「わかった! 聞いてて!」

『うん!』


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

 

 ◇◇◇


 城の入口。大きな門扉は来訪者を飲み込まんとして開かれている。通路は長く、奥までを目視することは困難。


 ミネルヴァのコツコツと響く足音が、城内に響き始め、彼女の座標を知らせる。城内には誰もいないが、まとわりつくような視線を彼女は浴びている。


 行き止まり。眼の前には自動で昇降する鉄の箱。最下層へとつながるボタンを押す。入る。扉が閉じられる。近傍全てから視線を浴びる不快感からは、箱に守られようが逃れることはできない。


 着く。扉が開く。短い通路に出る。歩く。歩き続けた先に扉。自動で開いたので、そのまま暗がりの中に入る。眼が闇に慣れていく。すると視界に入る、壁四方を埋め尽くす目、目、鼻、鼻、耳、耳、口、口、口。口口口口口…………。


 それらの独立した体の部位は、部屋の中心にいる男と通信で繋がる。


「……イヴォルグ」


 壁に埋め込まれた口のうちの一つが開く。

『いらっしゃいませ! ミネルヴァ様! ご要件は何でしょうか!?』


 一人。重力に抗うことを諦め始めた、上背がある巨大な猫背の男。汚れた長い前髪で顔を覆う。古びた魔女のようなフード付きのローブを着ており、顔は隠れている。金属製の魔導杖をついて身体を支える。


 身に纏うローブにも壁と同じように、体の部位が寄生する。そのうちの一つが口開く。


『国民の皆さん。こんにちわ。放送室が九時をお知らせします。今日の天気は変わらず晴れのち曇り。雨の心配は…………』


 男が指でミネルヴァを、革製のソファに促し座らせる。


 部下にねぎらいを。煎じた紅茶を。 


『日中は隅々まで青い空が広がりますが、夕方四時頃を迎えると曇りになります』


 イヴォルグが紅茶をティーポットからカップに注ぎ、ミネルヴァの手前に置く。ミネルヴァは持ち手を摘み、口元まで持っていき、飲む。


『ハイ! またいつでもお声がけください。』


 目がそれぞれの視界に入っている光景を、その瞳に映し出す。壁やロープに張り付いた口達は、情報を伝達するために絶え間なく耳に向かって開き続ける。各地にいる「イレズミ」が伝達された情報をキャッチし、模倣する。

 

『どうしたの? リンちゃん』


『青虫さんねー。かわいいけど、葉っぱを食べたりするから、それが嫌だよねー』

『それは大変! なら、近くのお花屋さんがあるでしょ? あそこで虫除け剤を銀貨二枚で買うことができるから、ママにおねだりして買って貰ったほうが良いよ!』

『いえいえ! じゃあ行ってらっしゃい! 気をつけてね!』

『犯罪行為を感知。セキュリティモードに移行します。』

『怪我はありませんでしたか?』

『はい! 貴女を守るために、夜な夜な筋トレしてるんですよ……?』

『こうして、狐さんは島に取り残されてしまいましたとさ……おしまいおしまい』

『いい話だね! すっごい良かったよ! ねえママ!?』

『じゃあ! 僕が考えた話を聞いてよ! 良い?』

『ああ……でもシュンに出来るかなー……?』

『出来るもん! 聞いて!』

『しょうがないなー……じゃあカナ……一緒に聞こうか』

『どうしたの……? タクちゃん……?』

『ふふふ……私も好きだよ……。タクちゃん』

『えー……ちょっと恥ずかしいよ……なら先にタクちゃんから言って!』

『うん!』




 

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

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