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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(19)

「はい、どうぞ」

「……ああ」


 僕が淹れてきたコーヒーを不愛想な態度で受け取る物部。

 こうして椅子に座っている彼を見ると、さっきまでの出来事が全部夢だったんじゃないかと思える。


 光と闇、白と黒だけの世界はぬらりひょんの封印と同時に崩壊した。

 一瞬眩しい光に目を閉じた僕が再び目を開くと、そこは元居た自分の部屋の中。

 そして隣には傷だらけの物部が立っていた。


 傷の手当てを申し出たけど、彼は「すぐに治るから問題ない」と言って固辞したのが、「じゃあお茶を淹れてくるから座っていて」という僕の言葉には素直に従ってくれた。

 どうやら彼にはまだ僕に用があるらしい。


 それは僕も同じだけれど。



「話があるんでしょ?」

「……ああ」

「僕も君に訊きたいことがあるんだ」

「……そうか」


 彼はそう呟くと、僕の方へと視線を向けた。

 そちらから先にという意思表示らしい。


「物部君。僕はこれからどうしたら良いと思う?僕はこの力を持ったまま生きていて良いのかな?多分良くないよね?ぬらりひょんが言った事が本当なら、僕がこの力を悪用したら――誰かが僕の力を利用しようとしたら、それはきっと良くない事になると思うんだ」

「……お前の力は本来なら人が持ってはいけない類の力だ。相手の考えている事が解るというのは、どんな分野においても圧倒的な優位性を持つ事が出来る」

「ギャンブルとか?」

「ああ、それは最たるものだな。特に駆け引きが必要なジャンルであれば、まずお前が負ける事は無いだろう」

「億万長者になれるね」

「なりたいのか?」

「いいや、そりゃあお金があるに越したことはないんだろうけど、今の僕には母さんが無理せずに幸せに暮らせるだけのお金があれば良い」

「そうか……。他にも相手の弱みを握る事も容易に出来る。そいつが隠している事や、消し去りたい過去すらもお前なら取引材料として使う事が出来る」

「それは脅迫だね。どちらも悪い使い道だ」

「ああ、だが人間がその力の使い道を考えた時、ほとんどの者はそう考えるだろう」

「自分に都合の良い未来を創る」

「そしてそれが出来ないなら過去を変えれば良い。そんな欲望がぬらりひょんを生み出した。過去は変えられない、それなら人の記憶を変えれば良い」

「過程は違うけど、サトリと同じように自分が望む結果が得られる、か」

「だが当然その有効範囲は狭い。奴が改変出来たのは、お前と、お前の母親の認識だけだった。過去が変わったわけじゃない。そう思い込ませただけだからな。元は家一軒を占拠する程度の力だ。大きく未来に影響を与える事はない」


 お前の力とは違う。

 物部は暗にそう言っているようだった。


「じゃあ、やっぱり僕の力はあってはいけない力なんだね」

「そうだな……人の身で持つには大きすぎる力だ」


 物部は僕の目を真っすぐに見てそう言った。

 相変わらず彼の心を読むことは出来ない。ぬらりひょんが言っていたように、覚醒した僕の力でも何故か彼の心を読むことは出来ない。それは彼が陰陽師だからなのだろうか?何か特別な方法でサトリの力を防いでいるのか?


「君は陰陽師なんだろう?その力で僕のサトリの力をどうにかすることって出来ないの?」


 こんな力はいらない。

 人が何を考えているのか、何を望んでいるのか分からないのは怖い。

 それでも、僕は僕に向けられる悪意を知ることの方がずっと恐ろしい。

 そして何より、その力が誰かに利用されて多くの人が苦しむことになるかもと考えると、僕の存在自体を今すぐに消してしまいたくなる。

 だから、ぬらりひょんを封印したように、僕の力も封印出来るのであれば――


「それは――無理だ」


 しかし彼の答えは無情にも僕の希望を打ち砕いた。





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