File : Project G.O.D. 24
——傍観者機構 活動開始
——接続……完了
隔離フロア前通路。対象ミヤビを視認。対象、先ほどの衣服の上に各種合金性の装甲を装着している。ミヤビの頭部は口元以外殆どを装甲で覆われており、装甲の隙間からは黒い髪が露出していた。
ミヤビの両腕は、自身の手よりも遙かに大きい人体を模した腕部装甲が付けられ、足も同様に大型の脚部装甲がミヤビの両足を覆っていた。対象はそれら大型の手や足を動かし、機器の微調整をしている模様。
「また、あなた達に気を使わせたみたいね。でも良い判断だわ。私が失敗すれば、あなたはサナの所に戻る可能性があるものね。もしそうなったら、頼んだわよ」
対象ミヤビ、床に置いたミヤビの身長並の大型の剣を持ち、それを水平にしながら構えた。
「すごいでしょ? この対戦車ブレード、本来なら私如きの改造程度じゃ持ち上げるのがやっとの重量なんだけど、重力制御装置のお陰で私みたいな非力なサイボーグや生身の体であっても、大型機械化兵用の装備だって使いこなすことが出来る。もっとも、執行部のクレイドルランサー相手には初実戦でしょうね。何て言ったって勝ち目なんて本来皆無だし、同じ土俵で考えちゃ可哀想だもの」
対象ミヤビ、通路脇に置いた各種大型の銃火器に顔を向けながら言葉を続けた。
「でも今回に限っては私に分があるわ。あいつらは私を最重要保護対象だと言った。という事はあいつらは私に傷一つ付けられないのよ。付けたら最後、あいつらの場合、解体されて長期間拘束が良いところね。でも私の方もこの装備で戦ったところで、きっと傷一つ付けられない。だから、どれだけ時間稼ぎができるか、それだけが勝負所よ」
対象、構えた対戦車ブレードを下ろし、通路の先に顔を向けた。対象の頭部装甲内に各種情報が表示されている模様。
「流石、マスターランサーの部隊。思っていたよりも進行速度が速い。でもワカバ姉さんの方には気が付いてないみたいね。こっちに生体反応を偽造して残してあるから、全員で上を目指してくれてる……ミヤビ! 私の合図と共に指定区画に硬化樹脂の流し込みを開始して」
『了解。硬化樹脂投入口、いつでも開放可能です』
室内音響装置よりミヤビシステムの音声が発生。
「ありがとう……あと少し、あと……今よ! 開放!!」
『硬化樹脂投入口開放。区画封鎖まで残り二百二十五秒です』
対象ミヤビ、対戦車ブレードを地面に置き、小さく息を吐く。
「よし、これで何とか時間までは持ちそうね。やれやれ、この装備も無駄に——」
『主任! 下がってください! 階下より高熱源反応! ここを狙っています!』
「なっ!?」
対象ミヤビ、後方に大きく飛び退く。その後、対象の前方通路床から一筋の光が天井を貫通して出現。直後、爆音と爆風を伴い、床と天井に人が通れるほどの穴が開いた。
対象ミヤビ、爆風の中を駆け、走りざまに取った大型の銃火器を構え、出来上がった穴まで近づく。そして、床の穴に銃口を向け、対象は引き金を引いた。そして轟音が通路内を埋め尽くし、大型の銃火器からは次々と大型の空薬莢が飛び散り、辺りに散乱していく。
天井と床の穴に樹脂が伸び出し、開いた穴を徐々に埋めていった。対象ミヤビは床の穴が塞がると同時に撃つのを止め、塞がった穴から身を引いた。その直後、塞がった床が細かく砕かれ、再び穴が開かれる。そして、動作反応体が一体、その穴から通路に飛び込んだ。
動作反応体、マスターランサーと呼ばれていた疑似人体構成体。
対象ミヤビ、先程の銃火器の銃口をマスターランサーに向ける。そんなミヤビをマスターランサーはじっと見つめ、口を開いた。
「なるほど、おかしいと思いました。全機、地下シェルターに向かう生命体反応群に目標を変更。抵抗する場合は保護対象以外殺してかまいません。死の少女は私が捕縛します」
「やめて! 彼らは関係ない! あなた達なら抵抗された所で問題ないでしょう!?」
「我々はすべての状況において全力を尽くすだけです。それ以外の判断などありません」
対象ミヤビ、銃火器を構えたまま沈黙。
「サイトウミヤビ主任。死の少女の身柄を渡してください。あなたは最重要保護対象です。あなたに危害は加えません。武装を解除してください」
対象ミヤビ、銃火器を構えたまま歯を噛みしめている。
「何を躊躇しているのです。そもそも、死の少女計画はあなたが立案したものではありませんか。今更何を迷って——」
「だまれぇえええええ!!」
対象ミヤビ、銃火器をマスターランサーに投げ、そのまま跳躍。ミヤビは跳躍と同時に手に取っていた対戦車ブレードを振りかざし、マスターランサーに切りかかった。
マスターランサーは対戦車ブレードを片手で受け止め、ミヤビもろとも弾き返す。飛ばされたミヤビは着地ざまにマスターランサーめがけて突進、対戦車ブレードを振り下ろした。しかしマスターランサーは再び片手で受け止める。対戦車ブレードと片手の間で火花が舞い、通路に光が飛び散る。
「サイトウミヤビ主任。なぜそこまで死の少女に拘るのです」
「うるさい!! あんた達なんかに解ってたまるものですか!!」
対象ミヤビ、マスターランサーから飛び離れ、対戦車ブレードを床に投げながら、先程とは別の大型銃火器を取り出し構えた。そしてマスターランサーに照準を合わせ、ミヤビは引き金を引く。直後、ミヤビの体が後方に吹き飛び、それと同時に放たれた弾頭がマスターランサーに着弾、通路を爆風と光が包み込む。
対象ミヤビ、自身の体制を整え、顔を片手で押さえながら大型銃火器を構える。
爆風と光が止み、煙が漂う通路内。動作反応体マスターランサー、無傷のまま直立している。
「くそっ! これでも駄目なのっ!?」
「……サイトウミヤビ主任。あなたの識別変更許可が下りたようです。我々はあなたをこれより最重要保護対象ではなく重要保護対象と認識します」
マスターランサーは片方の手のひらを広げ静止。そして、その直後に手のひらから細長い槍の形状をした機器が出現し、マスターランサーはそれを掴んだ。
「へぇ、相手をしてくれるのね。でもそんな物騒な代物、この場所で使えるの?」
「ご安心を、出力は私共々最小限に抑えてあります。切れ味はそこの対戦車用高周波ブレードと良い勝負でしょう。それに、このままでは埒があきません。サイトウミヤビ主任、剣をお取りください。もし階下の制圧とワカバ=ハインディライツ=ライラフェナルディ技術主任の身柄確保が完了するまでに、あなたが一度でも私の体に剣を当てられたのであれば、我々はこの任を放棄し撤収いたします」
「……本気? そんな事したら、あなたとは言え、解体どころか自我すら消されるわよ?」
「そうでしょうね。ただし、もし階下の制圧が完了した場合、残念ですがクレイドルランサーとして強制執行させていただきますが」
「あなた、やっぱり優しいのね」
「そうとは限りませんよ。あなたが何かの為に時間稼ぎをしている事は私にも解ります。ですが、流石に階下の制圧時間程度で、それは成し遂げられないでしょう。そして、あなたが私に触れる事は残念ながら不可能です」
「言ってくれるじゃない、マスターランサー」
「正直なところ、それも建前です」
対象ミヤビ、銃火器を投げ捨て、床に落ちている対戦車ブレードを掴む。
「建前?」
「はい。私は純粋にあなたと戦ってみたい。先程の太刀筋、中々見事でした」
「私の体、そこらの戦闘用サイボーグと変わらないのよ?」
「ええ、生身の部分も多いようですし、私から見れば非力なのは変わりありません。ですが、あなたのその気迫、私ですら身震いを覚える程でした……サイトウミヤビ主任のような方は初めてです。あなたのような方と相まみえる機会、今後無いやもしれません。その機会の為でしたらこの命、喜んで私は捨てましょう。それだけの価値があなたにはある」
「あら、私の価値なんて十五分じゃなかったの?」
ミヤビはそう言って対戦車ブレードを構えた。
「見誤っておりましたよ。私は戦闘の為に作られ、戦闘で死ぬために生まれたもの。あなたとの戦いで得られる死ならば、私の散る理由として申し分ない」
動作反応体マスターランサー、槍を構え、対象ミヤビに切っ先を向ける。
「はぁ、やだやだ、こんな血の気の多い感じ、昔は好みじゃなかったんだけどな……」
対象ミヤビ、口を噤み、マスターランサーに対戦車ブレードの切っ先を向ける。
「私の予想では完全制圧まで三分です……さあ! 来なさい! あなたが死の少女を守りたいと言うのなら! 己が全てを私に叩き込んでみなさい!」
「言われなくても!!」
対象ミヤビは声を出すと共に通路天井へ跳躍。天井を片足で蹴り、マスターランサーめがけて突進ざまに切りかかる。マスターランサーは槍の先でミヤビの刃を凌ぐ。ミヤビはそのまま後方へ跳躍。着地直後、すぐさまマスターランサーに対戦車ブレードを降り下ろす。しかし、再び槍の先でミヤビの刃が防がれ、マスターランサーの槍の柄がマスターランサー自身を軸に回転し、高速でミヤビを襲う。
対象ミヤビの胴にそれが直撃。ミヤビは通路の壁に吹き飛ばされ、壁に激突。壁面が大きく損傷。続けざまにマスターランサーの槍が高速でミヤビを襲う。ミヤビは対戦車ブレードを両手で掴み、槍の一撃を受け止めた。しかし、マスターランサーの槍はそのまま防いだミヤビを通路奥へと吹き飛ばす。
吹き飛ばされる対象ミヤビ、対戦車ブレードを床に突き刺しながら自身を減速させ停止。
「その程度ですか?」
対象ミヤビはそれに答えず、床から対戦車ブレードを
抜き、腕を下ろした。
「これからよ」
ミヤビの体を覆う装甲が外れ、腕と足の装甲以外が床に散らばる。ミヤビは対戦車ブレードを両手で構え、マスターランサーを睨んだ。
「なるほど、確かに今の私の反応レベルに近づけるにはそれが有効ですが、当たり所が悪いと死にますよ。生身の部分は内臓破裂程度で済めば良いですが」
「覚悟の上よ!!」
対象ミヤビ、再び跳躍。ミヤビは一回の跳躍でマスターランサーの目前に。そして対戦車ブレードによる突きがマスターランサーに迫る。マスターランサーは槍の持ち手でミヤビの突きを受け流し、槍を回転させながら切っ先をミヤビに振り下ろす。ミヤビはそれを左手の装甲で受け止めた。しかし、その装甲は簡単に切り落とされ、ミヤビはそのまま後方へ下がる。
ミヤビは左腕部装甲を投げ外し、すぐさま対戦車ブレードを下から切り上げた。マスターランサーはそれを槍の持ち手で防ぐ。ミヤビは切り上げざまに上方に跳躍し、片足でマスターランサーを蹴り付けた。しかし、それもマスターランサーの槍の持ち手で防がれ、ミヤビは槍を足場に後方へ跳躍。着地後、対戦車ブレードをその場に置き、近くに投げ捨てていた先程の大型銃火器を片手で構え、マスターランサーを狙い引き金を引いた。
ミヤビの体が銃火器の反動で宙を浮き、後方に吹き飛ばされる。
再びマスターランサーに襲いかかる弾頭は、マスターランサーの槍によって切断され爆発。前回と比べ小規模の爆風と光が通路を包む。
対象ミヤビは着地後その中を突き進み、走りざまに手に取った対戦車ブレードを構え、爆風と粉塵が通路を埋める中、マスターランサーに近づき、刃を振り下ろした。
金属が衝突する音が通路に木霊す。マスターランサーとミヤビ、槍と対戦車ブレードの刃をぶつけ合ったまま静止。
「はぁっ、はぁ……くそっ!」
息が荒くなっているミヤビはそう言いながらマスターランサーを睨む。
「そろそろ、限界ですか?」
「まだよ!!」
対象ミヤビ、一歩下がると再び切りかかる。
マスターランサー、それを槍の切っ先で弾き返す。
二撃、三撃、四、五、六、七、八、九……続けざまに繰り出されるミヤビの斬撃が、全てマスターランサーの槍で弾き返されていく。
二名の刃が再び重なり、再び静止。
「サイトウミヤビ主任、残念ですが階下の制圧が完了いたしました」
「なっ!?」
「申し訳ありませんが、これより強制執行に入ります」
「そんなことさせ……えっ!?」
対象ミヤビは両足の装甲を一瞬にして切り落とされ、バランスを崩し床に転がる。ミヤビはそのまま受け身を取りつつ脚部の装甲を外して立ち上がり、対戦車ブレードを構えた。
しかし、ミヤビの構えた先に既にマスターランサーの姿は無く、側面にいるマスターランサーにミヤビが気が付いた時には、既に残った腕部装甲が切り落とされ、対戦車ブレードもろとも床に転がっていた。ミヤビは声を上げる暇もなくマスターランサーの槍の持ち手で両足を払われ床に転がる。そして仰向けに倒れるミヤビにマスターランサーは片膝を付きながら跨り、槍の切っ先をミヤビの顔に向けた。
「ここまでです」
「はぁっ……はぁ、負けちゃったか」
「ええ、ですがやはり私の見込んだとおりです。ここまで心躍る戦闘は初めてでしたよ」
「良く言う、最後は一瞬だったじゃない……で、私をどうするの? 敗者は勝者に従うものよ。なんだったら私の体でも好きにしたら?」
「魅力的なご提案ですが、私は人の体を模しているだけであって、ご希望にそえるような構造にはなっていないのですよ」
「……はぁ、どいつもこいつも、どうしてこう淡泊な連中ばかりなのかしらね。そんなに私は魅力がないのかしら」
「何を言っておられますか。では死の少女の捕縛終了まで、あなたを拘束させていただきます。同時に、ミヤビシステムの停止も……失礼、どうしました、何が……そんな筈はありません、こちらにはダミーの生体反応があるだけです。良く探しなさい」
「……どうしたの?」
「困りましたね。ワカバ=ハインディライツ=ライラフェナルディ技術主任が見つかりません」
「全員、殺したの?」
「ご安心ください。抵抗者がおりませんでしたので死者はゼロです」
「そう、それなら良かった」
「全機散開、各階をくまな……っ!?」
マスターランサー、槍をこちらに向かって振り下ろした。そして視線をこちらに向ける。
「なっ、馬鹿な、誰もいな——」
「私の勝ちよ、マスターランサー」
対象ミヤビ、短刀の刃をマスターランサーの胸に当てていた。
「何を……」
「確か、階下の制圧とワカバの確保までに、だったわよね?」
「サイトウミヤビ主任、あなたはどんな手を」
「……もしかしてあなた、見えてないの?」
「何がでしょうか」
「あなたが槍を向けている先に、傍観者がいるのよ」
「……なるほど、屋上の気配もあなただったというわけですか、傍観者」
マスターランサー、槍を片手に立ち上がる。
「私の勝ちで、いいのよね?」
ミヤビは上半身を起こし、マスターランサーに顔を向ける。
「ええ、少々不本意ですが仕方ありません。傍観者を私のような存在が一瞬でも認識できた。死ぬ前にそれを確認できただけで十分です……全機、現時刻をもってワカバ=ハインディライツ=ライラフェナルディ技術主任の身柄確保、並びに死の少女捕縛の任を解きます。各自撤収作業に入りなさい」
対象ミヤビの視線を感知。対象は立ち上がり、こちらに笑顔を向けている。
「ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。本当、あなたには借りばかり作っちゃってるわね」
マスターランサーはミヤビに顔を向け、口を開く。
「傍観者に借りとは……どういう事なのでしょうか」
「私のようなめんどくさい奴に付き合ってくれてるのよ? それだけで感謝しないと」
「なるほど、それは感謝されてしかるべきでしょう」
「……あなたも、なかなか言うやつなのね」
対象ミヤビ、目を細めながらマスターランサーを横目で見つめる。
「どうやら少しばかり、私も気が高まっているようです」
「そう、なら良かった。それで? あなたはこれからどうするの?」
「敗者は勝者に従うものなのでしょう? 私の処分が決まるまで、あなたの命に従いましょう」
「クレイドルランサーの最上位構成体のあなたが? それは心強いわ。だったら私に手を貸しなさいマスターランサー。明日の総裁選を乗り切れば、あなたの処分取りやめも可能の筈よ。ナオトから貰った情報だと明日の明朝には本社のクレイドルガードがこの施設を包囲する。あなたがいればかなり牽制出来る筈。だから私に協力して」
「了解いたしました……一つだけ聞かせていただけますか?」
「何?」
「総裁が欲しがり、あなたが守るその死の少女とは、どのような人物なのですか?」
「……別に、何も特別な事なんてない、ただの普通の女の子よ。ただし、私達のような馬鹿な大人と違って、この世界を信じ、人に希望を抱いている本当に優しい子。ちょっとだけ私に似て、ひねくれてるけどね」
「なるほど、ぜひ一度、お会いしてみたかったのですが……残念です」
対象ミヤビ、片腕を掴みながら下を向いた。
「……まだ、時間はあるわ。この件が片づいたら会ってやってくれない?」
「この姿です。怖がられませんでしょうか」
「大丈夫よきっと、そう言う事で怖がるほど度胸が無い子じゃないから」
対象ミヤビ、そう言うと近くに落ちている装甲の一部から小型端末を引き剥がし、端末を操作すると耳元に当てた。
「ロイド? あなた今どこに居て……なるほどね。もう出てきて良いわよ。クレイドルランサーは撤収して、マスターランサーはこちらの指揮下に入ったわ……ええ、それじゃ、後で合流しましょう」
そう言うとミヤビは端末を衣服の固定具に納めた。
「流石にあなた達でも、ミヤビシステム中枢フロアの生体反応は識別できなかったみたいね」
「……なるほど、生体反応の数の多さに失念しておりました」
「さて、じゃあこれからの対策でも……えっ!? サナ!?」
対象ミヤビ、突然目を見開き叫ぶ。そしてこちらに向かって声を張り上げた。
「あなたも来て! 様子が変なの!!」
対象ミヤビ、その場から駆けだし、通路の扉に向かっていく。
対象に同行。距離を固定。
対象は次々に扉に入り、隔離フロアへ。
「ああああああああああああああああ!!」
対象サナを視認。対象は床に倒れ、頭を押さえながら大声を上げている。
対象ミヤビは駆け寄ってサナを抱き抱えた。消えないサナの叫びは室内に木霊し続けている。
「サナ! どうしたの! 共感病にこんな劇的症状……っ!!」
対象サナ、顔の半ばまで肌が灰色に変色。
「ミヤビ!! 地球の灰色化観測衛星の映像を表示して!! 早く!!」
『了解。灰色化観測衛星のリアルタイム映像を室内壁面に表示いたします』
「……なんて……こと……」
対象ミヤビ、壁面の映像を見ながら目を見開いて沈黙。ミヤビの視線の先の映像、青い星の全体像が表示され、大地の灰色化変色現象が高速で南半球から北半球に向け進行。そして、さらに各地拡大映像が周りに表示されていく。
平原を逃げるように走り続ける各種動物群、地面が灰色に変色した瞬間に苦しみだし、一瞬で体が灰色に変色。次々に倒れていく。
山の木々が大地の灰色化と共に変色し、ほとんどが崩れ落ち、灰色の粉塵が大量に飛び散っていく。
大都市と思われる建造物が大地の灰色化と共に灰色に変色。地面に人が大量に倒れており、その全てが灰色に変わっていた。
「やめて……」
高速に進む星の変色、次々に消えていく生命体。
「やめてぇぇええええええ!!」
対象ミヤビが叫び、灰色化が赤道を跨いだところで進行が停止。
対象サナ、灰色化の停止と共に叫びが止まり、頭を押さえていた手が力なく落ちる。
対象ミヤビは壁面の映像を力ない目で見つめたまま、サナを抱き寄せた。
「んん……」
対象サナの声が静かな室内に響いた。それを聞いたミヤビは顔をサナに向ける。
「サナ!!」
サナは小さく目を開け、ミヤビの顔を見つめた。
「ミヤビ、先生? どうしてここに」
「何を言ってるの!! サナの悲鳴が……っ!」
ミヤビは口を噤み、目を見開きながら口を手で塞ぐ。
「先生? この部屋、完全防音の筈、で……あれ、なに……これ…………共感病末期症状における最大感染源の最後の声を空気感染源と共に遮断し、宇宙へ搬送後、内部を熱焼却、太陽軌道に乗せ廃棄するバイオハザードレベルP5用設備、隔離フロア」
感情のない声で淡々と声を出していく対象サナ。
「サナ、あなたなぜ、それを……」
「感染者152396342、キジマサナ。共感病患者兵器運用計画、Project Girl of Deathにおける人体兵器、通称、死の少女。最大かつ最高の性能を期待され、英国での使用に向け、当施設で末期症状前まで保護、隔離中」
「サナっ!? ……ミヤビあなたね!! 情報開示を停止なさい!! 早く!!」
ミヤビ、サナから顔上げ、声を張り上げた。それと同時にミヤビシステムの音声が室内音響装置より発生。
『できません。現在、別回線より権限レベル9の接続が認められます。同権限からの変更は不可能です』
「ミヤビ!! 私の命令が聞けないの!?」
『はい。変更命令は同権限者全員の許可が必要です』
「ミヤビ!! あなた——」
「ミヤビさん、私に関する情報全部、ください」
ミヤビの声をサナの冷たい声が遮った。
『はい、サナ。本施設におけるキジマサナに関する全ての情報を提示いたします』
壁面の表示が変化。各種情報が大量に表示され、サナはそれを生気のない目で見つめ続ける。
「サナ!!」
隔離フロア全監視回線映像記録。共感病患者の兵器運用レポート。死の少女使用における感染範囲及び予想被害。死の少女計画全詳細データ。計画立案者名、サイトウミヤビ。
「サナ!! お願い!! 見ないで!! みないでええええ!!」
対象ミヤビ、サナの顔を覆うように腕を回し抱きしめ、壁から顔を逸らさせる。しかし、対象サナの網膜に同じ情報が次々に表示され、対象はそれを読み続けている。
暫くして壁面の情報表示が次々に消えていく。そして全ての表示が無くなると、先程の衛星からの地球の映像が再び表示された。対象サナは抱きしめる対象ミヤビを両手で押し離し、ゆっくりと立ち上がる。そして先程と変わらぬ目で天井を見つめた。
「さ……な……」
「ははっ、なんだ。私、生きてる意味なんて、価値なんて、最初から、無かったんだ……こんな、こんな事の為に……生かされて」
「サナ!!」
「酷いですよ先生。幽霊より質が悪いのは先生じゃないですか……全部、みてたんですね。何もかも」
「サナ!! これには——」
「うるさい!!」
対象サナ、ミヤビを押し倒し、仰向けになるミヤビに馬乗りになりながら両手で首を絞めた。
「何が笑っていれば価値があるですか!! 何が生きろですか!! 私が一番死ぬべき人間じゃないですか!! こんな人殺しの道具にするために!! 先生は!! 先生は!!」
対象ミヤビ、首を絞めるサナの両手を、自身の両手で掴む。
「さ……な……お願い……聞いて……」
「こんな事の為に!! ミヤビ先生は!! 私に!! 私に……」
対象サナ、両手をミヤビの首に添えたまま力を抜いた。
「……サナ?」
「もう、いいや……ミヤビ先生も」
「サナ、お願い、話を——」
「死んじゃえ」
再び力が強まるサナの両手。サナの声は感情が無く、瞳はミヤビを見ていなかった。
「さっ……なっ!」
対象ミヤビ、サナの両手を掴み抵抗するものの、サナの手は徐々にミヤビの首を絞めてゆく。
ミヤビは片手を離し、腰にある小型銃器を取り出した。そしてミヤビは銃口を対象サナのこめかみに付ける。対象ミヤビは引き金に指を添え、その状態のまま硬直。対象ミヤビ、銃をサナから離し、そして、もう片方の手もサナから離すと、瞳を閉じて全身の力を抜いた。
対象サナの荒い呼吸と歯ぎしりが室内を満たす。ミヤビの生体反応、徐々に低下。
扉開閉音。室内に動作反応を確認。扉開閉直後、対象サナが数回の爆発音と共に横へ吹き飛ばされ、地球の映像が流れている壁面にサナはぶつかり、そして意識がなくなった。
動作反応体マスターランサー、ミヤビの近くで片膝を付き、ミヤビの上半身を起こす。
「ご無事ですか?」
「げほっ、げほっ……はぁ……ええ、お陰様でね。それよりあなた、サナに何を」
「ご安心を。死の少女捕縛の為に用意していた軟性樹脂弾です。彼女に外傷は無いでしょう」
マスターランサーは立ち上がり、サナの方に顔を向けた。
「マスターランサー、何を」
「この患者は危険です。末期症状が出る前に規定に基づき処分を——」
「待ちなさい!! そんな事!! させるものですか!!」
ミヤビは銃を握ったまま立ち上がり、マスターランサーに怒鳴りつける。
「なぜあなたはそこまでこの患者に拘るのです。このままではあなたも危険に——」
ミヤビはマスラーランサーの声を遮るように銃口を自身の顎に付ける。
「サナに少しでも触れてみなさい。直ぐにこの引き金を引くわよ」
マスターランサーはミヤビの声に答えずに沈黙。
「今は私の命令に従ってくれるのよね? あなたは今すぐここから離れなさい。少なくとも隔離フロアからは離れて、いくらあなたでも末期症状の最後の声は聞かない方がいいわ」
「……了解いたしました。あなたに従いましょう。ただし、あなたは重要保護対象。いいえ、先程、総裁が自害なされたので最重要保護対象です。もし次にその患者が危険行動を犯すか、もしくは末期症状の兆候が現れても尚あなたがここに残った場合。死の少女を射殺いたします」
「結構よ。できればその時、誤射で良いから私も殺してくれない?」
マスターランサーは無言のままミヤビに顔を向ける。そして暫くの沈黙の後、マスターランサーは隔離フロアから退出。
その後、サナの声が小さく室内に響いた。
「うう……」
対象サナ、意識を取り戻し、目を小さく開ける。
「サナ、大丈夫? いくら樹脂弾とは言え痛かったでしょう?」
ミヤビはサナに声をかけながら、サナに近づく。
対象サナ、目を見開き、上半身を起こして壁に背を付けた。
「来ないで!!」
ミヤビはサナの声に足を止めた。
「来ないでください! 私は! 私はミヤビ先生を! ミヤビ先生を……もう嫌! 何で!? どうして!? どうしてこんな事に、な……る……」
対象サナ、壁面に映り込む自身の顔を見つめる。
「何、これ……私、し……ぬ? ……いやっ……いやぁああああああああああ!!」
「サナ!!」
「来ないで!!」
対象サナ、近づこうとするミヤビに叫ぶ。
ミヤビは顔を伏せ、足を止めた。
「私は……わたし、は……」
対象サナ、震える体を自身の両手で抱きしめ、こちらに顔を向けた。
「何で……私なんですか」
サナは瞳に涙を溜め、こちらに向かって叫んだ。
「母さんに殺されなかったからですか!? 父さんに殺されなかったからですか!? どうして! どうして私が死ななきゃならないんですか!! 私は! 私はこんな! こんな事の為に生まれてきた訳じゃない!!」
対象サナ、下を向き、叫び続ける。
「私だって生きたい!! もっと生きていたい!! 好きな人だって見つけたかった!! ピアノだって続けたかった!! それにまだ!! まだパパにだって会えてないのに!!」
対象サナ、再びこちらに顔を向ける。涙が大量に頬を伝い、流れ続けている。
「答えてよ!! 助けてよ!! 何で見てるだけなんですか!! こんな私を見ているのが楽しいんですか!? 面白いんですか!? どうして! どうして私の所に来たんです!!」
対象サナ、片手を床に付け、涙を流したまま眉をひそめ、こちらを睨む。
「何とか言ったらどうなんですか!! どうせ、そこで私の事を笑っているんでしょう? 私を見てて面白がってるんでしょう? 可哀想だとか思ってるんでしょう!?」
対象サナ、床に付けた手に視線を向け、そしてその手を強く握りしめる。
「ふざけないで……ふざけないでふざけないでふざけないで!!」
対象サナの視線を感知。
「私はあなたの為に生きてきたんじゃない!! 私はあなたの為に死ぬ訳じゃない!! 見てる事だけしか出来ないなら帰って!! 帰ってよ!! 私の前から消えてよ!! ……そこで見てるなら……そんな所で見てるなら……」
サナ、強く目を瞑り、そして見開いた。
「助けてよ!!」
対象サナ、瞳の焦点がずれだし、片手で頭を押さえる。
「助けて、よ……私は……わた、し……は……」
対象サナ、そのまま床に倒れた。
「サナ!!」
ミヤビはサナに近寄り、サナの体を抱き抱えた。
「大丈夫。気を失っただけ」
対象ミヤビ、サナを寝具に運び、仰向けに寝かせ、自身はその隣に腰掛けた。
「お互い、こっぴどく言われたわね……許してあげて、あなたが見てる事しか出来ないのは仕方ないし。末期症状前に情緒不安定になるのは良くある事なのよ……私は、自業自得だけどさ」
ミヤビはそう言って、サナの乱れた髪を手でそっと直し、頭を撫でた。
そして、対象サナが瞳を開ける。
「ミヤビ……先生?」
「ん? なに?」
「私……私……」
「いいのよ、サナ」
対象サナ、上半身を起こし、ミヤビに顔を向ける。
「でも、私、先生を殺そうと……つっ!」
対象ミヤビ、サナの頬を手のひらで叩いた。
「痛い?」
対象サナ、ミヤビの声に小さく頷く。
「私も痛かった。だから、これでおあいこにしましょ」
対象ミヤビ、サナを引き寄せ手を回し、そっと抱きしめた。
「ミヤビ、せんせぇ……」
「ん?」
「……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
対象サナ、ミヤビの胸に顔を埋めた。
「ごめん……な、さ……うぁっ、ああっ、ああああああああああ!!」
対象サナ、ミヤビの腕の中で泣き続ける。
対象ミヤビ、サナの頭に手を乗せ、そっと撫でた。
サナはミヤビの体にしがみつき、両手を握りしめる。
ミヤビは回す腕の力を強め、優しくサナの背中を撫でた。
対象サナ、ミヤビの顔を見上げ、そして再びミヤビに顔を埋める。
対象ミヤビ、サナの頭に自身の頬を添え、撫でていた手でサナの涙を優しく拭う。
サナはミヤビに抱きしめられたまま泣き続けた。
ミヤビはサナの手に両手を回し、更に抱きしめる腕に力を込めた。
室内に響くサナの嗚咽、ミヤビの小さな息づかい。
それから暫くして、サナの声が小さくなり、そして止まる。
「サナ、落ち着いた?」
「はい」
「それじゃあ、ほら。もう一人、謝らなきゃいけない人がいるでしょ?」
「……でも、もう許してくれないですよ。私、あんな酷い事を、言ってしまって……」
「大丈夫、もし許してなかったら、もうここに居ない筈よ。まだここに居てくれるって事は、許してくれているのよ。後は、サナの勇気だけ」
対象サナはミヤビから離れ、両手で涙を拭い、こちらに顔を向けた。
「あの……ごめん、なさい……私、あなたがそばにいてくれて、あんなに嬉しかったのに……本当にごめんなさい!!」
対象サナ、こちらを向きながら頭を下げ、胸に両手を押しつけた。次々にサナから涙がこぼれ、寝具に染みていく。
「大丈夫。大丈夫だからね」
「は……い……ごめんな……さい……」
対象ミヤビ、再びサナを引き寄せて抱きしめながら頭を撫でた。ミヤビはそのままこちらを向き、眉をひそめながら口元だけ小さく笑みを浮かべ、殆ど聞こえない程のか細い声を出す。
「後は、お願いね」
対象ミヤビ、こちらにそう言ってサナから離れ、寝具から立ち上がった。
「それじゃ、サナ。私はそろそろ研究室に戻るわね」
ミヤビはサナから背を向け、出入り口扉に歩きだした。
対象サナ、ミヤビの背中に声をかける。
「母さん」
対象ミヤビ、立ち止まり、サナに背を向けたまま口を開いた。
「いつから?」
「ピアノ、一緒に弾いてくれた時からです。確信したのは、今ですけど」
「良く、解ったわね」
対象サナ、優しく笑みを浮かべミヤビに答えた。
「解りますよ。ピアノを弾く指の動かし方とか、好きな音の続け方とか全部、母さんと一緒です。連弾は初めてでしたけど、あれじゃあ気づいてくださいって言ってるようなものですよ」
対象ミヤビ、サナに背を向けたまま沈黙。
「私の、お母さん、ですよね」
対象ミヤビ、ため息を付き、頭を片手で押さえながらサナに振り返った。
「あーあ、ばれちゃったか。そうよ、サナの言うとおり、私がサナの本当の母親よ。サナのお母さんのユキナは私と姉妹、それも一卵性の双子の妹。そしてサナを産んだのが私」
対象サナは笑顔が消え、顔をミヤビから逸らした。
「……どうして、隠してたんですか?」
「ごめんなさいね。そういう約束だったのよ。ユキナとナオトさんとの。ユキナはね、もう結婚してた時には共感病になってて子供が出来ない体だったのよ。当時はただの不妊症だと思ってたから、色々と試行錯誤しても結局駄目でさ。だから私がユキナに志願したのよ。私の体を使えってね。同じ遺伝子構造なんだし問題ないでしょって言ってさ」
対象サナ、先程のままミヤビの声を黙って聞いている。
「でも、私に悪いってユキナが断り続けて、全然折れないから言ってやったのよ」
「何てですか?」
「へっへー、聞いて驚け、子供産む代わりにナオトさんと直接やらせろ、それで後腐れなしにする、て言ってやったのよ」
サナはミヤビに顔を向け、目を細める。
「うわ……先生、それは流石に」
「あの時の二人の顔、サナにも見せてやりたかったわぁ。ナオトさんなんて滑稽だったわよ? まあ、それで条件として、サナには秘密にする事に決めたの」
「なんだか、いろんな意味で先生と血が繋がっている事実にへこみそうです」
「なに言ってるの、これは至極単純な事よ。サナにはね。サナを想う二人のお母さんが居た……それだけなのよ」
「……へへっ、それじゃあ私、幸せ者ですね」
「当たり前よ。私とユキナが母親だなんて幸せもいいところだわ」
対象サナ、再びミヤビから視線を逸らしため息を付いた。
「ちょっとそこ、想像して嫌そうな顔しないの」
「あはは……はぁ」
「もう……もちろん、サナを想ってるのは私達だけじゃない。ナオトさんだってそうだし……」
対象ミヤビの視線を感知。対象、親指をこちらに向けている。
「こいつだって、きっとその筈よ」
対象サナ、ミヤビとこちらを見ると、片手を胸に押しつけ顔を下げた。
「はいっ」
「……それじゃあ、私はもう行くわね」
対象ミヤビ、サナに再び背を向ける。
「母さん」
対象サナの声に、ミヤビは背中越しで答える。
「何?」
「……また、会えますよね?」
「勿論よ。じゃあ、また後でね」
「はい……」
対象ミヤビ、そのまま歩きだし、出入り口扉へ。
扉開閉音。対象ミヤビ、室内より退出。ミヤビの生体反応、隔離フロアから消失。
対象サナ、施錠表示がされている扉を見つめ、口を開いた。
「嘘つき」
対象サナ、寝具にそのまま倒れて仰向けになる。対象の長い髪が寝具に広がり、対象はその髪に指を絡めた。
「あーあ、結局ミヤビ先生にはかなわなかったな……最後の最後まで無理して嘘ついて……私も馬鹿みたい、何で言えないのかな」
サナは天井を見つめ、涙を流す。対象サナ、涙を拭い、歯を食いしばる。
「母さん……母さんっ……なんで今更、どうして……死にたくない、死にたくない……まだ、まだ……やっと解ったのに……あとちょっとだけ、ちょっとだけでいいのに……」
対象サナ、自身の呼吸を整え、涙を拭い、こちらに顔を向けた。
「さっきは本当にごめんなさい。あんな酷い事言ってしまって。私、あなたが居てくれて本当に嬉しかったのに。私なんかのそばに、ずっと居てくれたのに……それだけで良かったのに」
サナはこちらに微笑みながら自身の胸に手を添えた。
「ありがとうございました。ずっと、こうして一緒に居てくれて。私、あなたが居なかったら、たぶんこんな想いになれなかった。きっと最後の最後まで何もかも恨んで、何もかも憎んで過ごして……死んで、いたんだと思います」
対象サナ、天井に視線を向け、瞳を閉じる。
「何ででしょうね。あなたがそばに居るだけで、こんなに穏やかな気持ちになれるんです。優しい気持ちになれるんです」
対象サナ、再びこちらに視線を向ける。そして、そのまま手を伸ばした。
「やっぱり駄目なんですね。あなたには触れられない。こんなにそばにいるのに、あなたには手すら届かない……でも、これ以上はいくら何でも求め過ぎなんでしょうか。あなたはこうして、そこに居てくれる。それだけで、そばで見てくれるだけで十分なのに……」
サナは手を自身に戻し、視線を天井に向けた。
「見てるだけ……あ、そうだった。母さん、幽霊より質が悪いんだった」
対象サナ、天井に視線を向けたまま言葉を続けた。
「母さん、聞こえてますか? ……伝えるのを忘れてました。ありがとう、母さん。ずっと私のそばに居てくれて。ずっと、私と父さんを励ましてくれて……母さんって昔から私と同じで自分の気持ちに不器用だったよね。母さんのそんなとこ、もっと早く気が付いてれば良かった」
対象サナ、涙がこぼれだし、枕に涙が染みていく。
「そうすれば、もっと母さんに甘えられてたのに。父さんとだって、もっと上手くやれた筈なのに……馬鹿ですよ母さんは。そうやって自分に嘘ついて……でも嬉しかったです。楽しかったです。ずっと、ずっと、母さんと居られて……本当に、ありがとう……ございました」
対象サナ、涙を流したままこちらに顔を向けた。
「へへっ、こんな事なら、もっと甘えて、もっと母さんを困らせてれば良かった……もうすぐ、終わりみたいです。解るんです。体が死を求めて動いているのが……」
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「もう少しで……私が……終わる」
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「ああ……そういう、こと……なんだ……」
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「私と……同じで……不器用……なんだね……」
——警告 閲覧者の閲覧停止がなされないため 傍観者機構を強制停止いたします
——傍観者機構 強制停止活動開始
「わたし? ……わたしはね……ワタシハ……」
対象サナの口が大きく開かれる。そして
——傍観者機構 強制停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理




