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22 最終話

アレックスは再び悩んでいた。

この1ヶ月、フィオナに請われて同じ寝室で休んでいたが、そろそろ限界だった。

使用人に慕われているフィオナは、悩みがなくなると、輝くばかりの美しさを取り戻した。毎晩手を触れずにいるのは苦行に等しい。

何か理由をつけてまた部屋を分けようと言おうかとも思ったが、フィオナがショックを受けるのでは、となかなか言い出せない。


アレックスは寮で倒れていたフィオナの姿を今でもはっきりと思い出せる。息があるとわかって腰が抜けそうに安心したのだ。

あんな風にフィオナを追い詰めたのは、全て自分が原因だ。

二度とフィオナの命を危険に晒す真似はしない、と固く自身に誓ったのだ。自分の勝手な欲望でフィオナを傷つけることは許されない。


そこにマクシムからの呑気な手紙だ

「フィオナは元気になったようだから、もう我慢しなくていいよ。」

それだけ?

本当に元気になったのなら、これほど嬉しいことはないが。

今フィオナを抱けば、めちゃくちゃにしてしまいそうで怖い。

それに何だ、最近のあの夜着は。リーアンがわざとやってるんだろうが、あれは明日こそ注意しないとな。


「お帰りなさい!アレックス。」

ああ、今日もフィオナが可愛い。

「今帰った。今日は奥様は何をしていたんだ?」

「ふふふ。今日は内緒なの。」

こう言う時は何かサプライズを隠してるんだよな。

「内緒?気になるな。」

「まだ言えないわ。我慢してね?」

フィオナは満面の笑みだ。

我慢なんて、いつもしてる。可愛いな、フィオナは。


アレックスは出そうになるため息を堪えてフィオナと着替えに行く。

「アレックス。今日は渡したいものがあるの。」

フィオナがそっと差し出すものを見ると、家紋の刺繍入りのクラヴァットだった。

「すごいな。これ君が?フィオナは刺繍も上手いんだな。ありがとう。大事に使うよ。」

フィオナが俺のために丁寧に刺繍をしてくれたのか。

「内緒ってこれのこと?」

「ふふふ、どうかしら。」

これはまだ何か隠してるな。まあいいか。

フィオナが幸せそうにしていると、それだけで満たされる。


「来週はエリオットの卒業式なの。」

「そうだったな。午前中だけでも時間を取って一緒に行こう。」

こんな綺麗なフィオナを男子学生だらけの学校に一人で行かせられるか。

「本当? エリオットも喜ぶわ。騎士団の方が来てくれるなんて、光栄だもの。」


********


卒業式の日は見事な快晴だった。

フィオナと二人で正装して保護者の席に参列する。この日のためにあつらえたドレスはフィオナによく似合っていた。天使のようなフィオナに見惚れる間抜けな学生が何人かいたが、鋭く睨んで追い払う。


「アレックス、目が悪いの? エリオットはあそこにいるわ。」

鋭い睨みでこちらを見る男を撃退していたらフィオナに勘違いされた。こういうところも可愛いんだけど。


卒業式の後はエリオットを家に招いて食事会をした。

義弟は優秀な成績を収めて来月から騎士団で働くことが決まっている。家族として鼻が高い。

「エリオット、あなたの好きなものばかりを用意したのよ。たくさん食べてね。」

お金に苦労して成長したこの姉弟は、普通の家族より絆が深い。

フィオナはエリオットに食べさせることが自分の使命だと思っているようだ。

「ありがとう、姉さん。卒業式にも参加をありがとう、、、義兄様」

お、今日は素直だな。

少しずつ、義弟は心を開いてくれている。


「お父様も来たかったでしょうね。風邪をひいてしまって、残念だわ。」

「この後家に帰るから、様子を見ておくよ、心配しないで。」

エリオットは仕事に就く前に実家で父の仕事を学ぶことにしている。賢い子だからすぐにコツを掴むだろう。

フィオナの心配事もなくなる。


アレックスはエリオットの卒業に喜ぶフィオナを見て微笑んだ。

「うちの馬車で帰るといい。準備させてある。」

「やった。ありがとうございます、義兄さん!」

ミューラー家の馬車は乗り心地抜群だ。エリオットも思わず歓声をあげる。

「姉さんも元気そうで良かった。僕は家のことをしっかり勉強してみるよ。来月には仕事も始まるし。こちらのことは心配しないで、体に気をつけてね。」

相変わらず優しい弟だ。フィオナも嬉しそうだ。

「エリオットも体を大切にね? 困ったことがあったらすぐに教えて。これからもずっと家族よ。」

やる気に満ちた弟は、目を輝かせて帰って行った。将来が楽しみだな。


********


「フィオナ。本当は一緒に帰りたかったんじゃないか?あまり遠出はしてほしくはないけど。」

二人だけの晩餐の席でフィオナに言うと、驚いたような返事が返ってきた。

「私はいつでも帰れるもの。またいつかね。・・今日は特別な日だもの。」

特別な日? 卒業式のことか。だったら、尚更家族と一緒に・・

考え事をしていると、フィオナがリーアンに目で合図をした。

食堂の戸が開いて料理長がケーキを持って入って来る。

「今日はアレックスのお誕生日でしょう。二人でお祝いしたかったの。」

自分の誕生日なんて忘れていた。ここで一人で暮らすようになってからはお祝いなどしていない。

「アレックス、結婚してくれてありがとう。いつも大切にしてくれて、とっても嬉しいの。」

フィオナが言いながらリボンのかかった包を渡して来る。

「これは。もらっていいのか?」

「そうよ。アレックスのために選んだの。」

感動のあまり包みごとフィオナを抱きしめる。


「フィオナ。ありがとう。俺は、家族を持てるなんて、思ってもいなかった。こうして最愛の君と、子供が持てるなんて夢のようだ。とても幸せだ。」

腕に力を込めると、フィオナも背中に手を回して抱き締めてくれる。

こんなにくっついたのは、、いつ以来だ? まずい。


「アレックス、愛してるわ。」

参った。降参だ。


その晩二人は本当の夫婦として愛を確かめ合ったのだった。

その日から遠慮のなくなったアレックスはさらにフィオナを溺愛した。

その年の夏にはフィオナが元気な男の子を産んだ。


エリオットは騎士団で会計の仕事をこなす傍らで、持前の頭脳で見事に実家を立て直し、義兄に倣って向かいの役所で見初めた令嬢と結婚した。


フィオナが子供を産んで1年後、アレックスは義父との約束通り、立派な結婚式を挙げた。二人の幸せそうな様子は、しばらく語られ続けたという。


おしまい。



最後は駆け足になってしまいましたが、これ以上書いても二人がイチャイチャするだけですので!

また気が向いたら後日譚書くかもしれません。

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