第九話
「お父さんは家族より、大切なものが出来たんだね。」
私にはもう、父は必要ない。
私を大切にしてくれない人に、返す愛はない。
「さようなら。」
父は自分で捨てたのに、捨てられた様な顔をした。
傷付く資格はないのに。
父が浮気をして、それを許さなかった。
私を宝物だと言ったのに裏切った。
裏切り者はいらない。
「私をどうしたいの……?」
手を握り離さない、泉宮くんに尋ねた。
体温を感じる。
泉宮くんの手は大きい。
骨張っていて、男の人の手だ。
「可愛がって、そばに置きたいのかな。」
……愛玩動物だと思われてるのか。
私の反応が面白いのか……。
「つれないよね。」
泉宮くんに握られてる手を、口元に持ってかれる。
形の良い唇の隙間から、白い歯と赤い舌が覗いた。
「いつになったら、遊びに来てくれるの?ずうっと、待ってたんだけど。」
私の指に舌が這わされ、熱い口内に入れられた。
艶かしい光景に、目が離せなくなる。
私の体の一部が、泉宮くんの中に入った。
ここは学校で外からは、運動部の元気な声が聞こえて来て、吹奏楽部が演奏の練習をしていたが、その音が遠くなる。
目の前の泉宮くんに、全ての神経が集中した。
「良い子で待つのはやっぱり、性に合わないんだよね。」
私の指に歯を立て、噛み付いた。
獲物を狩る肉食獣の目をしていた。
笑顔の仮面を破り、獰猛な本性を表した。
……食われる。
そう、思った。




