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15 婚約

エリオットは珍しく髪を振り乱している。

「姉さん!」

ベッドに座るフィオナとその横にいるアレックスを見た瞬間、エリオットは逆上した。


「お前! よくも姉さんを!」

握った拳を見て咄嗟にフィオナも叫ぶ。

「やめて!」

避けようと思えばできたはずだったろうに、アレックスはエリオットの渾身の一撃を甘んじて受けた。

大きな体が少し傾いだだけで、殴ったエリオットの方が痛そうにしているが、アレックスは神妙な顔をしている。

「エリオット! なんてことを! アレックス、大丈夫?」

「いや、これは当然の報いだ。大事な姉上に、俺は酷いことをしたのだから。」

「姉さんに触るな!」

エリオットはフィオナとアレックスの間に入ってフィオナを庇う。


「姉さんの手紙を見て、慌てて迎えに行ったら、部屋には誰もいなくて、心配したよ。管理人がここにいるって教えてくれたんだ。姉さんが運ばれてたって。一体どうなってるのさ。」

エリオットは私を探してくれたのだ。

「しかも、こいつは姉さんを傷つけて、責任も取ろうとしない。姉さんすぐに帰ろう。こんな所にいない方がいい」


そこへマクシムの声が割り込んだ。

「医者としては、あと1日泊まってほしいんだけどな。」

マクシムとエリンが扉の向こうから一部始終を見ていたようだ。

エリンを見て、フィオナは驚く。


「あなたは!、、、」

「この前、診療所ですれ違いましたでしょ? 覚えていてくださったの?」

エリンはにっこり微笑んだ。


「僕の大事な妻のエリンです。」

二人は仲良く肩を寄せ合っている。

「先生の奥様? アレックスのお義姉様、、、だったの?」

フィオナは混乱してきた。情報が多すぎる。目の前が霞んで来る。


「フィオナ、無理をしたらいけない。」エリオットの隙をついてアレックスがフィオナを支えた。


「落ち着いてしっかり話をした方がいいね。僕らは下にいるよ。フィオナは横になること。話は30分以内にね。暴力は禁止。医者の命令だよ。」


フィオナが横になって布団に入ったのを確認すると、マクシムとエリンは出て行った。


アレックスがこれまでの経緯を話し出す。

フィオナは黙って聞いていた。エリオットは終始「信じがたい」といった表情だったが、アレックスが嘘をついていないことはわかったようだ。

子供ができないと思い込んでいたなんて。


「アレックス。とても辛かったでしょうね。」

「フィオナ! なんて優しいことを。」

フィオナはほとんど許していたのだが、エリオットはどうも納得いかない様子だ。

「だからって、姉さんが辛い思いをして、一人で悩んでいたことは許し難いよ。やっぱり姉さん、家に帰ろう。父上も姉さんに会いたがっているよ。」

確かに。一度お父様へ報告をしないと。


「そうね。お父様へも説明を、、、、」

「了解した。俺も一緒に行こう。」

アレックスが言う。

「な! お前は来なくていいだろう。」

「いや、何と言われても一緒に行く。お父上に許して頂けるまで帰らない。」

そうしてしばらく「来なくていい」と「絶対行く」の応酬が続き、アレックスの頑固さにエリオットがほぼ負けかけた頃、マクシムが面会終了の宣言をした。

アレックスとエリオットは部屋を追い出されてしまう。


お昼過ぎに、フィオナがベッドから起き上がって簡単に昼食を済ませると、マクシムは満足そうに頷いた。

「これくらい食べられるなら、明日は帰してあげよう。ま、アレックスが絶対ついて行くだろうし、心配しなくていいよね?」

「素敵ね、とても愛されてるのね。」

エリンはすっかりフィオナの義理姉になったつもりで、あれこれと世話を焼いてくれる。使用人に頼んでフィオナをお風呂へ入れてくれたり、着替えの用意までしてくれた。正直なところ、ずっと同じ服を着て寝ているのが苦痛だったので、とてもありがたい。


フィオナはここでもう一日経過を見ることになり、エリオットはフィオナのために荷造りをしに寮へ戻ったらしい。

アレックスはどこかへ出かけていたようだが、フィオナとエリンが午後のお茶を飲んでいると再び部屋を訪ねて来た。


「あとはお二人で、ね?」

エリンはニコニコしながら席を外す。


アレックスは再び指輪を出して、フィオナに答えを迫る。


「フィオナ。お父上には全力で許可を得るつもりだが、例え反対されてもこの気持ちは変わらない。結婚するならフィオナしかいない。受け取ってほしい。」

夢に見たアレックスからの指輪だ。

フィオナはポロリと涙を溢す。

「アレックス。嬉しいわ。エリオットも二人で説得しましょう。」


「ああ、フィオナ。最高だ。」

二人はそっと口付けを交わす。




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