21 リーアンの疑問
翌朝スッキリ目覚めたフィオナが横を見ると、既にアレックスの姿はなかった。
身支度のためにリーアンを呼ぶと、アレックスは既に仕事へ行ったという。急な仕事でもあったのだろうか。フィオナに予定を言わずに出かけることはまずないので、おかしいなとは思ったが、その代わり今日は早目に帰るという。
気を取り直して朝食を取りに行く。
心なしか、リーアンは何だか悔しそうな顔だった。
調子が悪いのかと、心配して聞くと
「いえ、これは私の意地の問題です」
と、よくわからない返事をされた。
つわりも収まって体調の良いフィオナは午前中に出かけることにした。お腹も目立って来ており、出かける度にリーアンにはとても心配されるのだが、家でじっとしているのは気が滅入る。
アレックスが美味しいと言ってくれたお茶の葉を買いに行くと言うと
「そのようなこと、私がいたしますのに。」
フィオナが命のリーアンはため息をつきながらも一緒について来てくれる。フィオナは質素倹約の精神と共に大人になったため、アレックスと結婚してからは何でも好きに買っていいと言われても、お茶や日用品、最低限の身の回りの品を少しずつ買うくらいで、貴族らしい買い物はやり方もよくわからなかった。
時々お茶の葉や刺繍の糸を買いに、近くの商店へ出かける以外はほとんど物を自身で買い求めることはない。
けれど今日は、特別に、アレックスへの贈り物を買うつもりだった。
昨年の春に出会った二人だが、来週は初めてアレックスの誕生日を迎えるのだ。今まで贈り物らしいものをしたことがなかったフィオナは、何を贈ろうかと悩んでいる。
「騎士の方って、どんなものを贈られると嬉しいのかしら。」
「そうですね。私には何とも。」
「身につけるものが良いかしら、普段に使える小物が良いかしら。」
「奥様からの贈り物でしたらどちらでも喜ばれますよ。」
リーアンは気のない返事ばかりだが、フィオナは気にならない。こうしてアレックスのために使う時間が幸せだった。
街へ着く頃に、剣術の訓練用の手袋が傷んでいることを思い出したので、新しい手袋に家紋とイニシャルを刺繍して贈ることにした。
どの色にしようかと悩むフィオナを微笑ましく見守りながら、リーアンは考えを巡らせる。
医師のマクシム様の先日の診察で、「普通の生活をしたら大丈夫だよ。」と言われて、奥様はキョトンとされていた。あれは夜の夫婦生活をしても支障がないことを意味していたはずだが、奥様は絶対に理解されておられなかった。
マクシム様も何となく察して、アレックス様に手紙を託されたようだが、昨日確かに手紙を読んだ旦那様は、「何もせずに」一晩過ごされたようだ。
リーアンの渾身のお手入れで毎日最高の状態にフィオナを仕上げているつもりだが、旦那様はまだ我慢を続けるおつもりかしら。
リーアンは不思議だった。
結局アレックスへの贈り物を買った後、お茶の葉を買い、使用人へお土産だと言って人気の菓子店に寄ると、フィオナは屋敷へ帰ることにした。
「奥様の物も何か買われてはいかがですか?」
というリーアンの勧めにも、フィオナは笑顔で軽く首を振るだけだ。
しかも「リーアンの弟さんと妹さん達に」と雑貨店で求めた文房具を手渡される。
リーアンには兄弟姉妹が多く、年の差もあって今は皆学校へ通っている。何かと必要な物も多いのだが、一緒に暮らしていないため、気を回せないことも多かった。フィオナは機会のある度にリーアンの兄弟姉妹へちょっとしたものを届けていた。エリオットの教育にとても苦労したのが忘れられないのだ。教科書一つ買うのも苦労したことを思い出しては、リーアンを始めとする使用人の家族へあれこれ買い求めるのだ。
「私の家族にまで、、、申し訳ありません。」
「お姉さんのリーアンを、私がいつも独り占めしているのだもの。エリオットに手が掛からなくなって私も寂しいの。弟さん達に今度お会いしたいわ。」
「奥様、、、。」
リーアンだけでなく、フィオナは屋敷の全ての使用人とその家族にも何かと気を遣っている。自身がお金に苦労して育っているので、放っておけないのだとか。
そんな奥様を屋敷の使用人はとても大切にしていた。
結婚して旦那様に連れて来られた奥様は痩せ細って今にも折れそうだった。優しい奥様にどうにかお元気になって頂こうと、使用人一同、総力を上げてお世話をしたのである。
今は健康的で天使のように優しく、美しい奥様が皆の誇りである。




