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19 幸せな暮らし

寝込んだフィオナのところへ、マクシム医師が訪ねて来た。


「やあ、僕の患者さんは、今日はどうしたのかな。」

フィオナが寝込んで三日目だった。

「エリンも会いたがっていたよ。時々会いに来てやってくれるといいんだけど。」

「マクシム様。ご迷惑を、、、、。」

「いいから、いいから。夜は眠れてる?」

「あまり、、、」

「そうかぁ。後で睡眠にいいハーブティーを届けさせるよ。妊婦さんでも安心して飲めるからね。他に心配ごとは?」

「、、、、特には、ありません。」

「本当に?」

マクシムは重ねて問う。優しい眼差しにフィオナの固い気持ちが崩れていく。


「私は、アレックスの妻でいてはいけないと思うのです。」

「どうしてそう思うようになったんだい?誰かに何か言われた?」

「元々、私は資産もない男爵家の娘です。お医者様や優秀な騎士を輩出する伯爵家の方とは釣り合わないと、、、、」

「うちの家族も、アレックスもそんなことは気にしていないよ?」

「皆さん、お優しいので、そんなことは思われないのでしょう。一般の貴族の方は違うと思います。」

「一般の貴族ねぇ、、。」

マクシムは首を傾げる。


「アレックスは私でなくても、もっと綺麗な、裕福な相応しい方と一緒になれたはずなのです。私が、私に、子供がいるから、それでアレックスは結婚までしてくれたのです。きっと今は後悔を、、、。」

最後は涙で言えなかった。

マクシムはそっとハンカチを差し出してフィオナへ声をかけた。

「詳しく聞いてすまなかったね。泣かせるつもりはなかったんだけど、理由が聞けて良かったよ。君たち、きちんと話しをした方がいいってことがよくわかった。」


そう言いながらガチャっとドアを開けると、アレックスが倒れ込んで来る。

「アレックス! 今の、話を、、、、」

アレックスはフィオナのそばへ駆け寄って両手を取る。

「聞いてた。フィオナ!どうしてそんな風に思ったんだ。不安にさせてすまない。俺は君を愛してる。疑ったりしないでくれ。」

フィオナは戸惑った様子で途切れがちに言う。

「でも、、、ここで暮らすようになってから、、、その、、、私に触れるのが、嫌そうに見えたし、」

「そんなことはない! 触れると、フィオナを前にすると、すぐに押し倒したくなるから、長く触れないようにはしていた。

体調の悪い君に無理をさせたらいけないと、それだけだ。我慢できないから部屋も分けた。」

たちまちフィオナは真っ赤になる。

「それは!そうだったの、、、、?」


「この際だから、思い切り打ち明けてごらん。」

マクシムがフィオナを促す。

愛していると、久しぶりに言われてフィオナも少し勇気が出る。

「セシリーの、婚約式に行ったでしょう?」

「ああ、仕事で一緒に行けなくて悪かった。そのことが?」

「違うの。すごく素敵な婚約式で、結婚式も1年後にするって聞いて、その、私にはできないと思ったら、悲しくて、、、」

「できない?どうして?」

「だって、私はこんなだし、もう、、、。」

「フィオナ。俺のせいでこんなにやつれた君に無理させるわけないだろう。結婚式は、子供が産まれて、君が元気になったらとびきり立派なやつを挙げよう。そうしないと俺は君の父上に刺されるよ。娘の晴れ姿を見せないと息子として認めないって言われてるんだから。」

「そうなの、知らなかったわ、、、、」


「その調子で話し合ってごらん。僕はお邪魔だからもう帰るよ。フィオナ、心配事はアレックスに全部言うんだよ。アレックスももうちょっと自制して、フィオナを甘やかしてあげて。」

じゃあ、と言ってマクシムは帰った。

残された二人は手を握りあったまま顔を赤くしている。


「結婚式のことをずっと気にしていたのか?」

アレックスがフィオナの肩を抱き寄せて優しく問いかける。

「そう、、、そうじゃないわ。それだけでなくて、、、。」

フィオナも想いが溢れて言葉にならない。

「思っていることは言ってほしい。フィオナ、お願いだ。」

アレックスの真剣な目を見ていると、何でも言っていいような気がして来た。

「結婚したのに、お部屋が別でしょう?寝る前に色々おしゃべりしたいの。同じ部屋で休みたいわ。」

「うっ。そうか。それは、もちろん。そうしよう、か」

それだと俺は休めないんだよ。

アレックスがフィオナとしたいのはおしゃべりではない。あの夢のような収穫祭の夜のことは、何度も思い返した。本物のフィオナが横にいたのでは、自分を抑えて「ただ休む」ことなどできるだろうか。

それでも、久しぶりに見るフィオナのキラキラした「お願い」の目にアレックスはただ頷くしかなかった。


「それとね、お休みの日に子供の部屋の模様替えをしたいの。一緒に考えてほしいわ。」

「そんなのはお安い御用だ。今日今から考えよう。」

「嬉しい!」

こんな笑顔が見れるならいくらでも模様替えをしてやる。

「リーアンを呼んでここで一緒に昼食を取ろう。今日はフィオナに捧げるよ。何でも言ってくれ」


呼ばれたリーアンは、張り切って用事を片付けた。

気持ちのすれ違っているように見えた主人夫婦が、すっかり打ち解けているのを見て安心する。今日から寝室を一緒に使うと聞いて胸を撫で下ろした。


アレックスは鉄の意志でそれから1か月、フィオナと「ただ休む」生活を耐え抜いた。

何でも言ってほしい、と言われたフィオナは安心して何でもお願いしてくる。そうは言っても、「腕枕をしてほしい」「おやすみのキスをしてほしい」「朝は一緒に食べたい」など、非常に可愛らしいものではあったが。基本的に距離を詰めてくるお願いが多く、アレックスも心を鬼にして適切な距離を保ったのだ。


フィオナが妊娠5ヶ月目に入る冬の終わりの暖かい日のこと。

エリンが訪ねて来た。

エリンとフィオナはすっかり仲良くなり、週に一度はこうして訪ねて来てくれる。マクシムお勧めのハーブティーを持参して。

「ようこそ、エリン様。」

「ふふ、また来てしまったわ。フィオナ様、お元気そうで何よりです。」


二人は楽しそうに居間へ入る。

「フィオナ様! もう我慢できないわ。あのね、私も妊娠したの!」

「まあ!本当ですの? 何て嬉しい知らせかしら。」

「もう嬉しくて。マクシムも飛び上がって喜んだのよ。」

エリンとマクシムは結婚は早かったものの、なかなか子宝に恵まれずに悩んでいたのだ。

「体はお辛くないのですか?」

悪阻に苦しんだフィオナが心配そうに言う。

「今はそれほどでも。マクシムが私の分も心配してるから大丈夫よ。今日の馬車も私のために椅子のクッションを全部張り替えたのよ?」

エリンが目をぐるっと回して言う。

「お出かけされてもいいのですか?」

「フィオナ様にどうしても自分で言いたいから、今日は特別に許してもらったの。ゆっくりさせてね!」

エリンがコロコロと鈴のように笑うと、フィオナも釣られて微笑んだ。


「そうだわ。私ったら大切なことを忘れていましたわ。」

ひとしきり話をして、そろそろマクシムが心配するから帰ると言った後、エリンが1通の手紙を差し出した。

「アレックス様へお渡しくださいね。悪い話ではないそうですけど、内容は教えてくれなかったの。」

「マクシム様からですか。」


名残惜しそうにエリンは帰ってしまった。

楽しい時間にリラックスしたフィオナは、アレックスが帰ってくるまで、とクラヴァットへ刺繍を始める。黒い生地におとなしい銀糸でミューラー家の紋章を刺繍している。他の騎士が奥様や恋人から贈られたものを身につけているのを、それとなく話してくれたのだ。

自分にもほしい、とはっきり言われたわけではないが、アレックスのためなら喜んで作りたい。

リーアンも幸せそうなフィオナを見て喜んでくれているようだ。


すっかり食欲が戻ったフィオナは健康的な体重に戻り、リーアンの努力の成果もあり肌艶も髪の艶も良い。少し膨らみ始めたお腹が自然に隠れるドレスは、アレックスが是非にもと言って作らせたものが何着もある。

絶対にフィオナの体へ負担がかからないようにと特別にデザインされたものだ。髪結の得意なリーアンが、長いフィオナの髪を今日は頭頂部から緩く編み込みをして右に流れるように1本にまとめてくれている。

フィオナの髪はふわふわした栗色で、自然なウェーブを生かした髪型をアレックスが殊の外好んでいることを、リーアンはよく知っている。今日もうちの奥様は最高だわ。


敬愛する奥様を完璧に仕上げて旦那様をヤキモキさせるのがリーアンの生き甲斐であった。

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