File : Project G.O.D. 16
——傍観者機構 活動開始
——接続……成功
対象ミヤビを視認。対象は室内にある壁一面を覆う鏡の前に立ち、鏡に映る自身の顔を生気の無い目で見つめている。
天井からの光以外に光源無し。室内は狭く、鏡のある壁には洗面台が並んでいる。
ミヤビは暫くの間、そうやって自分自身を見つめた後、口を開いた。
「気を使わせたみたいね。あんたにもサナにも……価値があるもの、か。口が達者になったことだわ、まったく」
対象ミヤビ、鏡越しでこちらに視線を送る。
「いい? 残酷だけど、この先何があろうとも、あの子に兵器としての価値以外生まれない。人の価値なんてね、自分以外の人間が評価して初めて意味があるものよ。だからサナは人類にとって最低で最悪の兵器ってだけ。即死性は少ないから、兵器として二流とは言えね」
ミヤビは鏡を鋭く睨みながら、自身が映る鏡に拳を叩きつけた。
「反吐がでるわ。自分の言葉も、自分の行動も何もかも。ねえ、あの子が何をしたっていうの? 私がしてきた事って何? 私がしてきた事は! 全てあの子の為よ! サナの為なのよ!!」
対象、再び鏡を殴りつける。俯いた顔は髪に隠れ、対象の表情は歯を食いしばる口元以外確認出来ない。
「それなのに……ねえ、なんで? どうしてよ! 何で私じゃないの!? サナは些細な幸せを望んでいるだけなのに、何で私が生きてサナが死ぬのよ!! 私はこんな事の為にサナを……サナを……」
対象ミヤビ、俯いたまま懐から小型の銃器を取り出す。ミヤビは銃器上部の安全装置を外し、それを握りしめた。
「今日は、いけそう……ね」
ミヤビはそう言いながら銃器の銃口を自身の顎に近づける。しかし、顎に銃口が向けられる直前にミヤビの腕が制止。そしてミヤビは空いているもう片方の手を、銃を握る手に添えた。
ミヤビは添えた手で銃器を押し上げ始める。対象の手は小刻みに震えながらも、少しずつ銃口を押し上げていく。
銃口がミヤビの顎に付けられ、息を荒くしながら対象は引き金に指をかけた。
「はぁっ、はぁ……ははっ、ざまあないわ。これで死の少女計画も、ミヤビシステムも、何もかもお終いよ!」
対象ミヤビ、引き金を引こうと指に力を込める。しかし、対象の指は動かずに静止。
「くそっ、指の神経まで……っ!?」
室内に追加生体反応を感知。視認できず。
対象ミヤビ、背後に素早く振り向き、片足を何も無い空間に向かって蹴り上げる。
空間に打撃音。その後、壁の一部が損傷する。
ミヤビ、足の動きを止めずに体を捻り、片手で洗面台を掴みつつ室内最深部まで跳躍。着地ざまに腕を伸ばし銃を発砲。三発を連続で発射後、ミヤビの持つ銃が横に吹き飛ばされ床に転がった。そして対象ミヤビの両腕が背中に回り、対象はそのまま鏡の壁に叩きつけられる。
未確認対象の生体反応、対象ミヤビの生体反応と重複。ミヤビ、視覚出来ない未確認対象に両腕を拘束されている模様。ミヤビは背後に顔を向け、空間を睨みつけていた。
「ご自愛ください、サイトウ主任」
ミヤビの背後の空間より未確認対象の声を確認。未確認対象、声色から男性と判断。
対象ミヤビは背後の空間を睨んだまま口を開く。
「クレイドルガードの視聴覚迷彩……警備の強化は聞いていない。レベルP5にはまだ早いわ。あなた達の出番はまだ先の筈」
「本社からの勅命です、主任。警備レベルのみ引き上げろと命令が来ています。こちらが命令書です」
未確認対象の声と共に空間に文字列が並ぶ。
「主任の端末に転送します。主任には緊急の場合以外、秘匿せよとの命令でした」
対象ミヤビ、背後の空間から顔を逸らす。
「馬鹿ね。それなら放っておけば良かったのに。どうせ死ねなかったのだから」
「……神経系統は生体修復作業の中でも時間と費用を最も要します。損傷は、それも故意によるものは避けるべきです」
「……嫌な言い方」
対象ミヤビの拘束が解かれ、ミヤビは未確認対象の居る背後の空間に向き直る。
落ちていた銃が宙に浮かび、対象ミヤビの前で静止。
「さっきの見てて良く渡せるわね」
「携帯を義務付けられている理由をお忘れですか?」
ミヤビは未確認対象の声に答えずに銃を受け取り、懐にしまう。
「ナオトさんね」
「何がでしょうか」
「あなた、司令付きの護衛部隊の部隊長でしょう? クレイドルガードのエリートだったわね、ロイド」
「……なぜ、それを」
未確認対象の名称を取得。仮登録。
「今日からミヤビシステムの本格的な試験運用が始まっているのを知らないの? この施設に居るという事は、今や私の腹の中に居るも同然なのよ? 元陸軍特殊部隊所属、ロイド=フェダルテ大尉。へぇ、奥さんはあの事件に巻き込まれて死亡か……あらあら、あの暗殺任務で議員を殺したのあなただったの。良かったわね、敵討ちができて」
「……主任、やめてください」
「奥さんが殺された事件もクレイドルが絡んでる事、あなた知っててそこに居るの?」
対象ロイド、ミヤビの問いに答えず沈黙。
「奥さんの事は残念だったわね。当時はあなたの国を呼び込むために、あの議員が必要不可欠。彼の要望だったとは言え酷いものね。彼に対抗してた議員を一緒にいた愛人もろとも抹殺——」
「サイトウ主任! あなたは自分の気を逆撫でさせて銃を抜かせたいようですが、自分は何を言われようとも挑発に乗るつもりはありません!」
「別に、ただ腹の虫の居所が悪いだけよ。で? ナオトさんの命令なんでしょ?」
「自分には答える義務も権限もありません」
「そう、まあいいわ。あなたがここに居るのが何よりの証拠よ。さあ、用が済んだのなら持ち場に戻りなさい」
そう言うとミヤビは、対象ロイドの生体反応のある空間から背を向けた。
「……了解いたしました。ただし、死の少女の監視は継続させていただきます」
「私の監視、の間違いじゃなくて?」
「……失礼します」
対象ロイドの生体反応、室内より消失。
ミヤビは鏡の前で乱れていた髪を片手でかきあげる。
「やれやれ、もう迂闊に行動はできない……か」
ミヤビは空笑いをあげ、額を手のひらで押さえた。
「ははっ、馬鹿みたいね、本当に……私達はね、死ねないようになってるのよ。人類に、永遠に奉仕させる為にね。少しずつ慣らしてきたんだけど、これは私の想像以上に手強い」
対象ミヤビの視線を感知。対象はこちらを向き、小さく笑顔を見せている。
「じゃあ私も戻るわ。ありがとね、来てくれて……それと、ごめんなさい」
対象ミヤビ、室内より退出。
室内に生体反応及び動作反応無し。
——傍観者機構 接続停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理




