第17話 おかえり
冬休みに入った朝。
フィオラの空には薄い雲が広がっていた。
昨夜降った雪が村を白く染めている。
ミーナはいつもより少し早く目を覚ました。
暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
窓の外を見る。
道の上には新しい足跡がまだない。
静かな朝だった。
けれど心だけは落ち着かない。
今日はカイロスが来る日だった。
朝食の席でも、何度か窓の外を見てしまう。
「まだ来ないわよ」
レイラが笑う。
ミーナは少し恥ずかしくなった。
「別に待ってないよ」
「そう?」
全く信じていない顔だった。
エリアスも穏やかに笑っている。
結局、ミーナは返事をせずにパンを口へ運んだ。
昼が近付く頃になると、雪はやみ、雲の切れ間から光が差し始めた。
村の入口へ続く道も明るく照らされている。
ミーナは家の前で雪かきを手伝っていた。
雪をどかしながら、何度も道の向こうを見てしまう。
その時だった。
遠くから馬車の音が聞こえた。
ごとごとと雪道を進む音。
ミーナは思わず顔を上げる。
村へ向かってくる馬車が見えた。
胸がどきりと鳴る。
「来たみたいだな」
エリアスも気付いたらしい。
ミーナは雪かき用のスコップを置く。
馬車はゆっくりと近付いてくる。
やがて家の前で止まった。
扉が開く。
先に降りてきたのはハーラルドだった。
相変わらず黒いローブ姿で、冬の寒さなど気にもしていないように見える。
「お久しぶりです」
ミーナが頭を下げる。
ハーラルドは小さく頷いた。
「ああ」
短い返事だった。
だが以前より少しだけ柔らかく聞こえた。
そして。
もう一人の姿が見える。
黒髪の少年。
雪の光の中へ降り立ったカイロスは、夏より少し背が伸びていた。
肩も少しだけ大人びて見える。
一瞬だけ言葉が出なかった。
カイロスもこちらを見ている。
しばらく視線が合った。
先に口を開いたのはミーナだった。
「おかえり」
自然に出た言葉だった。
カイロスは少し驚いたような顔をする。
だが次の瞬間、ほんのわずかに口元が緩んだ。
「ああ」
短い返事。
それだけだった。
けれどミーナはなぜだか嬉しくなる。
夏の終わりに別れた時よりも、その声が近く感じた。
「雪、すごいね」
ミーナが言う。
「ああ」
「王都も積もった?」
「少しだけ」
そんな何気ない会話を交わす。
手紙では何度も話していたはずなのに、不思議と少し照れくさい。
するとレイラが玄関から顔を出した。
「二人とも寒いでしょう。まずは中へ入りなさい」
その言葉で皆が動き出す。
荷物を運び、家へ入る。
暖炉の熱が身体を包んだ。
「暖かいな」
カイロスがぽつりと呟く。
ミーナは思わず笑った。
「でしょ?」
それを見たエリアスとレイラも微笑む。
夏の終わり以来の再会。
けれど不思議だった。
久しぶりな気がしない。
手紙を送り合っていたからだろうか。
それとも。
ここがもう、カイロスにとって帰ってくる場所になり始めているからだろうか。
窓の外では雪が静かに降り続いていた。
フィオラの冬が、二人を優しく迎えていた。




