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17 二人の暮らし

フィオナは年末まで実家で過ごした。

アレックスも迷惑そうな男爵の態度をものともせず、フィオナと一緒に居座っていた。

年が明けると二人はミューラー家へ出向いて結婚の許可をもらった。


アレックスの両親はフィオナのことをたいそう気に入ったようで、二人の経緯を聞くと「息子が申し訳ないことをした」と平身低頭、謝罪をしたのだった。

お腹に子供がいることも手放しで喜んでくれており、援助は惜しまないと約束してくれた。

子供の大好きなミューラー夫人は、本当はまだまだ子供を産みたかったのだとか。アレックスも「弟がほしい」と言ったことがあるようで、熱病のせいで子供が産めなくなったのをひどく残念に思っていたそうだ。

「これからは何でも相談してほしい」とも言われ、頼りになる両親ができたとフィオナは喜んだ。


アレックスと相談を重ねた結果、フィオナは仕事を辞めてアレックスの住むミューラー家のタウンハウスで暮らすことになった。

結婚式はせず、役所へ届けて二人は正式に夫婦となる。


「奥様、お茶が入りました。休憩なさってください。」

アレックスの家に住むようになってから、フィオナに専属の侍女が付いた。必要ないと言ったのだが、「心配で仕事に行けないから、俺のために付けてほしい」と説得され、フィオナは断れなかった。


侍女のリーアンは二人の妹と二人の弟がいるしっかり者のお姉さんタイプで、フィオナにもダメなことはダメだとはっきり意見を言う。ミューラー伯爵家で侍女をしていたのを、伯爵夫人がぜひにと薦めてこちらで働いてもらうことになったのだ。


「リーアン、ありがとう。あなたも座って一緒に休みましょう。本家と違って人が少ないから、仕事が大変でしょう。」

フィオナはたいていこうしてリーアンもお茶にするように声をかける。一緒に休んでくれる確率は3回に1回といったところだが、仕事を辞めて家にいるフィオナは人との会話が恋しかった。


「使用人が奥様とお茶を飲むことなどあってはなりません。、、、、が、今日はお言葉に甘えて、少しだけ」

断り文句を言いかけるが、あまりにもフィオナが寂しそうに眉を下げるものだから、リーアンはつい絆された。

それでもフィオナの向かいに座ることはせず、フィオナの椅子の横のスツールに浅く腰掛けるだけにした。


「嬉しいわ、リーアン。ほら、美味しそうなお菓子ね。食べてみて。」

フィオナはリーアンに王都で人気の菓子店のビスケットを薦める。フィオナが朝はビスケットしか食べられないと聞いた主人が、王都中の菓子店であらゆるビスケットを買い求めて来るのだ。

リーアンはためらいながらもこの家の主人が愛する妻のためだけに買って来た菓子をひとつ手に取る。

フィオナはリーアンを嬉しそうに見て、自分は食べずに紅茶だけ一口飲んだ。


リーアンは穏やかで使用人にも優しいこの奥様を、すぐに慕うようになった。ミューラー家の元の主人夫婦もとても良くしてくれたが、フィオナはまるでリーアンが大切な姉でもあるかのように家族として思いやってくれるのだ。貴族の奥様が使用人に対する態度としては合格ではないのかもしれないが、この奥様が他人から責められることのないように守ることがリーアンの使命だと感じている。


その大切な奥様の元気がないことも、リーアンはよくわかっていた。お仕えする前のことはよく知らないが、時々やってくる奥様の元同僚とかいうセシリー様やフレッド様が言うには、奥様は元々明るい元気な方だったとか。職場ではたくさんの書類を魔法のように片付けてしまう才能もお持ちだったと聞く。


今の奥様は妊娠をされてから、旦那様とすれ違いが生じて、ひどくお痩せになってしまった。誤解は解けて奥様と旦那様はご結婚されたものの、今ひとつ以前の活気が戻っておられない様子。


ご友人のセシリー様などは心配そうに、お帰りになる時にはいつも「フィオナのこと、どうかよろしくね。」とおっしゃる程だ。


食事も細くていらっしゃるし。

今日は料理人に頼んで奥様のお好きなカボチャのスープを出してもらいましょう。

リーアンが考え事をしながらビスケットを食べ終わると、フィオナがふっとこちらを見た。

「リーアン、もう一ついかが? 残りは厨房へ持って行って、皆んなで分けたらいいわ。」

「いけません、奥様。せっかく旦那様が奥様のために持って帰られたものです。私たちが頂いてしまっては、旦那様ががっかりなさいます。」

「ん、、、そうかしら。残っている方がアレックスは気にするのよ。どうかこれは皆んなで食べてね? ほかにもたくさんあるんだもの。」

確かに。旦那様は奥様のためというと、タガが外れたように何でも買って来てしまう。奥様に食べさせるためにありとあらゆる食材を手に入れようとされており、本家のミューラー伯爵の伝手で異国の貿易商

と取引まで始めてしまった。

奥様がピンク色の「モモ」と呼ばれる果物がお好きだとわかると、瞬く間にその果物の流通経路を確保されてしまったのだ。


「刺繍ばかりしていたから午後は少し休むわね。リーアンも自由に過ごしてね?」

そう言われると奥様は自室に篭ってしまわれた。

こういう場合、フィオナは晩餐まで部屋から出て来ない。


リーアンはため息をつく。

奥様は男爵家のお産まれで、お母様を早くに亡くされたため、弟様とお父様の世話に明け暮れたのだとか。お家も裕福ではなく、最低限の使用人を雇うばかりでとても苦労されたらしい。

その上、弟のエリオット様の学費の工面のため、働きに出てご実家を支えて来られたところをうちの(朴念仁の)旦那様がお手をつけて!

あろうことか最初は認知もされなかったと聞く。

それだけでも許しがたい仕業である。


今はご結婚もされて、この上なく大切にされていると思うのだけど、奥様が今ひとつお元気を出されないのはどうしてかしら。

リーアンは考えごとをしながら、厨房へ奥様の好きなメニューの確認へ行った。


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