↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
168/184

161.【ร】船のロー・プリア【その2】

【๔】


* *


 ()()がった海面が()け、しぶきを飛び散らせながらウィマーンが姿を現す。


 その(マンゴーン)は、青い(うろこ)(おお)われた右半身と緑の鱗で覆われた左半身を有している。


 胴体(どうたい)巨大(きょだい)(へび)のようだ。

 ただし人面ムカデやスープパンの出していた縄よりも身が太い。


 現在ウィマーンは頭部(した)の二十メートほどを海上にさらしており、確認できる手は(よん)(つい)

 いずれも(するど)(つめ)を持ち、陽光を反射(はんしゃ)している。


 シカのツノとナマズのヒゲを生やした頭部は胴体と同じく右側(みぎがわ)が青の、左側(ひだりがわ)が緑の鱗をまとう。

 青い頭部を見たという化け物係は、右側からウィマーンを目撃(もくげき)したということだ。


 ウィマーンは岩石に封印(ふういん)されたスカティを海中の手でいだきつつ、赤い(ひとみ)で周囲を見回す。


 自分を取り囲むようにハスの葉がいくつも()いている。

 その上に文字を持つ者たちが分散して立っている。


攻撃(こうげき)仕掛(しか)けてこない……? (わたし)出方(でかた)をうかがっているのか)


 ジェオとマリの存在もウィマーンは確認した。

 ランマイ・プローンは崩壊(ほうかい)し、その維持(いじ)(ちから)を回す必要もなくなっている。


(……旦那(だんな)さまのウィンヤーンは無事。ならばこちらも撤退(てったい)する意味はないな)


 文字保有者たちにより、スカティは(たお)された。

 だがウィマーンは「よくも私の婚約者(こんやくしゃ)を! 許さない!」――などとはまったく()()()()()()


 確かにウィマーンはこれ以上ないほどスカティを愛している。

 しかしスカティが覚悟(かくご)をもって「人類を(ほろ)ぼす」という「悪」をなそうとしていることをウィマーンは(だれ)よりも理解しているのだ。


 そのような夢を実現しようとする以上、スカティに殺意や害意が向けられるのは当然のこと。

 にもかかわらず相手を逆恨(さかうら)みしたとすれば、それはスカティの覚悟(かくご)()みにじる行為(こうい)(ちが)いない。


 ウィマーンはスカティ以外の人間を嫌悪(けんお)しているし憎悪(ぞうお)もしている。

 だからこそ、その純然(じゅんぜん)たる感情に異物を()ぜてはならないと考えている。


 今の「彼女(かのじょ)」の最優先事項(じこう)は、スカティの(こころざし)を引き()ぐことだけ。


 よって婚約者が(たお)されてもなお、自分のやるべきことをウィマーンは見失(みうしな)わなかった。


(私たちの夢にとって脅威(きょうい)となりうる文字保有者どもを殺し、その体に()らわれた文字の精霊(ピー)たちを解放します)


 まずは足場を(うば)い、相手の動きを制限することが肝要(かんよう)


(そしてここから()がさない……)


 自身の使役(しえき)する青い(きり)のピーに命じてあたりを円筒状(えんとうじょう)に囲ませる。

 視界を確保するために、文字保有者たちのいる範囲(はんい)には霧を広げないでおく。


* *


 緑の水柱が誰も乗っていないルアダムナームを破壊(はかい)したとき、プリアはハスの葉をいくつも展開して海面に()かべた。


 アーティットもそのハスの上に乗り、状況(じょうきょう)を確認する。


 意識を失ったチャーイハートは現在、上半身(じょうはんしん)下半身(かはんしん)分離(ぶんり)させた状態でハスの葉の一枚(いちまい)に横たえられている。


 そばにはリアンゲの頭部をかかえたニウフアメーがおり、戦闘(せんとう)不能になったチャーイハートを守る役目を引き受けていた。


 ナーグルアは棺桶(かんおけ)のピーに封印されて深海に(しず)んでいるので、ウィマーンと交戦できる文字保有者はアーティット・クマリー・サラサルアイ・エーン・ヒマ・キア・プリアの七人。


 リーダーのチャーイハートが指示を飛ばせなくなった今、途中(とちゅう)で別の班のリーダーを(つと)めたアーティットがリーダーにくり()がる流れとなる。


 しかし対処(たいしょ)すべき相手はウィマーンだけではない。

 ジェオとマリも(おさ)えなければならない。


 プリアの潜水艦(ルアダムナーム)に乗せてもらったことで二人(ふたり)は危機を(だっ)したわけだが、それに恩を感じて味方になる――などという都合のいい展開は起こるはずもない。


 二人の目的はスカティ・ウィマーンを仲間にすることと思われる。

 とすれば、少しでもスカティとウィマーンに()びを売るために文字保有者と敵対する姿を見せておきたいだろう。


 したがってジェオとマリに最低一人(ひとり)ずつ文字保有者をあてがう必要がある。


 アーティットは(かね)のイヤリングにノーヌー(น)とロージュラー(ฬ)を順に書き、キアとエーンに連絡(れんらく)()れた。


 キアもエーンも、アーティットから(はな)れた場所に()くハスに立っている。

 大声で指示を出すこともできるが、それだと(てき)にすべて伝わってしまう。


(これでウィマーン攻略(こうりゃく)()けるのは(おれ)(ふく)めて五人)


 続いてアーティットはモーマー(ม)、ローリン(ล)、ロールア(ร)を書いてサラサルアイとヒマとプリアに指示を出した。


 クマリーはアーティットのそばに()いている。


 ()もなくして青と緑の鱗を持つマンゴーン――ウィマーンが海上に姿をさらす。


 ウィマーンが青い霧のピーで文字列を宙に示し交渉(こうしょう)を持ちかける可能性があったので、相手が仕掛(しか)けてこない限り動くなとアーティットは指示していた。


 しかしウィマーンはあたりを青い霧で囲い込み、その身を海面に打ちつけた。

 幾枚(いくまい)ものハスの葉が粉砕(ふんさい)される。


(誰もいないところをねらったか。まずは足場をつぶす気だな)


 ついでウィマーンは反時計回りに身を動かす。

 時計の長針のように体を運ぶ。ここにある足場をことごとくなぎ(はら)うつもりのようだ。


 キアとジェオ、エーンとマリが交戦状態に(はい)るのを確認しながらアーティットは数枚のハスの葉を()みつけて()び、ウィマーンの緑の胴体と対面する。


「ゲーンタハーン・ロー」


 左手の平のトータハーン(ท)を赤く光らせ、なかから小さな(たて)を出す。

 青緑の盾が巨大化(きょだいか)する。それを構え、ウィマーンの胴体をとめた。


 衝撃(しょうげき)が海水を巻き上げる。

 クマリーがトータハーン(ท)を宙に書いてアーティットを強化しているのみならず、プリアの出した小型潜水艦(せんすいかん)がハスの葉の(した)から吸着したうえでウィマーンの動きとは逆の推進力(すいしんりょく)を働かせているのでアーティット自身は微動(びどう)だにしない。


 すかさずウィマーンは身を引いて時計回りに切り()えようとした。

 が――。


「トロンパイッ!」


 詠唱(えいしょう)と共にサラサルアイがウィマーンの頭部から直進し、その青い右半身(みぎはんしん)に体をこすり当てた。


 かすった程度ではあるものの衝撃は充分(じゅうぶん)であり、青い鱗がいくつもはがれ落ちる。

 しかもサラサルアイが攻撃するタイミングでクマリーはトータハーンではなくモーマー(ม)を宙に書き、強化対象を変更(へんこう)していた。


 左右の移動を(ふう)じられたウィマーンは身を起こそうとする。


「クートっ!」


 今度はヒマが縦回転しながら落ちてきて手足の(つめ)でウィマーンの背中を引っかいた。


 引っかくというよりは、えぐり取る勢いである。

 当然のようにクマリーはローリン(ล)を新たに書いて強化対象をサラサルアイからヒマに切り替えている。ために威力(いりょく)も申し分ない。


 一方(いっぽう)ウィマーンはアーティットたちを海上での攻防(こうぼう)に集中させたうえで、しっぽを浮上(ふじょう)させ海中より足場を粉砕(ふんさい)しようとしていた。


 ウィマーンのしっぽは(ふた)つに分かれている。

 青いしっぽと緑のしっぽが急速に持ち()がる。


 しかしアーティットの足場をささえていた小型潜水艦がドリルのように回転し、しっぽへと突撃(とつげき)する。


 まず敵は海上から仕掛けて注意をそちらに向けさせたあと、海中から足場をねらってくるだろうとアーティットは予想し、それをプリアにも伝えていた。


 プリアはアーティットに(したが)い、(した)()えず警戒(けいかい)していたのである。


「トーピドー……っ」


 クマリーの支援(しえん)を受けながらプリアは指先から海に血を垂らす。

 その血は膨張(ぼうちょう)し、細長い物体に分裂(ぶんれつ)して海中のウィマーンのしっぽに(せま)った。

次回「162.【ร】船のロー・プリア【その3】」に続く!


今回出てきたタイ語の元々の意味は以下の通り

トロンパイ(ตรงไป)→直進する

クート(ขูด)→こすり落とす

トーピドー(ตอร์ปิโด)→魚雷

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。