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第16話 雪の朝

 朝、目を覚ますと部屋の中がいつもより明るかった。


 ミーナは不思議に思いながらベッドから起き上がる。


 窓へ近付き、カーテンを開いた。


「わあ……」


 思わず声が漏れた。


 外の景色が真っ白だった。


 一晩のうちに雪が積もったらしい。


 家々の屋根も。


 畑も。


 遠くの丘も。


 すべてが柔らかな白に包まれていた。


 まだ誰も歩いていない雪の上に、朝日が淡く差し込んでいる。


 静かな冬の朝だった。


 窓ガラスに手を当てる。


 ひんやりと冷たい。


 吐いた息が白く曇った。


「今年はたくさん積もったね」


 後ろから声がした。


 振り返ると、レイラが部屋の扉を開けていた。


「お母さん、おはよう」


「おはよう」


 レイラは窓の外を見て微笑む。


「綺麗ね」


「うん」


 ミーナは大きく頷いた。


 フィオラの冬は好きだった。


 寒いけれど嫌いではない。


 雪が積もると村全体が静かになる。


 世界が少しだけ優しくなる気がするのだ。


「朝ご飯できてるわよ」


「はーい」


 階段を下りると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。


 家の中は暖かい。


 焼きたてのパンの匂いもする。


 エリアスはすでに席についていた。


「おはよう」


「おはよう、お父さん」


 いつもの朝。


 けれど少しだけ特別な朝だった。


 食事をしながら、ミーナは何度も窓の外を見てしまう。


 雪景色が綺麗だったから。


 それもある。


 でも理由はそれだけではなかった。


「もうすぐね」


 レイラがふと口にした。


 ミーナは顔を上げる。


「何が?」


「何が、じゃないでしょう」


 母はくすりと笑った。


「カイロス君が来る日よ」


 その言葉に胸が少しだけ跳ねた。


「あ……」


 数えてみる。


 あと二日。


 冬休みに入れば、カイロスはフィオラへ来る。


 手紙では何度もやり取りしていた。


 けれど実際に会うのは夏以来だ。


「楽しみ?」


 レイラが尋ねる。


 ミーナは少し考えてから頷いた。


「うん」


 それは素直な気持ちだった。


 元気にしていることは手紙で知っている。


 でもやっぱり会いたい。


 顔を見て話したい。


 王都のことも聞きたい。


「きっと背が伸びているわね」


 レイラが言う。


「そうかな」


「男の子だもの」


 エリアスも笑った。


「夏より大人っぽくなっているかもしれないな」


 ミーナはその姿を想像してみる。


 けれど上手く想像できなかった。


 カイロスはカイロスだ。


 無口で。


 真面目で。


 少し不器用で。


 でも優しい。


 そんな印象のままだった。


 朝食の後、ミーナは外へ出た。


 雪は膝の下くらいまで積もっている。


 歩くたびに、きゅっ、きゅっと音がした。


 丘へ続く道も真っ白だった。


 空気は冷たい。


 けれど気持ちがいい。


 吐く息は白く、空へ溶けていく。


 ミーナは丘の上まで歩いた。


 そこから見える景色が好きだった。


 村全体が見渡せる。


 遠くの森も。


 川も。


 雪に覆われた屋根も。


 全部が静かだった。


 風が吹く。


 頬が少し冷たい。


 ミーナは空を見上げた。


 冬の空は高い。


 澄み切った青がどこまでも続いている。


「もうすぐだね」


 誰に言うでもなく呟く。


 返事はない。


 けれど不思議と心が温かかった。


 遠く離れた王都でも、今頃同じ空を見ているだろうか。


 そんなことを考える。


 手紙を書き始める前なら、こんな風に思わなかったかもしれない。


 けれど今は違う。


 会えなくても、繋がっている気がする。


 それは少し不思議で、少し嬉しいことだった。


 雪の丘の上で、ミーナはしばらく風の音に耳を傾けていた。


 冬休みまで、あと少し。


 再会の日は静かに近付いていた。


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