File : Project G.O.D. 20
——傍観者機構 活動開始
——接続……成功
対象ナオトの生体反応及びその他多数の生体反応を確認。
広い室内の壁に各種情報が表示され、複数の未確認対象が並べられた机で何らかの作業をしている模様。
対象ナオトを視認。対象は、室内の一角にある広いテーブルに上着を置き、テーブルに浮かび上がる表示を凝視していた。
「——対地重力砲の凍結作業は?」
対象ナオト、テーブルを囲う数名の未確認対象と話をしている。
「グラビティハンマー全十三機中、五機は完了しましたが残りは難しいですね。未だクレイドルへの譲渡を拒否している国が多いですから説得に難航しているようです」
「可能な限り交渉を続けるんだ、稼働状態で放置しておきたくない」
「ナオト司令、聞きたかったのですが、あれを凍結してなんになるんです? 今や抑止力にもならない放棄された衛星です。未管理のままでしょうからまともに動くかどうかも」
「嫌な予感がするだけだ。最善策を取れるなら徹底的に取っておきたい。軌道上にある星間船も出来るだけ停止させておいてくれ。特に武装を施した奴をな」
「了解しました。司令の嫌な予感ほど当たるものはありませんものね」
「私としては今回は外れる事を願うよ。それより本社のクレイドルガードの動きは?」
「変わりません。陸海空の全部隊が既に動き出しています。空軍の到着に会わせ、明朝には施設の包囲が予想されます。正直、フェダルテ大尉の部隊だけでは時間稼ぎも難しいかと」
「残念だが、これ以上の人員投入は現状不可能だ。彼らが施設の襲撃を開始するまで我々は動けん。クレイドルランサーは動いてないのだな?」
「あの対地球外生命体想定の機械化部隊がですか? それこそ動ごかせませんよ。彼らの出動は総裁の命令だけでは無理ですし。むしろあれを動かしたら総裁自身、ますます退任だけでは済まされませんよ。そもそも、クレイドルランサーはリング衛星待機で動けないじゃないですか」
「それもそうだな。とりあえず警戒はしておいてくれ」
「了解です。でもほんと、女の子一人になんて大げさな」
「司令の娘さん。助けられると良いですね」
「それよりも今は八千万の命が優先だ。今回の作戦、失敗は許されないのだぞ」
「はい、了解です……それより司令、一つ聞きたいのですが……」
未確認対象の視線を感知。
「なんだ、遠慮無く言ってくれ」
「クレイドルガード作戦本部での視聴覚迷彩の使用は……」
「発見次第即銃殺だ。そもそもこの施設では使用不能の設定の筈だろう」
「それならたぶん……ナオト司令にお客様ですよ」
未確認対象の指がこちらに向けられる。
「何だ? 誰が来てると……」
対象ナオトの視線を感知。対象はこちらを向いたまま沈黙。
その他周囲から未確認対象の視線を多数感知。
「うそ……あれ、本物?」
「なんだよ、傍観者にでも見つめられたのか? ……まじかよ。視聴覚迷彩じゃないよな?」
「視聴覚迷彩じゃ存在すらわからないでしょうが。でも、こんな感じなんですね。なんだか不思議です。まったく見えないのに、そこに居るのが解るなんて」
「幽霊みたいに怖いかと思ってたけど、なんだか全然逆な感じですね。不思議と暖かみがあるというか何というか」
「えーとナオト司令、こういう場合どうすれば良いのでしょうか。お茶でも出しますか?」
対象ナオトは小さく頭を振り、ため息を付いて周囲の未確認対象を見渡した。
「お前達は作業を続けてくれ、私は現地に向かう準備にかかる。後は頼んだぞ」
対象ナオトは未確認対象のそれぞれの返事を聞きながらその場を離れ、こちらに近づいた。
「すまないが付いてきてくれ、ここでは皆の好奇心を刺激するだけだ」
対象ナオトより同行要請、拒否要素無し、距離を固定。
移動先、現施設上階。室内の壁面を覆う窓からは先程の未確認対象達の姿が見受けられる。
「ここはクレイドルガードの作戦本部だ。本社以外のクレイドルガードはここで管理と指揮がなされている。ここでの総指揮が今の私の本業だよ。正直、広報の営業の方が性に合っている気がするがね」
対象、ガラス窓の未確認対象達を見ながら、室内にある机の上の鞄を開く。
「私がクレイドルに入って暫くしてからだ。上にものを言いすぎていた私は本社の総裁に目を付けられてな。当時は暗部組織だったクレイドルガードの指揮を無理矢理兼任させられたのだよ。この場所は私にとって専門外だったから、そこで私が問題でも起こせば首を切る良い口実になるとでも考えていたのだろう。だが、私はそれを利用させてもらった。元々こっちの才能もあったのだろうな。当時は各国で軍縮が進んでいた時期だ。払い下げられた除隊兵を雇用し組織を拡大、クレイドルガードの組織内での影響力も強めていった」
ナオトは数枚の書類を鞄から取り出し、それを見つめる。
「広報時代は国相手の交渉もそう珍しくなかったからな。そこからの伝もあってクレイドルガードの軍備増強は難しくなかった。当時は私を無能の天下りと言っていた仲間も、今は私を信頼して作戦にあたってくれている……今の私は私だけの力で上り詰めてこられたのではない。皆の助けのお陰で今の私が居る。ただ、私はそれすらも私情で利用したまでにすぎないんだ」
対象は見ていた書類を机に置いた。
「これがサナの命を救う唯一の方法だ。ワカバに上手く動いてもらえたお陰で、後はこの書類を私が総裁就任と同時に受理すれば完了だ。サナはクレイドルメンバーに組み込まれ、早急に複製体を作成、脳移植もしくは記憶移植が行われる」
ナオトはこちらを向き、笑みを浮かべた。
「笑いたければ笑ってくれ。これを受理すると言う事は、あの子を未来永劫、人類の奴隷にすると言う事だ。それも本人の意志と関係無くな。ミヤビはこれを許さないだろう。ミヤビはクレイドルメンバーとしての苦しみを一番理解している人間だ。だからこそ別の解決策を模索し続けていた。だが、それももう時間が許さない。ミヤビが作ってくれた時間も、サナの終わりも、もうそこまで来ている」
対象ナオトは鞄に書類を戻し、鞄の鍵を閉めた。
「私もこれからあの施設に向かう予定だ。なに、心配はいらない。彼らの目的はあくまでサナの確保だ。クレイドルガードの装備は完全に規制されている。上官である私には銃を向ける事すら出来まい。彼らの包囲と共に私が彼らとの交渉に当たる。どれだけそれに効果があるかは未知数だが、ロイド達が交戦するよりは本隊到着までの時間稼ぎになる筈だ」
ナオトは鞄を持ち、机から離れた。
「では私はこれで失礼するよ。ここを見ていてもらっても構わないが、あまり彼らを刺激しないでやってくれ、もう作戦行動は始ま——」
『ナオト司令!』
室内音響装置より先程の未確認対象の声が発生。
「何だ、どうし——」
『いいから来てください!! 緊急事態なんです!!』
「了解した! すまない、失礼するよ」
対象ナオトはそう言いながら室内から飛び出していった。対象ナオトを視界から消失。
室内に生体反応及び動作反応無し。
——傍観者機構 接続停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理




