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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(18)

「飯を喰らう程度で収まっていればまだ可愛げがあったんだがな」


 そう言って物部は少しだけ憐れむような視線をぬらりひょんに向けた。


「出せ!今すぐここから出せ!!このままではまたあの深淵へと引きずり込まれてしまう!!――何故出れぬ!何故ワシの世界がワシの言う事を聞かぬのだ!!」


「ん?お前は《《絶対》》に出ないと言っただろう?相反する願いが同時に叶う事はないからな。だからお前はそこから出る事は出来ない」


「ふざけるなああああ!!!そんな屁理屈が通るはずが無かろうがあ!!!出せえ!!出せええええええ!!!!!」


「ふん。自分は人の認識を改変させておいて一体どの口が言っているのやら。お前は、お前自身の力で自分をその世界に縛り付けたんだ。お前が会長を自分を慕わせて縛り付けたように、お前自身の力でな。自業自得を絵に描いたような末路で滑稽だな」


 憐れんでいるように見えたのが目の錯覚だったのではないかと思う程にぬらりひょんに対して追い打ちをかける物部。


 光の鎖に囚われているぬらりひょんの足下から黒い柱のようなものが真っすぐに伸びてくる。

 それはぬらりひょんの周囲を取り囲むように無数に伸びてきて、ついには鉄の牢獄のような形を作った。


「覚うううう!!まだ間に合う!!これからもお前の父親としてお前の唯一の味方であり続けてやる!!だから――お前の力でそやつからこの結界を解く方法を読み取れ!!そしてすぐにワシを助けろおおお!!!」


 光の床にゆっくりと沈み込むように檻が埋まっていく。

 これが封印――というものなんだろう。

 皺に隠れていた目が開かれ、血走ったまなこが僕を睨みつける。


「……僕の本当の父さんは――僕が子供の頃に事故で死んだんだ」


 それはぬらりひょんの記憶にあった――僕の家庭の記憶。

 僕が子供の時、一人で家に残されてたんじゃない。

 作家だった本当の父さんがずっと家にいてくれていたから独りなんかじゃなかったんだ。


「母さんはそれからも一人で僕を育ててくれた」


 僕が人の心を読める事を知った後も、何一つ変わらず、僕の味方であり続けてくれた。母さんは忙しかったけど、それでも僕の事を心から愛してくれていた」


 それはぬらりひょんの記憶にあった――僕の本当の記憶。


「それを――お前が全部ぶち壊したんだ!!

 僕と母さんに嘘の記憶を埋め込んで!!

 母さんから僕への興味を奪い、母さんが僕を嫌っていると思い込ませて!!


 全部!全部お前が!!」


 僕には生きていく権利は無いのかもしれない。

 人の心を読んで、自分に都合よく立ち回ってきた僕はこの妖怪と本質は変わらない。

 相手の認識を変えたか、相手に都合の良いように振舞ったかの違い。

 嫌われないように。

 誰も傷付けないように。


 母さんみたいな人をこれ以上見たくないから。


 僕をあんな目で見る人をこれ以上増やしたくなかったから。



「落ち着け覚!!ワシならばいくらでも楽しい記憶を作ってやれる!!それに――」


「「嘘の記憶でもお前は幸せ――」だっただろう?」


「「――!?」お前、ワシの心を?」


「「やめろ……」ワシの心を読むな?」


「「やめろと言っているだろお!!!」?」


 僕はぬらりひょんが言おうとした事を読み取って被せた。


「……もしかしたら、少しでも懺悔の気持ちがあるかもしれないと思ったけど、お前にそんなものは無いんだね」


 ぬらりひょんの心にあったのは保身の思いだけ。

 この場から逃げる為に僕を利用しようという気持ちだけ。


「「――そんなことは」ない、お前には酷い事をしたと思っている。謝る。だから助けてくれ?――今から言おうとしているのはそんな嘘だよね?」


「あ……ああ……あああああああああああああああ!!!!!!!!!」



 絶望の叫びを上げながらぬらりひょんの体は完全に光の底へと沈んでいった。




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