第八話
都鳥くんは過去最高に機嫌が悪いと、言ってたけど、私からしたら、普段のいつも通りに見えた。
都鳥くんにしか、分からないのかな。
学食から戻って来たと思われる、泉宮くんは今も隣の席の椎奈さんと話していて、普通だと思う。
椎奈さんが楽しそうに話して、泉宮くんは笑みを浮かべて多分、相槌を打ってる。
都鳥くんはどこを見て、泉宮くんの機嫌が悪いと感じたんだろう……。
……謎だ。
考えても分からなかった。
泉宮くんと初めて話したのは、入学式の日である。
式が終わり一年一組の教室に行って、担任になる涼風先生の話が終わって、少しの自由時間に泉宮くんは、椎奈さんを含む女子達に囲まれていた。
内容は新入生代表の挨拶良かったよ、とかだったと思う。
口振からして、同じ中学なんだと。
泉宮くんの前の席の明石くんは、居心地が悪そうだった。
女子に囲まれるのが慣れてるらしく、笑顔で対応していた。
ファンサービスをするアイドルと、熱狂的なファンみたいだなぁと、見てると目が合った。
泉宮くんは小首を傾げる仕草をして、言葉には出さずに目だけで、何?という表情を浮かべた。
怖い人だと思った。
……表情ひとつで、人の心臓を止めそうで。
私は見てたのがバレたのが恥ずかしくて、顔に熱が集まり赤くなったのが自分で分かった。
「入夏さん、だよね?」
帰りの準備をしてると、そう話し掛けられた。
「……入夏です。」
「合ってた。泉宮葵です。席が近いし、仲良くしようね。」
手を差し出されたが私には、今日、初めて会った人の手を握るのはハードルが高く、ただそれを見つめた。
「ごめん、癖で。」
私の反応を警戒と取ったのか、泉宮くんは手を引っ込めた。
「海外に住んでた事があるの……?」
握手をする習慣のある人なのでは。
「うん。親の関係で。入夏さん、海外のご経験は?」
泉宮くんは冗談めかして、片方の眉を上げた。
そんな表情も魅力的だった。
チャーミングって、言葉が合う。
「全く。飛行機にも乗った事ない。」
私は首を振った。
「そうなんだね。これからの新しい体験、楽しみが沢山あって良いね。」
「……泉宮くんって、素敵な考え方をするんだね。」
泉宮くんは微かに、目を見開いた。
「ありがとう。褒められると、照れるね。」
全く、照れてなさそうだった。
泉宮くんの考え方、物事の捉え方には余裕が感じられた。
新入生代表挨拶で、登壇した姿を見た時も思ったが、立ち振る舞いが堂々としていてノイズがない。
スピーチは原稿が用意してあるとはいえ、緊張するもの。
髪や顔を触ったり、えー、とかあー、とか挟みがちだ。
声のトーンもスピードも、訓練されてるのでは。
格が違う。
とっつき難いと思いきや、話しやすくてユーモアがあった。
海外マウント取りがちな人が多いのに、泉宮くんは違った。
英語が話せるのはすごいと思う。
中学の時にやたらと話し掛けて来て、鬱陶しい同級生がいた。
海外に親が持つ別荘があるから、遊びに来いよと、しつこく誘って来たやつが。
行くわけねぇだろ。




