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18 言えない気持ち

アレックスは悩んでいた。

帰り道を急ぎながら、思い浮かべるのは最愛の妻、フィオナのことだ。

誤解(主に自分の勘違い)が解けて、無事に結婚したところまでは良かった。交際を始めた頃のフィオナは目がキラキラと輝いていて、何でも思ったことを話してくれていたものだった。

騎士団の仕事や家族の話を聞きたがり、アレックスのことなら全て知りたいと言ってくれた。

その分アレックスもフィオナのことを知ろうとしたし、家族を大事にしていることを知って益々フィオナのことが好きになったのだ。


結婚して一緒に暮らし始めたすぐ後も、フィオナはとても嬉しそうに家のことをあれこれ尋ねて来た。

それがいつからだったのか。

最近のフィオナはもの静か、と言うよりは覇気がないのだ。

また体調が優れないのかと思い、あれこれと食べやすいものを考えたが、一向に元気にならない。

痩せた体はなかなか戻っていない。結婚前には少し増えた体重も、最近はまた増えていないようだ。

リーアンがついているので心配はないかもしれないが、アレックスは以前のよく喋るフィオナが懐かしかった。

何か悩んでいるのか聞いても「何もない」と言われてしまう。

こんなに愛しいと思っているのが伝わっていないようでもどかしい毎日だ。


「お帰りなさい、アレックス。」

フィオナはいつもこうして出迎えてくれる。無理をしなくていいと言うのだが、できるだけ出迎えたいと言うので体を心配しながらも玄関でそっと触れるだけのキスをする。

「今帰った。今日はどうだった?食事はできたのか?」

いつもの質問をする。フィオナはぐっと怯んだように目を背けて、

「ええ、大丈夫。」

と答える。これもいつもの答えだった。視線の先でリーアンが首を振っている。今日もあまり食べていないのか。思わず険しい顔になる。


「フィオナ。一人の体じゃないんだ。兄さんも食べるように言っただろう。」

アレックスの兄のマクシムは医師で、フィオナを心配してよく家に寄ってくれるのだ。

「ええ、そうね。・・・ごめんなさい。わかってるの。」

フィオナの視線は下を向いたままだ。

違う、謝ってほしいんじゃない。心配なんだ。

「着替えて来る。食事にしよう。」

この会話を終わらせたくて部屋へ行く。どうしたら笑顔で会話ができるのか。もどかしい気持ちで急いで着替えに行くアレックスの背中で、フィオナが泣きそうになっているのには気が付かなかった。


気持ちを切り替えて食事の席に着く。

「今日は殿下の婚約式に立ち会ったんだ。ドロテア嬢は良い妃殿下になるだろうね。お二人ともとても堂々とされていたよ。立派な式になって良かった。」

「そう、、、、。素晴らしかったでしょうね。お似合いのお二人ですもの。」

「今日のお二人の姿絵が高位の貴族に配られるそうだよ。いつまでも語り継がれることだろう。」

「そう、、、そうでしょうね。」

フィオナはだんだん視線を落とし、とうとう手が止まってしまった。


「フィオナ、食べないのか? これは好物のスープじゃなかったか。リーアン、何か違うものを出すように厨房へ、、、」

「いいの、いいのよ。大丈夫。好きなものばかりよ、リーアンいつもありがとう。」

フィオナを思って言うが、止められてしまう。また空回りだ。


その後も会話は弾むことはなく、フィオナは早めに部屋へ戻ってしまった。以前は食後も二人でゆっくり過ごしたものだったが、今はこうして食卓でおやすみの挨拶を済ませてしまうことの方が多い。

アレックスは思わず髪を掻きむしった。


*********


フィオナは部屋で沈んでいた。

夫に笑顔の一つも見せられない、こんな自分は妻として相応しくない。そもそも身分も違うのだ。最近囚われている想いにどっぷりと浸り始める。


セシリーの婚約式に出たのが始まりだった。

大親友に是非にと招待されて、完全でない体調を押して参加したのだが、式の途中で吐き気に襲われて、こっそりと席を外したところ、自分の噂が聞こえたのだ。

「ほら、、。ミューラー伯爵の、、、」

「ああ、貧乏で有名な男爵家の方よね?」

自分のことだ。気がついて思わず身を隠す。


「噂ではもうお腹に子がいるのですって。」

「まあ、、、なんて、、、。でも上手くやったわよね?玉の輿だもの!」

「それもそうね、でもアレックス様もお気の毒。騎士団で、次は団長に昇進されるのよ?

お相手などいくらでも選べたでしょうに。」

「そうね。私今からでも、お近づきになろうかしら?

だって婚約式も、結婚式もされてないのでしょう?家での扱いが知れるわよ。子が産まれたら離縁されるのではなくて?」


ショックで頭が白くなる。

確かに急な結婚ではあった。アレックスは結婚式の話をしたことがない。男爵家と伯爵家という身分の差もあり、父からも言い出しにくかったようだ。フィオナはそれでもいいと、思っていたのだ。

二人で一緒にいられるなら式など挙げずとも、そう思っていた。

セシリーの幸せそうな姿をみて、何も思わないわけではなかったが、アレックスと愛し合っていれば十分だった。


帰宅してから意地悪な会話がフィオナの心を蝕みだす。

アレックスはいくらでも選べたのに。

結婚式をしないのは離縁をするつもりだから?

急いで帰ったことを心配してセシリーが後日訪ねて来てくれた。セシリーの婚約者のケビンはそつの無い紳士だ。1年後に豪華な結婚式を予定している。私と違って。


考えは悪い方へ転がり続ける。

最近アレックスはフィオナに触れようとしないのだ。

軽いキスだけ、それも出かける時と帰る時の2回だけ。

玄関での出迎えも「しなくていい」とも言われた。フィオナがどうしても、と言って無理を押したようだったが、アレックスは迷惑だったのかもしれない。


やたらに食事の量を聞かれる。お腹の子供のことは心配なのだろう。男の子なら自分のような騎士になるだろうか、と楽しみにしているようだった。

子供が欲しいのは確かなようだ。


殿下の婚約式の話もフィオナには堪えた。自分は何なのだろう。妊娠して、誰にも披露する価値はないのだから。

子供が産まれたら、私は用済み?

これ以上惨めな気分には耐えられない。


翌日から、フィオナはベッドから起き上がれなくなった。


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