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114.【ฎ】冠のドー・イーガー【その2】

 マークルックの駒(こま)十二個を両手にかかえ、俺(おれ)はイーガーと対峙(たいじ)する。


 それぞれの駒には一(ひと)つ一つ違(ちが)う文字が刻まれている。

 選んだ六(むっ)つの文字の保有者が俺の味方につき、選ばなかった文字保有者六人が俺の敵(てき)になるらしい。


「ただしゲームである以上、制約は設けさせてもらおうか」


 すず色の視線を送りながらイーガーが俺の顔と手のなかの駒を見る。


「第一(だいいち)に、トーターン(ฐ)の用意してくれた八かける八マスの格子(こうし)模様(もよう)から出た者は盤面(ばんめん)から取りのぞかれる。これは退場であり、以後ゲームへのいかなる関与(かんよ)もみとめない」


 隣(となり)に立つトラニーの頭をイーガーがなでる。当のトラニーはうれしそうにうなずいている。


「第二に、一(ひと)つのマス目には一人(ひとり)しか存在できない。誰(だれ)かがそのマス目に侵入(しんにゅう)してきたら、もともとそこにいた者は退場となる。第三に、一度(いちど)でも攻撃(こうげき)を受けた場合もダメージ量にかかわらず本人には退場してもらう」

「なるほど、だったらジウも無敵とは言えないな」


 俺はソールーシー(ษ)の駒をつついた。


「でも疑問点もある。たとえばフルンフリンの外側のぬいぐるみだけが攻撃を受けた場合、なかのフルンフリンも退場するのか」

「するよ。じゃないとゲームにならないからね。チョーチン(ฉ)のチンやコークワーイ(ค)の銃(じゅう)、チョーチャーン(ช)のルイくんが被弾(ひだん)した場合でも本人が盤面を去ることになる」


「同じ理屈(りくつ)で考えれば、俺の使役(しえき)する兵隊(タハーン)が被弾すれば俺自身が負けるわけか」

「นั่นแหละ(ナンレ)〔そのとおり〕……ただし自己の得物(えもの)やピーをマス目に侵入させてもプレイヤーを退場させることはできないとも付言(ふげん)しょう」


 当たり判定は有効でも、攻撃能力自体には制限がかかるということだ。


「そしてわたしとあなたは各陣営(じんえい)の大将(たいしょう)。盤面から退場した時点でその陣営の敗北が決定する」


 イーガーの豪快(ごうかい)な声が、静かに俺をつらぬく。


「トータハーン(ท)、あなたが負けたらファには会わせない」

「なら俺が勝(か)ったらクマリーに君の名前の書き方を教えてやってくれ」

「いいけど、イーガーなんてわたしに聞かなくても簡単に書けるつづりじゃない?」

「君に直接(ちょくせつ)教えてもらうからこそ意味があるんだ」


 クマリーのほうに視線をやって確認をとると、彼女(かのじょ)は力強(ちからづよ)くうなずきを返した。


 俺はイーガーに背を向け、クマリーと共にどの文字保有者と協力するかを選択(せんたく)する。

 声の大きさを極限まで抑(おさ)え、話(はな)し合う。


「君も俺の陣営で戦(たたか)ってもらうけど、とくに組みたい文字保有者はいるか」

「悩(なや)みますねっ。クマリーはみんな好きですし……っ」


「基本的には強(つよ)いチームを作ることが重要。同時に、充分(じゅうぶん)なパフォーマンスを発揮(はっき)できないチームを相手に押(お)し付けられれば言うことないな」

「このなかで一番(いちばん)強いのはジウさんなんですよね?」


「ああ。ルール上(じょう)無敵じゃないがジウは確定で選出させてもらう」

「では、ほかのみなさんの強さはそれぞれどのくらいなんですかっ」

「俺も全員の強さを正確に把握(はあく)しているわけじゃない。でも俺も含(ふく)めて強さ自体はほとんど同格だと思っている」


 以上を踏(ふ)まえて俺は十二文字のなかから六個の駒を選んだ。

 選ばなかった駒を投げ、イーガーに返す。


 イーガーは駒を確かめて微笑(びしょう)する。


「なかなか無難(ぶなん)な選択じゃないか」

「奇(き)をてらう意味もないからな」


 俺もイーガーもマークルック盤のはしに移動し、あらためて向かい合った。


(格子模様でえがかれた盤面の大きさは一辺(いっぺん)四十メートほどか。一(いち)マスが五メートかける五メートの大きさで、それが八かける八の合計六十四個あるわけだ。トラニーが作り出した台座をもとにしている以上、破壊(はかい)するのも不可能だな)


 俺とクマリー、イーガーとトラニーの全員が違(ちが)うマスに移動した。


 手前の一列目(いちれつめ)の左から四番目のマスに俺がいる。

 対するイーガーは俺から見て一番奥(いちばんおく)の列の右から四番目のマスに立っている。


「さっさと始めたくてたまらんだろう、トータハーン(ท)。自陣(じじん)三列の好きなマスに駒を投げてくれよ。そうすれば呼び寄せることができる」

「同時に投げようか、イーガー」

「抜(ぬ)かりないね。ちなみにルールはすでにみんなと共有済(ず)みだから大将の君が同じ説明をくりかえす必要はない」


 俺たちは手持ちの六(むっ)つの駒を盤面に放(はな)つ。

 盤上に当たった瞬間(しゅんかん)、駒が変形してそこに刻まれた文字の保有者が現れた。



 俺の陣地に出現したのは、左から順に――。


「おお~、ついに最終決戦間近(まぢか)って感じッスね~」

「小生(しょうせい)を使うか、それもいい」

「貴方(あなた)が選んでくれるとは、私(わたし)のチンも喜んでいる」

「ちょっと……あんなに復讐心(ふくしゅうしん)むき出しにされておいて、よくわたしを呼べたわね」

「意外だな。おまえがオレの神話を求めるとは」

「ぼく以外はこの五人か。なかなかおもしろいカードで勝負するんだね」


 ワサビ色の髪(かみ)と瞳(ひとみ)を持つ女が浮(うわ)ついた声を出す。


「【ค】コークワーイ・マレット、つかさどる字は水牛のコー」


 薄桃色(うすももいろ)の髪と瞳を持つ人物が中性的な声を発する。


「【ษ】ソールーシー・ジウ、つかさどる字は仙人(せんにん)のソー」


 真鍮色(しんちゅういろ)の髪と瞳を持つ美丈夫(びじょうふ)が重低音のような力強(ちからづよ)い声を響(ひび)かせる。


「【ฉ】チョーチン・パイロ、つかさどる字はチンのチョー」


 あやめ色の髪と瞳を持つ、人魚と人間の血を引く彼女がなまめかしい声をぶつける。


「【ป】ポープラー・ウィサーハ、つかさどる字は魚のポー」


 漆黒(しっこく)の髪と瞳を持つ男が慈(いつく)しむような声を放つ。


「【ฑ】トーモントー・ダーンナー、つかさどる字はモントーのトー」


 濃紺(のうこん)の髪と瞳を持つ、壮年(そうねん)のようで少年のようでもある彼(かれ)が渋(しぶ)く深みのある声を投げかける。


「【บ】ボーバイマーイ・ワッタジャック、つかさどる字は葉っぱのボー」



 対するイーガーの陣容(じんよう)は、向かって左から順に――。


「せいぜい拙(せつ)を見くびらないことだな。いや見くびってもらっても構わんが」

「あー、嫌(きら)いだ嫌いだ。やってられねえからおまえら全員産卵させてやる」

「そういう気持ちはあたしもいいと思うんだけどよ、どうせなら『เกลียดตัวกินไข่(グリアット・トゥア・ギン・カイ)〔嫌(いや)なかたちのたまごも食べる〕』くらいの精神でやりゃいいんじゃね?」

「さてと、魔女(メーモット)としてどう君たちと戦おうかな」

「困りました。ただのバトルロイヤルならルイくんと蹂躙(じゅうりん)できたのに」

「พวกตลก(プアック・タロック)〔愉快(ゆかい)な仲間たち〕」


 樺色(かばいろ)の髪と瞳を持つ女性は脳に直接響(ひび)く声で言う。


「【ณ】ノーネーン・チャーイハート、つかさどる字は小僧(こぞう)のノー」


 金(きん)と黒の髪と瞳を持つ青年は妙(みょう)にトゲトゲしい声で吐(は)き捨てる。


「【ข】コーカイ・バンダー、つかさどる字はたまごのコー」


 薄緑(うすみどり)の髪と瞳を持つ女の子は舌足らずの声で笑う。


「【ด】ドーデック・フルンフリン、つかさどる字は子どものドー」


 冥色(めいしょく)の髪と瞳を持つ魔女(まじょ)は耳にビリッとくる声で話(はな)す。


「【ญ】ヨーイン・ニウフアメー、つかさどる字は女のヨー」


 さび色の髪と瞳を持つ、象の騎乗者(きじょうしゃ)はとろけるような声でしゃべる。


「【ช】チョーチャーン・ネーティ、つかさどる字は象のチョー」


 くちなし色の髪と瞳を持つ少女は眠(ねむ)そうな声――ではなくキビキビとした声で名乗る。


「【ฐ】トーターン・トラニー、つかさどる字は台座のトー」



 トラニーに関しては駒が変形したのではない。

 トーターン(ฐ)の駒が落下したマスに彼女は移動したのである。


 とにかく盤面のみんなが文字保有者として名乗ったので、俺たちも名乗り返す。


「【ว】ウォーウェーン・クマリー、つかさどる字は指輪のウォー」

「【ท】トータハーン・アーティット、つかさどる字は兵隊のトー」


「【ฎ】ドーチャダー・イーガー、つかさどる字は冠(かんむり)のドー」


 左右のほおに張りつくすず色の髪を、イーガーは両手でふわりと払った。


「――指(さ)そうか」

次回「115.【ฎ】冠のドー・イーガー【その3】」に続く!(6月6日(土)19時から23時59分のあいだに更新)


今回出てきたタイ語の元々の意味は以下の通り

ナンレ(นั่นแหละ)→そのとおり

グリアット・トゥア・ギン・カイ(เกลียดตัวกินไข่)→ことわざ。直訳すると「形を嫌いながら卵を食べる」という意味になります。「特定の相手やものを嫌っているのにその利益だけはちゃっかり受け取る」――そんな態度を表現するときに使われるみたいですね~。

プアック(พวก)→仲間

タロック(ตลก)→愉快(ゆかい)な

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