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20 手紙

馬車の音が聞こえる。アレックスが帰って来た。

フィオナはいそいそと玄関へ出て出迎える。

「フィオナ、帰ったよ。走ったらダメだと言っただろう。」

アレックスが駆け寄るフィオナを受け止める。


「お帰りなさい、アレックス。」

注意をされても、もうアレックスの愛情を疑わないフィオナは笑顔のままだ。

「走ってないわ、これくらい平気よ。」

「口ごたえする悪い口は塞いでしまおう。」

帰宅の挨拶替わりに濃厚な口付けをする。


「もう!リーアンが見てるのに。」

真っ赤な顔になったフィオナをアレックスは嬉しそうに引き寄せ、そのまま着替えのために部屋へ一緒に上がる。

リーアンは顔色ひとつ変えず晩餐の支度を確認しに行った。


二人でゆっくり階段を上がる。

アレックスの着替えを手伝いながら、フィオナは今日あったことを報告するのだ。これも日課になりつつある。


「今日はご機嫌だね。いいことがあった?」

「今日はね、エリン様が来てくださったの。素敵なお知らせよ。お腹に赤ちゃんがいるのですって!」

「それは驚いた。 そうか、、、良かったな、マクシムは。」

アレックスはしみじみと噛み締めるように呟く。


「エリン様のために馬車の椅子を全て張り替えたそうよ。マクシム様、とても心配なのね。エリン様もとても大事にされて、、、アレックス?」

突然アレックスがフィオナを抱きしめた。

「フィオナ、本当にすまない。君の妊娠の話を聞いた時の俺は最低だった。世界で一番大切にしなければいけなかったのに、俺は!」

以前のことを思い出すと、いつもこうしてアレックスはフィオナに謝り続けてしまう。もういいから前に進みましょう、と何度もいうのに。

「アレックス。もうそのことはお終いにしましょう。こうして一緒にいられる時間がもったいないわ。、、、そうそう。お手紙を預かっていたの。」

「手紙を?」

「マクシム様からよ」


珍しいな、と言いつつ封を切る。

手紙は短い内容だったようだ。便箋1枚に書かれた内容を見てアレックスが凍りつく。瞬きもせず何度も読み返している。

「どうしたの。良くないこと?」

「いや、全然!」

返事が早すぎる。

続きを待つが、アレックスは手紙を折りたたむと胸ポケットに仕舞い込んでしまった。フィオナへの謝罪から気を逸らすことには成功したようだ。

「食事ができたんじゃないかな。冷めるから行こう。」

個人宛の手紙の内容を聞き出すのもマナー違反かと思い、そのまま忘れてしまう。


食事中、アレックスは心ここにあらずの様子だった。以前なら浮気や心変わりを疑ったかもしれないが、そうではない、ような気がする。

フィオナがふと目を上げるとアレックスがいやに真剣に見つめているのだ。

具合が悪いのか聞くと

「いや、全然。、、、、君は?」

と聞き返されてしまう。体調不良でないなら、ひとまず良しとしましょうか、とばかりに、フィオナは好物のメニューを楽しむことにした。


食後にリーアンに湯浴みを手伝ってもらい、丁寧に髪を拭いてもらった。

「ありがとう、リーアン。おやすみなさい。」

使用人に御礼は不要です、と最初は何回か言われたが、家の中では言わせてね、ということで話はついている。リーアンの気の回し方はとうに只の使用人の枠を出ており、フィオナにとっては家族と同じようにいなくてはならない存在だ。

「今日は少し髪をお纏めしましょうか。」

リーアンがフィオナの髪を緩めの三つ編みにしてくれた。

「明日の朝、キレイにカーブが出ますからね。・・・・まあ、何もされなければ、ですけど。」

後半が良く聞こえなかった。

「なんて言ったの? リーアン。」

「独り言でございます。おやすみなさいませ。」

リーアンが綺麗な礼をして出ていった。


変なリーアン、と首を傾げながらフィオナは扉でつながっている主寝室へ行く。アレックスは既に湯浴みを済ませたようで、ベッドに腰掛けていた。

「髪が濡れてるわ。」フィオナは浴室からタオルを持って来てアレックスの髪を拭き始める。

「フィオナ。その、、、聞きたいことが。」

「何?」

髪を拭く手を止めてアレックスの顔を覗き込む。今日のフィオナは緩い三つ編みでふわふわの髪がさりげなく纏められており、着ている夜着は若干薄めで体の線が良くわかるタイプだった。

アレックスは「うっ」と息を呑んだ。

「きょ、今日はどうしてこれを着てるんだ? 体を冷やすだろう。」


「これね、リーアンが今日はこれしかないって言うの。飲み物を溢してしまったとかで。今日はだいぶ暖かかったから、そろそろ春ものでもいいわよね。」

「そうか、、、、」

アレックスは両手で顔を覆ってしまう。

「どうしたの、アレックス。やっぱり具合が、、、」

「大丈夫だ。もう寝よう」

アレックスは無表情になってさっと灯りを消すと、向こうを向いてベッドに横になってしまった。

何だか怒っているみたい。何か気に障るようなことをしたかしら。

考え続けて、そのまま眠ってしまった。


対してアレックスは。

スヤスヤ眠るフィオナの顔を見て、「勘弁してくれ、、、、」と呟いた。



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