表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

File : Project G.O.D. 19

——傍観者機構 活動開始

——接続……成功



 仮登録対象ロイドの生体反応を確認。

 対象の姿を視認。対象、骨格及び人体構造から男性と判断。現登録対象四名とは違い、肌は褐色を帯び、頭の黒髪は短くまとめられている。年齢……不明、各部に異常が見られるため検証を断念。外見からの比較では対象ナオトより年上と推測される。

 対象の体は、各種金属及び合成繊維で構成された、肌に沿った衣服と、防護装甲を着用。対象の各部に銃器、短刀など各種対人用の武装を確認。

 対象ロイドはこちらに背を向けながら誰かと話を続けている。対象の耳に小型の通信機器を確認。音声通信で会話をしている模様。

 室内の光源は窓から入る光のみ。室内のテーブルなど各所に銃器や各種装備品が並んでいる。対象以外の生体反応及び動作反応無し。

「——ナオト司令の読み通りですよ。ここの警備設備はかなり不味い。なんとかこの部屋の機密確保はできましたが、ライラフェナルディ技術主任の助力ももう得られそうにありませんし、ここも何時まで持つか……はい、それは本当に申し訳ありません。どうしても見ていられなかったので…………そう言ってもらえると助かります……はい、あの子の確保は問題ありませんが、何分ミヤビシステムとサイトウ主任が厄介です。サイトウ主任に関しては研究者レベルであそこまで……っ!」

 対象ロイド、銃を抜くと素早くこちらに振り向き、銃口を向けた。

 対象、照準をこちらに合わせ制止。目を見開きながらロイドはこちらを見つめている。

「……ははっ、そのまさかですよ。傍観者に見つめられました。今、自分の目の前に居ます……はい、了解いたしました。今は現状維持を最優先します。では」

 対象は銃をこちらに向けたまま、息を吐いた。

「ふう……バイスタンダー、だよな……視聴覚迷彩の反応もない……まあ、殺すつもりなら俺はもう死んでるか」

 ロイドはこちらに顔を向けたまま、銃を自身の体の固定具に納めた。

「頼むから、背後からの登場は勘弁してくれ。不可視の敵は俺達が一番恐れてる対象だ。なまじ自分達がそうだから尚更な……おまえさん、さっきサイトウ主任と一緒に居た傍観者だろ? まったく不思議な存在だな。見えないくせに異常なほど存在感があるのもそうだが、何より接触した連中に片っ端から近づくって噂は本当のようだ」

 対象ロイド、その場を離れ、壁に備え付けられている端末を操作する。対象は端末から出てきた樹脂製の容器を二つ持ち、散乱する銃器を押しのけてテーブルに並べた。

「味はあまり良くないが勘弁してくれよ、これでも嗜好品は値上がり続きで貴重なんだ」

 対象はテーブルに腰かけ、一つの容器を持って液体を啜る。

「あ、すまねえ、飲めるわけないよな……ま、こういうのは気分だな」

 対象ロイドは手をこちらに差し出して笑みを浮かべた。

「ロイド=フェダルテだ。これも何かの縁だ、よろしく頼むぜバイスタンダー」

 ロイドは差し出した手を戻し、容器の液体を啜りながら自身の腕に視線を向ける。対象の腕部防護装甲には大きな損傷が見受けられる。

「しかしサイトウ主任には参った。プロジェクトメビウスの才女で処置済みだとは聞いてたんだがな。研究者レベルであそこまで人体改造してるのは想定外だ。ありゃあ両脚と片腕は完全に機械化してるな。しかも骨格の大半が強化骨格。特殊硬化繊維を着てるからってあそこまで動かれるとうちの機械化部隊が泣くよ。こっちは生身なんだ、もし対サイボーグ装備をしてなかったらと思うとぞっとするぜ」

 対象ロイド、容器をテーブルに置き、隣に置いてある小銃を持って、各部を操作し始める。

「しかしなんでお前さん、俺なんかの所に来たんだ? かみさんに浮気された挙げ句殺された、この馬鹿で哀れな男を笑いにでも来たのか?」

 対象は小さく笑みを浮かべ、小銃を片手に窓の空を見つめた。

「別に浮気された事に関しちゃ恨みも何もないんだ。お互い、仕事を優先し過ぎて完全に冷えきってたしな。そのくせ、かみさんが殺されて気がついたら、俺は軍を辞めてその原因を一人で追ってたんだ。馬鹿げてるだろ? 今更何を亭主面してるんだかってな……」

 対象は空いた手で容器を取り、液体を啜る。

「それからは運良く、後一歩の所まで探り当てられた。クレイドルが絡んでる事もその時には解っていたんだがな。もう俺は自分を止められなくてよ。気がついたら主犯の連中の家に乗り込んでいた。そしたらたまげたよ。家に入り込んで最初に目に入ったのが大量の銃口だったんだからな……そして今はこんな有様だ。腕を見込まれてクレイドルガードに無理矢理配属。除隊の許可は永久に降りねえだとよ。ふざけてやがるぜ、まったく」

 対象ロイド、容器の液体を飲み干し、こちらに顔を向けた。

「おまえさん、ナオト司令とも知り合いなんだよな。あの人はすげえぜ? 何せクレイドルに入って僅か十数年であそこまで上り詰めやがった。クレイドルガードを日の当たる巨大な組織に変えたのもあの人さ。今やクレイドルの殆どを掌握してると言っても過言じゃねえ。明日の総裁選、勝つのは我らが総大将だな」

 ロイドは小銃をテーブルに戻し、自身の体に固定されている銃を取り出した。

 対象ロイドの持つ銃は傷が大量に入り込み、部屋にある各種銃器と違い、年代が古い模様。

「クレイドルガードに入って最初の任務が、おまえさんも聞いてた例の議員暗殺だ。その時議員を殺すのに使ったのがこれだよ。軍を除隊する時に上官から餞別で貰った、今となっちゃ骨董品だ。クレイドルガードじゃ装備の規定違反だけどよ、これだけは俺のわがままを通させて使わせてもらっているのさ。こいつは初めて俺自身の憎しみで引き金を引いた銃だ。命令でも何でもない、俺自身が引いた引き金だ。だからこれだけは手放せなくてな。これさえ持っていればどんな状況だろうと、自分自身を見失なくてすむ……そう、思えてな」

 対象ロイド、銃の上部を引き、上方に飛び出た弾丸を掴むと、それをテーブルに置いた。そしてロイドは上部を引ききったままの銃から弾倉を引き抜き、それもテーブルに置く。

「今の総大将が指揮をするようになる前のクレイドルガードは本当にひでえ場所だったよ。暗殺、誘拐なんて当たり前、内部の人間にも容赦はない暗部組織。俺も命令とは言え何人殺したことか。殺すのにも躊躇が無くなって、死体を数えるのも止めるようになって……そういえばそんな時だったな、ワカバの嬢ちゃんを助けたのも」

 対象ロイド、笑いながらこちらに顔を向けた。

「あっはっはっはっ、嬢ちゃんじゃ失礼だな。俺の倍近く生きてるのによ。でも構わねえか、あの姿で婆さんはないわな。まあとにかくだ、ワカバ嬢ちゃんに暗殺命令がかかったんだよ。当時は珍しくもなくてな。嬢ちゃんの代のデザイナーズベビー連中はほとんど廃棄処分が決定されちまってた。何より本社連中が嬢ちゃん達の決起を心配してビビっちまってたからな。だからワカバ嬢ちゃんにも順番が来た、ただそれだけの筈だったんだがよ」

 対象ロイドは引かれたままの銃の上部を元に戻し、それを握りしめた。対象はその銃をじっと見据えている。

「ワカバ嬢ちゃんの担当は俺だった。別に大した任務じゃないさ、警戒されていたとは言え、向こうは戦闘に関してはど素人も良いところだ。でもよ、一つだけ問題があってな。ワカバ嬢ちゃんにはいつもユキナ嬢ちゃんが付きっきりでよ。一緒にやっちまえば話は早いんだが、ユキナ嬢ちゃんは絶対に傷つけるなとお達しがあった。でも、それでも俺にとっちゃ大した問題じゃない。ターゲットが片方だけなんて良くある事だしな」

 対象ロイド、銃を見据えたまま苦笑いを浮かべた。

「でも、その時俺はしくじっちまってよ。ユキナ嬢ちゃんにしてやられて、二人して逃げられちまった。それでも結局は追いつめて、この銃をワカバ嬢ちゃんに向けた……そしたらどうだ、ユキナ嬢ちゃんがワカバ嬢ちゃんの前に立ちふさがって、殺すなら自分を殺せって言い出しやがってな……体中、ガタガタ震わせて、今にも泣き出しそうな面してるくせに、泣くのを必死に堪えながらよ」

 ロイドは口元を小さく綻ばせ、笑顔を見せる。

「もうそこで俺の負けさ、情けないけどな。もう俺にはワカバ嬢ちゃんを殺す事はできそうになかった。それからユキナ嬢ちゃんと書類を誤魔化してワカバ嬢ちゃんを死んだ事にして匿ったのさ……でも驚いたのはユキナ嬢ちゃんが総大将と結婚しやがった事だな、まったく世間は狭いぜ。でも、結婚して早々に死んじまったのは可哀想だよな。本当に、いい子だったのによ」

 対象ロイド、笑みを浮かべ、こちらに顔を向けた。

「だからかもしれねえな。サイトウ主任の事も、最初は放っておくつもりだったんだけどよ。あのユキナ嬢ちゃんにソックリな顔を見ちまったら体が勝手に動いてた……やれやれ、俺もいい加減引退時かね」

 対象ロイド、テーブルに置いた弾倉と弾丸を掴み、弾丸を弾倉に入れると、手早くそれを銃に納める。そしてロイドは銃の上部を引き、自身の体の固定具にそれを納めた。

「だが、今は総大将とユキナ嬢ちゃんの愛娘が問題だ。サイトウ主任の行動は読めねえ、サナ嬢ちゃんの終わりは近い。死の少女計画の始動命令が先か、サイトウ主任の行動が先か、総大将の命令が先か……もう俺達の引き金に掛かる指は、全員引き時を睨んでブルブル震えてやがるのさ」

 対象ロイド、テーブルに置いた二つ目の容器の液体を一気に飲み干し、荒っぽくテーブルに置くと、こちらを睨むかのように目を細めた。

「明日が山場だぜバイスタンダー。明日、全てが決まる。全てに決着が付く。俺達全員の未来が明日決まるんだ。たとえ、どんな結果で終わろうとな」

 対象はテーブルから離れると、いくつかの銃器や装備品を掴み、室内の扉前まで進んだ後、こちらに振り返った。

「俺は持ち場に戻るぜバイスタンダー。おまえさんと会えて良かったよ。自分勝手に話しちまったが、俺の気持ちを固めることが出来たような気がする。またこうして会う機会がありゃ、今度はちゃんとドリップした珈琲でもてなしてやるよ。じゃあな」

 対象ロイド、室内より退出。

 室内に生体反応及び動作反応無し。



——傍観者機構 接続停止





管理番号_20160805 管理者名_若葉代理

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ