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異説・百物語~物部カタルは斯くも語りて~  作者: 八月 猫
其の参 覚 ( サトリ )

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覚(20)

「……出来ないの?」


 そう言った僕の声は震えていた。

 今の僕には彼の力が最後の頼みだったのに。

 無理だ。

 彼ははっきりとそう言った。


「俺の力は妖、鬼に対してしか効果を発揮しない。人であるお前の力を封じる事は出来ない」


 つまりぬらりひょんみたいな妖怪にしか使えないという事。

 僕は人である事に安堵していた。

 でも今は逆にそれが仇となっている。


――人の姿をして人間の生活に紛れ込んでいるマガイモノ。


 再び萩原さんの言葉が蘇る。

 彼女は僕が妖怪だと思ってそう言ったんだろうけど、どうやらそうじゃなかったみたいだよ。


 僕は妖怪のような力をもって人間として過ごしてきたどっちつかずのマガイモノだったんだ。

 人間でも、妖怪でも、まして――神様なんて大層なものでもない。

 ただただ世界に不要な力を持ち合わせて生まれてきた厄災とも言うべき存在。

 大切な人の心を操ってもてあそぶナニカ。


「いっそ彼女の言うような妖怪だった方が良かったのかもしれない……」

「彼女?……ああ、そうだ。会長は萩原愛莉と遭っていたんだったな」


 そうだ。彼女の事も聞かなければいけない。


「物部君は萩原さんの事を知っている――覚えているんだよね?」

「ああ」

「それはどうして?学園の誰も彼女の事を覚えていないんだ。まるで最初から萩原さんなんていう生徒がいなかったかのように……」


 あれは忘れていたなんてものじゃない。

 そもそも存在自体が無かったかのようにみんなは過ごしている。


「彼女も妖怪だったんだよね?だから僕が仲間だと思って声をかけてきた」

「多分な」

「じゃあ、彼女もぬらりひょんと同じように君が封印したの?そしてみんなから彼女の記憶を消した……」


 彼ならそれが出来るんじゃないかと思う。

 学園中の人から個人の記憶だけを消すなんて常識では考えられないけど、すでに僕は非現実の世界の住人になってしまっている。そんな事があったとして――いや、それが正しい答えなんじゃないかと確信している。

 でも彼は――


「半分正解――半分間違いだな」


 表情を全く変えずにそう言った。


「……半分?」

「ああ。萩原愛莉は確かに俺が封印した。あいつはお前の思っている通り妖だった」


 彼女はどこから見ても人間にしか見えなかった。

 でもぬらりひょんも最後の瞬間までその正体を見る事が出来なかった。

 人の世界に住む妖怪……。

 それはそういうものなんだろう。


「だがさっきも言ったが、俺の力は妖にしか通じない。人の記憶を消すなんてことは出来ない」

「じゃあ――」

「俺が封じたのは萩原愛莉という妖の存在そのものだ」


 存在……そのもの?


「萩原愛莉として存在した時間の《《記憶》》。それそのものをこの世界から隔離して封印した」

「時間の記憶を……封印。彼女はこの世界に最初からいなかった……そういうことになったということ?」

「ああ。だが実際には記憶としては残っている。思い出すことが出来ないようになっただけ。しかしサトリの力を持つお前は、そこに記憶さえあれば封じていても読み取れる事が出来るんだろう。だからお前だけは萩原愛莉の存在を覚えている」

「僕だけが……」

「そして記憶の封印は、あの女がこれまでに関わってきた出来事全てに影響を及ぼす。その家族や友人たちとの交流の記憶――その存在自体が人々の記憶に無かった事になった」

「家族や友人……彼女の家族は……」


 彼女が人として暮らしていたんだったら家族がいただろう。

 その家族すらも彼女がいなくなって何も思わなくなるんだろうか……。


「あいつの記憶が封じられたとしても、何事もなかったように生活を送っていただろうな。――生きてさえいれば、だがな」

「……生きていれば?じゃあ……」

「萩原愛莉は家族を喰った。そして友人を喰おうとした。だから俺が封じた。それだけだ」



 全然大したことじゃない。

 そんな風に彼は言った。




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