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14 再会

診察を終えたフィオナは、診療所にいた女性がアレックスの恋人だと勘違いをしたまま、呆然としていた。


私とのことは何だったの・・・?


体が本調子でないせいか、怒りの感情も湧いてこない。

力が抜けてベッドへ倒れ込む。

(あんなに綺麗な人がいるなら、もう本当に終わりね)

気が遠くなる前に思い浮かべたのは、収穫祭の日のアレックスの笑顔だった。


***********


アレックスはフィオナの寮へ急いでいた。

自分の勘違いから、フィオナへ言った言葉を今すぐにすべて撤回したい。今度あったらもう決して離さない、そんな気持ちを抱えて道を急ぐ。自身のタウンハウスから馬車を使ってフィオナの寮へ急ぐ。


寮へ着くと、まず面会の申し込みをする。

管理人から「時間外ですよ。」と文句を言われるが、

「緊急だ。」「明日まで待てない。」と熱心に説得し、最後には騎士団のバッジを見せて頼み込んだ。

渋々とアレックスを案内した管理人は、フィオナの部屋の戸を叩く。

「トールセンさん。いらっしゃいますか。」

何度か呼ぶが、返事はない。

「まだ早い時間ですけど、お休みになっているのでは、、、あ、ちょっと、あなた!」


アレックスが戸を開ける。鍵がかかっていない。

「開いてる。。。。?」

管理人が訝しそうに呟く。女子寮は施錠に関しては口うるさく注意されているはずだ。

アレックスが嫌な予感に襲われる。

「入るぞ、フィオナ!」


きちんと整理された室内はフィオナらしさが溢れていた。玄関に収穫祭でフィオナへ贈った花束がドライフラワーにして置いてある。

荒らされた様子はないことに少し安心する。

「フィオナ! いるのか?」


「ご実家に帰られたのでは?」

入るのを躊躇った管理人が玄関で言っている。

一瞬躊躇したが寝室と思われるドアを開けると、フィオナがいた。

ベッドにうつ伏せに倒れて、片方の腕はダラリと床まで垂れている。


何てことだ。フィオナ!


呼吸を忘れて駆け寄る。

「フィオナ、 フィオナ?、、、」

口元に手を寄せると、息はある。全身の力が抜ける。

そっと抱き起こすと、記憶にあったよりずっと痩せた頬にショックを受ける。抱き上げても目を覚さない様子に、再び増してくる不安を呑み込んで、アレックスはフィオナを連れて寮を出た。


乗って来た馬車で兄のマクシムの家に向かう。

顔色の悪いフィオナの呼吸が止まるのではないかと気が気でない。

「マクシム!フィオナを診てほしい」

突然やって来たアレックスにマクシムは驚きつつも、フィオナを診てほしいと言われてすぐに医師の顔になる。


「栄養不良と、脱水と、、、、おそらく睡眠不足だね。今は寝ているだけだから、起きるまでそっとしてあげよう。」

診察を終えたマクシムは、獣のように部屋の前でウロウロするアレックスを宥めるように言った。

「悪阻がひどいからって、何度も無料の枠に並んで来ていたよ。どんどん悪くなるようで心配していたんだけど、弟さんと家に帰るって言うから、、、、。やっぱり入院させるべきだったね。」

後悔した様子のマクシムに、エリンがそっと寄り添う。


「アレックス様の大切な方だと分かったのが今日でしたの。すぐにお知らせしたかったのですけど、マクシムは先ほどまで診察が終わらなくて。明日、アレックス様に会いに伺う予定でしたのよ?」


「俺が全部悪いんだ・・・。」

アレックスはそれ以上言葉が出て来なかった。


***********


フィオナは夢を見ていた。

収穫祭でアレックスに好きだと言われた時だ。私のことが一番大切だという眼をしていた。

「フィオナ、一生大切にするよ。」

初めて二人で迎えた朝、真剣にそう言ってくれたのに。

会えなくなってから何度も夢に見た光景だ。

続きもよく知っている。

この夢はこの後急速に悪夢へと変わっていく。


「父親は誰だ。」

「俺の子じゃない。」

「フィオナ、裏切ったのか。」

怖い顔のアレックスが何人も出て来てフィオナを責める。


「違う。違うの。嘘じゃ、ない、、、、、!」

「・・・ナ! フィオナ!」


腕を掴まれたようで目が覚める。

アレックスがフィオナに覆い被さって顔を覗き込んでいる。

夢の続きかと思って全身が強張る。

フィオナの目に恐怖が見え、アレックスは慌てて手を離した。

「うなされてたから、すまない、、、、。」


知らない部屋で混乱する。

「あ、、ここは、、、?」

声も掠れている。

アレックスがコップの水を差し出しながらフィオナの体を支えた。

「兄の家だ。医師をしている。家で倒れていたから、ここへ運んだ。勝手をして悪かった。」

病院へ行って、部屋で横になったのは覚えている。

あれは昨日のこと? よくわからない。

アレックスに助けてもらいながら水を飲むと、レモン水だった。吐き気を感じずに飲み切ることができた。いくらか気分が良くなる。


アレックスは椅子に座ったまま突然頭を下げた

「フィオナ。本当に申し訳ない。子供ができたと言われてから、俺の言ったことは全て間違いだ。忘れてほしいとまでは言わない。どうか許してほしい。」

フィオナの目が点になる。これは夢の続きかしら。

「君と、子供を生涯かけて守らせてくれないか。頼む。いいと言ってくれ。」

急には理解ができない。フィオナが目をパチパチさせていると、マクシムがやって来た。


「そこまでだ。まずは彼女に食事をしてもらうよ。」

マクシムは自ら食事のトレーを運んで来た。

こうして並ぶと、兄弟の顔立ちも似ているのがよくわかる。アレックスは体格も大きく骨ばっているが、マクシムはどちらかと言うと細身だ。体つきは異なるが、目と口元がよく似ている。


「今朝の患者さんのご機嫌はいかがかな。」

楽しそうに近づいて来るマクシムに、フィオナは目を見張る。

「ミューラー先生、、、、お兄様だったのですね。」

「驚いたよね、全く。まさかアレックスの恋人が君だったとは。フィオナと呼んでもいい?」

「はい、もちろん。すみません。お世話になってしまって、、」


「アレックスもいろいろ言いたいことがあるだろうけど、とにかくフィオナは何か食べないと。今度こそ入院させるよ?」

ベッドサイドに食事の用意をされると、フィオナはそろそろと起き出した。服は昨日着ていたものだった。

このまま監視されながら食べないといけないのかしら。

少し躊躇うと、マクシムは気を利かせて部屋を出た。

アレックスは出ていくつもりはないようだ。

フカフカの白パンに野菜のスープのシンプルなメニューだが、どうも手をつける気になれない。一口でも食べたら、いつもの吐き気に襲われそうに思える。


しばらくたっても食べようとしないフィオナに痺れを切らしたアレックスが心配そうに言う。

「フィオナ、少しでも食べるんだ。君の体が持たないだろう。」

「そうね、、、、」

気のない目で食事を見ると、アレックスが突然近づいてフィオナを横抱きにする。

「な、な、何? どうして、」

慌てるフィオナを大切そうに抱えたまま、アレックスはスープを掬って口元へ運ぶ。

「食べるんだ、フィオナ。」

何を言っても譲らない目だ。アレックスの意思の固さはよく知っている。恐る恐る口に入れると、スープはとても優しい味だった。吐き気も起こらない。


少しずつ、口に運んでもらってとうとう全部飲み切ることができた。

「最後に食べたのはいつだ?」

「食事をしたのは、、、」

昨日、病院に行く前? 違う。昨日は食べていない。一昨日は何を食べたんだった?


しばらく考え込んだフィオナにアレックスはため息を吐く。

「フィオナ、お願いだ。君を一人にできないよ。俺の家に来てほしい。」

「え? そんな、訳には。」

大体、私たちの関係は何なのか。フィオナはアレックスを諦めなければ、とこの1ヶ月悲しみに耐えていたのだ。

「アレックス。無理をしないで。私、今日にもエリオットと帰ろうと思っていたの。ゆっくりして、気持ちの整理を、、、」

言いながら悲しみに襲われる。

「だめだ!」

アレックスは突然フィオナを抱きしめる。

「全て、俺の間違いだったんだ。フィオナの子供の父親は俺以外にありえない。」

アレックスはフィオナをベッドへ降ろすと、跪いて言う。

「フィオナ、婚約して欲しい。それでなるべく早く結婚しよう。もう君のいない生活は、、、無理だ。」

フィオナの膝にしがみつく勢いでアレックスが言い募る。

「本当にすまなかった。傷つけたことを一生かけて償わせてくれ。」

アレックスは懐から指輪を取り出して、フィオナの返事を待つ。


待って、待って。どうしてこうなってるの。

「待って。アレックス。ちゃんと説明して。」

「、、、、そうだよな、もちろんだ。」


アレックスが居住まいを正して、話そうとしたその時。

部屋の外が騒がしいと思ったら、エリオットが飛び込んで来た。






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