二章:後半
【十年前】
容姿の良い子供は貢物として査定され、価値が付与される。四天王や魔王の監視の目をかいくぐる事は、南東や北東を選べば容易い。その緩衝地帯で、愛玩用にと攫われたり売られた魔族が非合法に販売されていた十年前。
ピギイが五歳の時だ。魔族が産まれて五年と言ったらそれは、それは幼い。環境が良ければ、それに伴い身体も成長するものだが、当時のピギイの体の状態から推察するに、あまり栄養状態が良いとは言えなかった。つまり、彼の家庭には、食に満足に使う費用なんてなかったと。つまり貧困していたと。だから売ったと。そう、推察できると。
ピギイは女の子として売られたし、買い手は勿論女の子として買った。魔族にピンク色の髪なんてめったに生えない、そしてそれは女の象徴として扱われる桜色。色を好むものは、麗しい少女に生えたこの髪の色の価値を、知っている。
かくしてピギイは極上の少女として育てられる予定だった。なので、彼が男だと判明した際、怒り狂った主人は彼の腹を殴り、もう一度、売ることにした。
『男だから、いらない。』
これを幾度となく繰り返す。男であることは秘匿され、女として売られる。そしてまた、女ではないと判明して売られる。
北東。あそこは死の信奉区と竜の巣の境目。故に魔の者であっても好んで近づきはしない。北西よりはマシだが。マシだからこそ、隠されるべき犯罪行為が行われる余白が在る。
五歳のピギイはその他の子供たちと同じ様に檻に入れられた。外から容易に中の様子を観察することが出来るし、中から外に出ることは出来ない。食事と水どちらも安全に手渡すことが出来る。死は救いであって、現実的な逃走手段には成り得なかった。
一度、ピギイは自身の体長を変える特性を生かし、脱出を試みたが、直ぐに【監視スキル】持ちにバレて、捕まってしまった。結果、檻ではなく、今度は空気穴のみが空いた箱に入れられた。価値を見出されたピギイを、絶対に逃がしたくない表れだ。
暗いは怖い。闇に灯す一筋の光は救済には成り得ない。絶望をただ生き永らえるしか無いだけ。
次第に、男の子なら男の子で需要はあるということに気づいた組織の人間。なにせ容姿がいい。女に飽いた客が次に満たす欲望の器として、これほどまでに適合した者がいるのだろうか。つまり、そのようにピギイは売り出され、すぐに次の買い手は決まる。
(……次は何処に行くんだろう)
自分の行く末とは。
顔にでも傷を付けてしまおうか、目を失えば良いのか。爪が綺麗に整えられたとて、指がある。抉ればよろしい。その両眼を。それよりも男の象徴を損なうほうが先か? そうか、女になれば良いのか。男として損なわれるより、女として喪ったほうがまだ自我を保てそうだ。こんな物が要らないんじゃないか。
自身を欠損させることにより、世界が自分を見失なうようにと画策もするが、そんな勇気はなく、実際にピギイが買われた日まで下る。
荒野の中にぽつんとある、忘れ去られた洞穴のようなダンジョンの中が今回の会場らしい。ボディガードに囲まれた買い手の男が、目隠しをしているピギイを出迎え、抱っこして共に会場を出る。数分歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。
魔王が現れる。
「は……!? いつそこに!?」
そこには覇気をまとい、大気を震わせる程の圧を発する『男』がいた。何の前触れも無く現れる彼はついでに死を運んできた。
「……いつでもだよ……」
買い手の男とボディガードの男の生気がみるみる消え失せていく。取り敢えず生かしておけば良いとして、魔王は手をかざし、スキルを結合。
【透明になるスキルLv5】と【飛ぶ斬撃Lv5】をかけ合わせて【見えない斬撃を飛ばすスキルLv5】を発動。触れてもいないのに男の四肢を両断。ボディガード達も同じ運命をたどる。
男の腕が胴から外れピギイが落下する。地に落ちる前に魔王が足の甲で、キャッチし、ピギイをポンッと軽く蹴って手まで運び、抱きかかえる。魔王は、ピギイの視界を遮っていた目隠しを取り、一応ぎこちない笑顔を見せた。
「……助けに来たぞ」
安心したのか、ピギイは安堵の涙を流す。しかし、まだ終わっていないはず。中にはまだ、助けられるべき子供たちがいる、と嗚咽混じりに伝えると
「ああ、皆もう既に助けてある」
「……よかった……」
「さあ、親の元に帰るぞ」
「……え……?」
「え? って、お前、攫われたんだから、帰らなきゃ。さあ、もう安心だ。行こう」
知らなかった。攫われた者と売られた者がいたなんて。
彼らは必要とされているのに奪われた被害者だ。
ならば、私は、お金より価値が無いとしたうえで売られた中古品。ただの売り物が親の元に帰ったらどうなる? もう一度売られるに決まっている。
ここまで言語化できていたかは知らない。しかし、親のもとに帰る者ばかりがいると知って、不公平を感じずにはいられなかったピギイは涙を流す。泣きながらただただイレズミに現状を伝える。
「……私には帰る場所なんてありません……。だって売られたんですから……」
「……そうか」
困った魔王。今回、この北東地区に来た理由はただ一つ、犯罪組織の壊滅。ただでさえ荒れているバッファー地帯、放置できるわけがない。ソドムとナイーラにお願いすることも際どい。四天王が境界線に近づけば争いのきっかけにだって成りうる。それにそもそも自分で解決できるのであれば、あんな奴らになんか頼る必要なんて無い。だから魔王直々に来たわけだが……。
「お前……。女か……?」
返事はない。
「……聞こえてるか?」
「はい。私は女です」
「よし。ならうちに来い。私の城に住まわせてやる」
魔王が舌を出す。スキルコアが彼の唾液を纏い、艶めかしく光る。すると二人目三人目と魔王の分身体が現れて、買い手の男と、ボディガードの男たちが東へ消える。
「さあ、飛ぶぞ。」
千のうちの一つ、瞬間移動のスキルを使って、魔王とピギイの姿が消える。初めての体験だから、ピギイはびっくりして目をつむる。少し時間が経って目を開ける。
そこには今まで見たこともなかった、荘厳な城がそびえ立っていた。
天を突く鋭利な尖塔、歪んだ形状の城壁、巨大な黒曜石。そのどれもが、ただの居住空間とはかけ離れた、圧迫感を感じさせる。
「入ろう」
開かれた扉の入口を通り過ぎる二人。出迎える金を冠するシャンデリアの数々と、相反する印象を与える無骨な甲冑が通路を彩る。そして中央の、玉座へと続く直通階段は急な勾配を要しており、見るものへの畏怖を無条件で与える。
「……どうだ」
「……?」
ピギイを抱きかかえたまま、魔王がピギイに優しく話しかけるが、言葉が足りず理解されていない。
「……女の子って、こういう城、好きだろ……?」
めっちゃ男だし。なんならむしろ男が好きそうな城である。
まあでもこれからお世話になる男の機嫌は取っておこうと反射的に「はい。好きです」と返事をするピギイ。
「……お前はなぜ敬語なんだ?」
「……この方が良いんです……」
なるほど。と短く頷く魔王。どうやら子どもの扱いには慣れていない模様。取り敢えず玉座まで移動し、座る。ピギイは魔王の膝の上に座る。
「お前の名前を教えてくれ……、と言いたいところだが、私から、先に名乗ろうか。」
私の名前はイレズミだ。これからよろしく。
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この城には多くの個室があるが、住んでいる者はこの、イレズミを名乗る男ただ一人。雑務をこなす掃除人や、料理人、郵便担当の者でさえも彼の分身体。そんな彼に、なぜそこまでして一人で全てをこなすことに拘るのかと尋ねると……。
「……男が嫌いだからだ……」
「……では、女の人は……?」
「……女か……。男よりは良いが……。駄目なんだ……」
なんのことやら。然しそうなると、ピギイがここにいる理由とは。
「お前は行く宛がなかったんだろう? であれば私が引き取っても何も問題はない」
そういう事を聞いているのではないが、ピギイには、脇道に逸れた話を修正するほどの論理構築能力はまだ備わっていない。まあ五歳だし。仕方ない。
イレズミがピギイの頭を撫でる。
「まあなんでも困ったら聞いてくれ。私に出来ることは何でもするから」
魔王と名乗ろうとも、子供には優しい。イレズミの瞳を見て、ピギイはまたも安心して泣く。
「ふふふ……。とにかく一旦、お風呂に入ろうか。」
途端に泣き止むピギイ。もしやこの男、私と一緒に入ろうとしているのでは……?
「は、恥ずかしいので……遠慮させてください……」
「……! ああ……。そうだったな……。わかった。ただし、私の分身体が浴室の外にいるから。何かあったらすぐに大声でもなんでも出せ。」
ち ん ち ん だけは死守しなければならない。男だとバレないように。イレズミは明確に男が嫌いって言ってるし。
そんなこんなでデカい浴室に一人で入るピギイ。ハラハラするイレズミの分身体。しかし、イレズミは男の筈なので、乙女の入浴なんて見たら駄目。まあこんな感じで、二人は色々あれど、一年を過ごす。
実際に一年が経過した。イレズミはピギイに施しを与えど、部屋を与えど、教育を与えど、しかし労働は押し付けなかったが、遂には言語能力を備えたピギイがそれを許さなかった。
「魔王様。やっぱり働かざる者食うべからずだと思うんです。それに魔王様の料理している姿は見ていてハラハラします。私にやらせてください」
「お前……言うようになったな……」
じゃあ見せてもらおうじゃないかということで、脚立を用意し、ピギイを厨房に立たせる。するとイレズミより明らかにマシな包丁さばきを見せる。小さいフライパンなら違和感無く扱うことも出来る。
(……子供に包丁を持たせる親なんて……)
これは自発的に備わった能力ではないだろう。まともな親なら、包丁なんて持たせない。子供に火なんて使わせない。そう思うんだが。
「出来ました」
見栄えの良い卵料理にステーキ。綺麗な盛り付けのサラダ。料理の腕を見せつけるには十分だろう。
イレズミがそれらの料理を口に含む。
「……絶対に私の料理より美味しい……」
事実上の敗北宣言。ピギイは「でしょ?」と誇らしそうだ。
「やっと魔王様のお役に立てそうです!」
同時に嬉しそう。尻尾を上下にぴょこぴょこさせて、目をキラキラさせて、身長差故の、上目遣いでイレズミを見る。
「……任せて良いか?」
「はい!」
とは言ったものの、実際に鋼性の包丁を持たせるわけには行かない。人間界にはプラスチックで出来た安全な刃物という矛盾がある。都合がいいのでそれを南で購入し、ピギイに渡す。硬い根菜類等はそもそもメニューに入れない等とし、万が一を避ける配慮を徹底する。
「その……長い髪の毛は切ったほうが良いかも知れない。引火し得る」
ピギイの桜色の髪の毛は美しいが、火を扱うとなると障害になる。そのための提案だ。
「……絶対に嫌です……」
「……分かった。悪かった」
固すぎる意思によって拒否されたので、代替案として髪の毛は結んでもらうことにした。それと、やはりまだ心配なので、イレズミは料理の勉強と騙り、ピギイを見守る。
「上手にできました! 見てください! 魔王様!」
と、ピギイは整った卵焼きをイレズミに見せる。
ピギイの啜り泣く声が聞こえる夜もある。夜が怖いと。封じられた日々を思い出すと。イレズミはそれを察知し、部屋に入るもピギイは頼ってこず、しかし、恐れもせず。一緒に寝ようと一度誘ったが「……迷惑をかけたくはありません」と意地を張る。甘えるを知らない幼子の過去は想像に固くない。だからこそ、イレズミはピギイに甘えてほしい。
今日も泣いている。なので一つ策を講じよう。
部屋に入り、イレズミはピギイを抱き寄せる。
「ピギイ……?」
「……はい……」
「私も夜が怖いんだ。今まで隠していたけど」
「……嘘ばっかり」
「……いや、本当なんだ。私は、孤独が怖い。夜は、独りを増幅する。でも、他人は嫌い。お前以外は」
「……よくわかりません。」
「私のために眠ってくれ。一緒に」
「……分かりました……」
策は功した。一緒にピギイといる為の口実だ。
「よし。私の部屋に行こう。」
イレズミに抱きかかえられて、イレズミの部屋に行き、大きなキングサイズのベッドの前に立つ。イレズミが薄手の毛布を尻尾に引っ掛けながら二人は寝転び、器用に毛布を二人に被せ、外部の一切を遮断する。
向き合う二人。ピギイを正面から抱きしめようとするが、ピギイは体を回転させてイレズミに背を向ける。本当は嫌なんじゃないかとイレズミは逡巡するも、自分の直感を信じ後ろからピギイを抱きしめる。ちっちゃくて、温かい、そしてなんと弱いんだ。と、実感しながら壊れそうなガラスを抱きしめ続ける事数分……。
「……おやすみ。ピギイ」
二人は寝に落ちる。
分身体による業務の分担とは効率がいいもので、数に限界はあれど脳を働かせておけば、イレズミと、ある程度同じ性能で動いてくれる。だから本体であるイレズミは玉座に座して、ピギイに実用書の読み聞かせをする時間の余裕がある。
「……難しいです……」
「……まあ、子供向けの本ではない。あまり私は娯楽を知らずに育ってきたから」
「絵本などを読んだことは?」
「無い。なんというか……情報が薄いような気がして、退屈なんだ」
「ふふふ……なら、人間が書いた絵本を読みましょう。漫画と呼ばれるものですが。」
そんなわけで分身体であるイレズミとピギイの二人で、中央区にある小さな書店に行く。
「これにしましょう。私も読んだことは無いのですが」
ピギイが指した本をいくつか買うイレズミ。取り敢えずそれぞれを一巻から始める、ピギイの作戦。
本体イレズミの元に戻り、ピギイが一冊を手渡す。イレズミが漫画を開く。沈黙が続く。一ページ一ページをつまむ。捲る。捲る。捲る。読み終わる。
「……続きはないのか?」
したり顔のピギイが、ふふんとイレズミを見つめる。
夜の楽しみが一つ増えた。イレズミとピギイは寝る前に二人で一冊の漫画を共有するようになった。単行本とは都合がいい。二人で読むには身を寄せ合うしかない。又はイレズミの膝の上に乗るピギイという選択肢もある。肌がふれあいながら、二人が二人でいられる時間は順調に増えていってるような気がする。
ベッドの上。イレズミがあぐらをかく。股の隙間にピギイが、イレズミに背を向けて潜り込む。イレズミが漫画を持ち読む二人。内容は無人島でのスローライフ物。特にイレズミがこれに首ったけなようで、早く次巻が来ないかとソワソワしたり。
登場人物達が海岸にて、百キロメートル離れた島まで泳いで行くイカれたシーンを見たピギイが一言。
「私、泳げないんです」
「……泳げるようになりたいか?」
「……ちょっとだけ」
イレズミならそれはすぐに叶えられる。プールなんて無くても。
「……私なら教えられるが……」
「……大丈夫です。泳げなくても、幸せなので」
幸せだと本人は言うが、それでもピギイは髪を切ってはくれないし、寝るときは背を向ける。そもそもお互いが向かい合っていることもあまりないような気もする。一緒にお風呂なんてありえない。まあそれは別に良いとして。
言いようの知れない、なにか膜のような隔たりを感じる。でもそれが何なのかは分からない。
だとしてもそれで良い。別に向かい合って抱きしめ合うことが関係性のゴールではない。張られた膜を無理に破る必要なんて無い。
二人は徐々に二人だけの聖なる空間を構築していく。
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しかし、こんな聖域にも無粋な輩は現れるらしい。
魔王城までたどり着くことはそんなに難しいことではない。都市の中央にそびえ立つ、小高い山の上に立つ城はむしろハイキングコースにだってなったって良い。それくらいアクセス自体は良いのだ。魔王城ゆえの、複雑なダンジョン構造なんてない。危険な魔物なんていやしない。セキュリティは、魔王がいればそれで良い。
だから、『失った』ピギイを取り返しに両親が来たって何ら不思議ではない。
イレズミ達は、お仕事の合間のリラックスタイム。午後の二時くらい。いつもこの時間に、イレズミが玉座に座り、ピギイはイレズミの膝に乗り、読書タイム。
そんな事はお構いなしに、若い、黒い色の髪を携えた美しい容姿の女と、黒い髪の男が魔王城にズカズカと入る。魔王がジロリと一瞥しても、なお構わず。
ピギイが二人を見る。すると青ざめる。イレズミの膝からピョンッと飛び降り、二人の元に走っていく。
「何しに来たんですか! お母さん! お父さん!」
「おお! 無事だったか! お前が魔王に囚われていると知って、お前を取り返しに来たんだ!」
男の方がピギイを抱きしめようとするが、これを避けられる。当たり前だ。自身を売った奴に触れられたくなんてない。
ピギイが二人の元に駆け寄った理由は、愛ゆえのものではない。ピギイは恐れていることが、一つだけある。
女が魔王の元に駆け寄ろうとする。ピギイが進行を塞ごうとするも、子どもの力では止められず、実の子供だというのに容易に制止を振り切り、ピギイは弾き飛ばされてしまう。
そして怒ったフリをする女と、女の後方から、今度は声で制止を試みるピギイ。
「……あなたが魔王ね」
「やめて……」
「用件は一つだけ」
「やめて……!」
「息子を返して!」
魔王の表情は、二人が城に入ってきて以降、ずっと変わっていない。
眉間にシワを寄せ、怒りを滲ませるのみ。
この男と女の思惑は分かっている。どうせまた適当な理由をこじつけてピギイを取り戻し、売ろうとするだけだろう。楽な稼ぎ方を知ってしまった悪党は、得てして同じ方法で甘い汁をすすり続ける猿になる。
ふう……、と深呼吸をする魔王。舌を出し、スキルを使用する。すると、ピギイは一瞬の内に消えて、魔王の手元に抱きかかえられる形となる。
もう一度舌を出す。するとピギイの両親は何処かに消える。これから、彼らは死の信奉区:東にて、ただ逃げ惑うことになるのだろうか。
ピギイの顔を覗き込む魔王。ピギイの表情はこわばり、ダムが決壊する寸前の涙が眼に溜まる。
「そうか。お前は男だったのか」
だからか。お前が髪を切りたがらない理由も。正面から抱き合うことを恐れる理由も。お風呂だって嫌がる理由も。
イレズミがピギイの眼を、悲しみと少々の困惑を含んだ眼で見つめる。そんなイレズミの顔を見て、ピギイは生まれて付いて回る、性の呪いに懺悔するように、両手を両目に当てて泣きじゃくる。
「……嘘をついてごめんなさい……。」
男に産まれて…………ごめんなさい…………。
「……ピギイ。私の顔を見てくれ」
声の方向には魔王。ピギイは泣きながらもイレズミの顔を、指の隙間越しに見る事を試みる。溢れる涙で視界がぼやけようとも、イレズミの顔が大きく変容したことが分かる。
「……え?」
「私は女だ。ずっとお前を騙していて悪かった」
眼の前の女性は、ピギイと同じ様に不幸にも整った顔をしていた。望まぬとも二つの性を魅了する美貌に、扇情的な肢体。好きで生まれたわけでもないが、自分を損なう勇気なんて無いのはイレズミも同じ。だから好奇の眼で見られない為に、独りで大嫌いな男の姿で生きてきた。
魔王を名乗る女性が、言葉を不器用に、しかし真摯に紡ぐ。
「男が嫌いだ。でも私が言っている言葉の意味は、あいつらが私に向ける目が嫌いってことなんだ。そして女も警戒してしまう。女の中にもいるんだ。女を欲する女が。いいか、ピギイ」
決して、お前のことが嫌いな訳では無い。信じてくれ。
「むしろ、お前のことを愛している。この一年を通じて私は確信している。だから、もう男であることを隠さなくて良い。さらに言えば、何も隠さなくて良い。私も、もう何も隠さないから」
ピギイは返事をしない。でもイレズミの瞳を泣きながらも見つめる。
「庭に行こう。晴れてるし。一緒に、お互いを隠さない練習をしよう。」
と、イレズミから、デートのお誘い。
二人で庭まで移動。水を生成するスキルLv4と磁力を操るスキルLv5があれば全てを流し切る事が出来る。
「お前の尻尾にもあるな。スキルコアが。」
「……はい。」
「まあ知ってると思うが、私の舌にもある。」
舌をべ―っと出すイレズミ。舌端にあるコアが光る。
「水を生成するスキルLv4と磁力を操るスキルLv5を結合……。やるか。ピギイ。こっちに来い。そして尻尾を貸せ」
ピギイは言われたとおりに尻尾をイレズミの方に伸ばす。伸ばした尻尾の先端にあるスキルコアと、舌の先端にあるスキルコアが接地する。
『スキルを譲渡しています……。Transferring……。』
『譲渡が完了しました』
「私のスキルを貸してやるから、私の言うとおりにぶっ放せ。」
あいつらのドタマだと思ってな。
ピギイはイレズミに指し示された、太陽が在る方向を、太陽を直視しないように見る。イレズミがピギイの両手で銃の構えを作る。イレズミは屈んで後ろから、保護者のように優しく抱きしめる。イレズミの囁く命令で、ピギイの耳は少しくすぐったい。
「……いいか? ピギイ」
「……はい」
「よく狙えよ?」
「……はい」
「あいつらの頭だと思って狙い澄まして」
「はい」
「天を穿て」
「はい」
ピギイの両の人差し指から弾丸の如く飛び出していく、電子の塊とそれを囲む純水。それが上空で展開し、一気に花開く。
「……魔王様」
「……なんだ?」
「綺麗です……」
そこには、太陽の光を反射する水の球体があった。
不純物のない純水は濁りを知らず。反磁性を引き起こすための強力な磁場が、天に固定された弾力のある水球を、このように形作る。
もう一つの、地球のような、ピギイの為の惑星。なんて表現は、些かチンケが過ぎるか。
「ピギイ。」と話しかけるイレズミ、を、見るピギイ、に、再度デートのお誘い、を、するイレズミ。
「一緒に忘れよう」
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水面という境界面では、音のエネルギーのほとんどが遮断される。
この光景を、なんと例えれば良いのだろうか。適切な喩えは思い浮かばないが。
天から見る限りは、二人は肌を晒している。一糸も纏わぬ暴かれた姿に嘘も偽りもない。
天から見る限りは、二人は手を繋いでいる。少年は女の手を借り、嘘の海を往来する。
天から見る限りは、少年は独立し、水中をジタバタさせてどうにか泳いでいる。息苦しくなって、水面に顔を出すと何故か地面が視界に入り、そう言えばこれは球面だったと思い出して、可笑しい。
天から見る限りは、女が少年を迎えに行っている。心配そうに、慌てて、両手を広げて。
天から見る限りは、二人は静けさの中、抱き合っている。正面から、少年が避けていた筈の、相対しながらの抱擁はまるで閉じた蕾みたい。
天から見る限りは、二人はオデコをくっつけている。心無しか、なんだか彼らの目の辺りに不純物が光に反射されているような。
(ピギイ)
(ありがとう。産まれてきてくれて)
水面という境界面からは、音のエネルギーのほとんどが遮断される。故にこれは伝わらない。そんな事は知っている。
でも、伝えずにはいられなかったらしい。
「プハァッ!!」
二人は、太陽に近い、水面に顔を出し、二人で同時に向き合って空気を吸う。
「…………魔王様…………?」
「…………なぁに…………?」
「先程は、なんて言ってたんですか?」
「なんでも無いよ」
と、抱き寄せる。
◇◇◇
説明を終えたピギイとイレズミ。朝食中にやるには重すぎる話だったが、お姉様の反応やいかに。
「うわああああああああああああああん!」
母乳ではなく涙が止まらない模様。こういう顔を破顔って言いそうなものだが、これが誤用なのは納得がいかない。
「ピギイと出会う前の世界は何処か私にとって灰を露呈しているようで、つまらなかった。けど、ピギイのおかげで私は生きることが楽しくなった。今ではほら!」
見せつけるようにピギイを抱きしめるイレズミ。
「私はこんなにも明るくなったんだ! しかし、ピギイは中々まだ私に素直に甘えられないよなー。なんなら昔のほうが素直だっただろ。なんでだ?」
「え、そ、それはですね……」と、モジモジするピギイ。これはアレだな。アレのせいだ絶対。
「(これはアレのせいよおおおおお!)。……グス……。まあまあ。あけっぴろげな方法以外もあるわよ。甘え方って。私の目から見たピギイ君も、十分甘えてる方だと思うけどね」
助け舟を一つ、あちらの泣いてるお姉様から。ピギイはまだ、アレの正体が何なのか分かっていない。まあ別にお姉様が思うアレも正解なのかどうか分からないが。
イレズミに抱きしめられながら、浮かない、しかし真剣な顔のピギイ。
「どうしたんだピギイ? そんなに可愛い顔して」
「……ずっと気になっていたことがいくつか在るんです」
「なんだ?」
「そんな事が起こって、イレズミ様がスキルを手放すのってやっぱり不自然です。ましてや変化のスキルなんてイレズミ様の、ある種のトラウマを回避するためのスキルだったはずです。」
「スキルを手放すって?」とお姉様。事情を知らないから、気になる様子。
「はい。お姉様にはもうお話しますが……」と、ことの成り行きを解説するピギイ。
すると、ピギイの言ったことが腑に落ちた様子のお姉様。そのままピギイが疑問を重ねる。
「実務用のスキルを手渡すならまだしも、攻撃スキルまで、全て手放す理由がありません」
それに、と付け足す。
「この前、この村を襲った魔族の者たち。スキルが初期化されたと言っていましたが、これも考える必要があると思います。つまり、実務用のスキルも初期化して渡したのであれば、その意味とは?」
確かに。仕事してほしくてスキルを渡したのに、それを初期化する意味は無い。
「あと、あの郵便担当の男です。確かに私達は彼がいることに関して、なにも違和感がありません。しかし、どうしても矛盾をはらんでいるようにしか思えないんです。何故なら、イレズミ様が男を採用する理由が無いからです」
一番客観的に見ることが出来るお姉様も同感。男が嫌いなことは十分伝わっている。
「そうね……。それに、あなたほど裕福な魔族が、なんで荷物を持たずに旅をするの? 銭すら無いなんておかしいわ。水筒も無いんでしょ? まるで……」
荷物を用意する暇もなかった。そんな危険が迫ったから、あなたは急いで逃げたとしか思えない。
「あなたともあろうものに、そんな『危険』が訪れることが考えにくいんだけど……『アーシュラ戦記』を読む中ではね。」
元々は乱世だったらしいこの大陸。その覇国を平定するために幾人もの、腕に覚えがあるものが名乗りを上げたと。
強者が弱者を捻じ伏せ、その強者はさらなる強者に狙われる。魔王イレズミはこの大陸に住まう強者に対して千のスキルを用い、なんの苦戦もなく完封した。誰も『彼』に傷をつけることすら敵わなかったらしい。そして『彼』は管理者として都合がいい中央を陣取り、四方を四天王で固めた。とされているが。
ピギイとイレズミから過去を聞いたお姉様にとっては青天の霹靂というか。まさかその頂点に君臨する『彼』が自分と同じ様に性別を隠す『女』だったとは。
「だけど、客観的に見たら、その危険ってもしかしたら……。あなたがスキルを持っていたから生じた危険なのかもって思っちゃう。」
「……つまり?」
「あなたを無力化するため、スキルは分配させられた。あなたは自分の意思でやってると思ってるけど、それって本当?」
「……そうだと仮定すると、私は敵からスキルの攻撃を受けたとしか考えられない」
二人も同じ考えだ。しかし、絶対強者であるイレズミに、何処の誰のどんなスキルが作用したのだろうか。
トントン、とノック音がお姉様の家の、勿論外から。
間の悪い。こんな重要な話をしている時に何処の誰が。
「あら、誰かしら。私の運命の人とか? 違うか!」
違った。お姉様が出迎えると、革製の軽鎧を来た、褐色肌の女性。白銀のミディアムショートボブは少々ウェーブがかかっており、彼女の俯きがちな姿勢とは矛盾している程に綺羅びやか。背は高いが、お姉様やイレズミほどではない。
一番特徴的なのが、口元を覆ったアラビアンな布。これがめっちゃ不審者。
少々の警戒を滲ませたお姉様が不審者に挨拶。
「こんにちわー。何用かしら?」
(・_・;)
顔文字ならこんな感じの気の弱そうな女性だ。玄関口でずっとうつむいてキョロキョロした後に、ようやく口を開き、質問。
「……。あの……。イレズミってここにいるよね……?」
イレズミとピギイの顔に警戒の色。お姉様は顔に出さない様に務める。
「イレズミ? いないけど」
「……いるはずだと思うんだけど……。美しく背の高い、黒髪の女性と、可愛いピンク色の髪の『女の子』が昨日の夕方頃、襲撃者を取っ払ったんだよね……?」
「いや……知らないけど……。私買い出しに行ってたし。隣の村まで」
これはある程度本当。イレズミ達のために走り回っていたお姉様は詳しくは知らない。
「……犬小屋で寝てたところを見たって人がいるんだ」
「……人様をそんな所に寝かせる訳ないでしょ」
常識的に言えばそう。しかし実際に二人は寝た。
「……まあ。怪しいよね……。私なんて……。」
「まあ……そうね……。めっちゃ怪しいわ。なに? そのイレズミって人が何したの?」
情報を聞き出そうとするお姉様。普段性別を偽っているだけあって、演技が自然。
「……。イレズミは、この大陸の魔王の名前なんだけど」
「……それで……?」
「彼女の記憶は操作されている可能性が高い」
驚くイレズミとピギイ。しかし物音は立てない。ただ耳を澄ませるだけ。不審者が回答を続ける。
「彼女がなにかしたと言うより、彼女は記憶操作の使い手の被害にあっている。そうとしか考えられない。ピギイちゃんも同じ。そして、もしそうなら、私のスキルで彼女たちの記憶を元に戻すことが出来る」
まだ出るべきタイミングではない二人。不審者が何者なのかが分からない。
「……それって私に全く関係ない話だし、そもそもあなたは何者なの?」
「……そうだよね。私の名前は、ミネルヴァ。記憶操作の使い手」
「……何であなたは、魔王が記憶の操作を受けているなんて事を考えてるの? 宗教勧誘ならもう帰ってほしいんだけど。最近『お前も四天王にならないか?』っていう変な勧誘が多いのよ。あなたも、魔王の記憶を取り戻そうの会の勧誘かなにか?」
「……ふふ……。あなた、面白いね……。……。私はね、竜の巣の幹部。だから、ある程度何が起こっているかは、ナイーラ様から聞いている。」
「……ならあなたは竜人、あるいは竜神?」
うん。と短く返事をした後に、「竜の神のほうだよ」と、ミネルヴァは後ろを向く。そこには竜の尻尾と、折り畳まれている竜翼が生えていた。
【竜神:ミネルヴァ 所属:竜の巣 スキル:記憶の操作Lv.5】
「……記憶の操作に関しては、私達はそれが最有力だと思っている。何故なら」
1。西の四天王、サタリカの陣営に記憶操作の使い手がいる。このスキルなら、イレズミの記憶に介在して、スキルを手放す理由をでっち上げることが出来る。
「あと、やっぱりこれは見逃せない」
2。イレズミが出ていったと同時に、スキルが分配された。心変わりすることも在るんだろうけど、イレズミがスキルを手放す意味。私とナイーラ様には、これが思いつかなかった。
「『あなた』がスキルを失って飛ぶなら、間違いなく南寄りの南東もしくは南西だと思う。安全だし。ってわけで手分けしてイレズミを探していたわけだけど、そこでも違和感があった。」
3。何で宿が在るのにそこに泊まらないの? お金がないなんておかしい。村の人たちにも頭を下げたんでしょ? 用意不足だと思わない?
「……どうかな……。」
ここまでの話を聞いたお姉様。一般人には及ばぬ規模の話だが、しかし重要でもあることは疑いようもない。何より眼の前には竜神を名乗る女。わざわざ北からナイーラの部下が来たことが何よりの証拠。真実味だって増す。
「……まあまた来るね。でもこれは、放置したら駄目な問題。考えが変わったら、次の時に教えて」
と、割とあっさり去ろうとするミネルヴァ。
「待て。ミネルヴァとやら」
それを引き止めるイレズミ。お姉様の真後ろまで移動する。
「詳しく話を聞かせてくれ、私がイレズミだ」
「……よろしく。イレズミ」
お姉様のダイニングテーブルを中心に椅子に座る四人。ここで情報を統合する。
ミネルヴァが来る前に三人で話し合った結果と、ミネルヴァの話(記憶操作の使い手)を統合すると、辻褄が合う。しかし、まだ分かっていないことが四人には在る。ミネルヴァがイレズミとピギイに確認する。
「私は、あなた達が記憶操作の使い手に出会った日、本当は何が起こったのか分かっていない。郵便担当の男が平和的に見送ったって言ってるけど、まあ怪しいよね」
「ああ……。私達は真実を知る必要がある」
「はい。私も覚悟はできています。いつでもどうぞ」
「うん。じゃあ二人とも。こっちに来て」
ミネルヴァが二人の眼前で手をかざす。記憶を司る、脳の一部、大脳皮質に波を送る。
すると二人の脳裏に、あの日の映像が浮かぶ。
◇◇◇
『魔王城。あの時の記憶が蘇る。
右手の人差し指の先にコアを持つ者と隱ソ縺ケ縺溘↑。
不自然に眠り続けるイレズミの口を静かに、開ける。
イレズミの舌先にある、スキルコアに触れる。イレズミの持つスキル達を奪うために。
そこに駆け付ける、イヴォルグ製の、少女の形をした機械仕掛けの人形。小さな体で、イレズミに体当たりし、イレズミの目を覚ます。
しかし、敵対者に脳を弄られたせいか、朦朧とするイレズミ。
――こいつにスキルを奪われるくらいなら……!――
イレズミは仕方なく、神経網を魔王城に現在いない部下たちに繋げ、マージされていた強力なスキルを分解し初期化。一人一人に譲渡する。
遅れてピギイが登場し、イレズミを案内する。
そして隙を見て、転送陣まで逃げようとするも、最後に敵対者は2人の記憶を操作する。
真実は捻じ曲げられ、イレズミとピギイは隱ソ縺ケ縺溘↑に見送られて転送された記憶を植え付けられた。
記憶はここで終わる。
右手の人差し指の先にスキルコアのある人物。それはソドムだった。
死を信奉する、あの男が、イレズミを無力化しようと画策したのだ。』
♢♢♢
イレズミとピギイが、見せられた真実をミネルヴァに伝える。ミネルヴァが二人を説得するように忠告と提言を繰り返す。
「それが真実なのであれば。イレズミ。イヴォルグは曲がりなりにもあなたの味方をしているってこと。あなたは絶対に南に逃げたほうが良い。東へと逃げたら駄目。」
「ここからだと東はたしかに近い。近いけどソドムは絶対にあなたを死の信奉区に磔にしようとするはず」
「西も勿論駄目。魔王城にも戻ってはダメ。本当は北に来てほしいけど……。ソドムとサタリカと記憶操作の使い手がいる以上……。中央を境に奴らが確実に行く手を阻む……。」
「緩衝地帯もだめ。誰もあなたを守ってくれなくなってしまう。」
「じゃあ私は先に魔導協会に行って話を伝えておく。二人はしっかり体を休めて。それと準備を整えておいて。そして真実を知って。イヴォルグなら、あなたを助けられる筈」
◇◇◇
さあ。ここでイレズミとピギイは、真実を知った。
二人目の記憶操作の使い手。彼女はイレズミとピギイの記憶を蘇らせた。
時を少し進める。
ミネルヴァは今、木々で構成された道なき道を歩み、イヴォルグに会いに行こうとしている。
「…………」
ミネルヴァの背後。命を狙うはレッドインプの群れ。なんて事はない、猿の姿をした、赤い低級モンスター。だが、油断はできない。
力無き者は、だが。
レッドインプの群れが威嚇し、唸り声をあげる。ミネルヴァは構わず、枝を手折りながら進む。
相手にされていない事に対し、憤ったのか、レッドインプの群れが一体残らずミネルヴァに飛び掛かり、一斉に襲う。
グチャ!
首元を噛みつかれたミネルヴァは声にならない悲鳴を上げる。次いで指先を一本一本噛みちぎるインプ。馳走を前にするとどうにも、食事を長く楽しみたくなるようで、端から少しずつ頂く習性がある。
時が一時間ほど過ぎる。そこにはしゃぶり尽くされた、ミネルヴァの白骨死体があった。糞を詰めた腸すらも、やつらは丹念に洗い、喰らう。脳は頭蓋を器とし、噛んで飲み干す。そうすると、米粒一つない茶碗の様に、清潔な骨だけが残る。
想定外のイベント。ミネルヴァの死。
なんて事は起こり得ない。天はこの物語の結末を知っている。なのでミネルヴァの狙いも看破している。
小賢しい、王道を外れる活用。竜を騙る者よ。そのような生き方しか知らないのだろう。
しかし。
天を欺く事など出来やしない。
例え一流の幻術使いであっても。
【☓竜神:ミネルヴァ ☓所属:竜の巣 ☓スキル:記憶の操作Lv.5】
【幹部:ミネルヴァ 所属:魔導協会区 スキル:幻術Lv.5】
幻術が解けたかどうか。インプたちは把握していない。次に目覚めたときは己の死。今、彼らは夢の中でお互いを喰らいあっている。
幻術を見せられたイレズミとピギイ。
記憶は正しく上書きされたわけでも、蘇がえった訳でもない。ただ魔導協会にとって都合の良い幻を、見せられただけだという事実を、二人は知る由もない。
だがまあ、拙い、惑わし。
天を騙したいのであれば、騙るのでなく、秘せよ。彼の者の様に。




