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12 マクシムとエリン

ケリー所長の命令で休みになったフィオナは、エリオットに手紙を出した。

この国は乗り合い馬車の御者に頼めば格安で手紙を届けてくれるのだ。エリオットの通う王立学院へはフィオナの職場の役所から日に2回の定期便があり、夕方に出した手紙は今日のうちにエリオットに届くはずである。


お休みがもらえたので、エリオットが迎えに来てくれたら一緒に帰りましょう― そう書いたのだが、あいにくエリオットは収入のいい家庭教師の職を1週間住み込みで受けており、手紙が読まれるのはずっと後になってしまう。


職場を後にしたフィオナは、再び気分の悪さに襲われていた。

明日はもう1回診療所へ行こうかしら。何もかも一人で考えることにも疲れて来た。


診察に来る妊婦の中には、夫と二人で来ている者もいる。仲睦まじそうに寄り添って診察を待つ夫婦は、フィオナには絶対に手に入らない幸せを振り撒いているようで見ているのが辛かった。


翌朝、フィオナはひどい悪阻をレモン水で誤魔化しながら診察の順番を待った。週末でなかったせいか、いつもより早く呼んでもらえる。

前回と同じミューラー医師だった。


「トールセンさん、どうされまし、、、、、、これは。」

前回よりはるかに憔悴して見えるフィオナに、医師は言葉を詰まらせた。

「あまり食事ができていないのではないですか?貧血の数字も悪くなっていますね。」

「吐き気が続いて、、、、。いつ頃楽になるでしょうか。」

診察室の臭いにも反応してしまうフィオナはハンカチで口元を押さえながらやっと言葉を吐き出した。

「人にもよりますが、20週を超えれば楽になる方も多いです。必ずそうとは限りませんが。」

医師は下手な気休めは言わない。

「トールセンさんは今15週ですか。んー、入院しますか?栄養剤の注射ができますし、、、、、お一人暮らしなのでしょう?」

ミューラー医師はやや言いにくそうに言葉を重ねる。

「このままお帰り頂くのは心配ですね。」


「大丈夫です。明日には、、、弟が来てくれるので。一緒に実家で年末を過ごすつもりです。」

「そうですか!それなら安心ですね。」

人の良さそうな医師は見るからに安心した様子で、フィオナも入院せずに済みそうでホッとした。


とにかく食べられるものを食べなさいと、何度も念を押されて診察室を後にする。戸を閉めると、次の順番を待っている女性が目に入る。はっと気がついた。

(この人は!)


アレックスと腕を組んで歩いていた女性だった。色白の目の覚めるような美人だ。今日も上品なドレスに色を合わせた帽子を被っている。

自分がひどくみすぼらしいような気になり、フィオナはそそくさと医院を後にした。


あの女性、ここにいるってことは、、、、。

妊娠しているのかしら。

それなら、相手は、、、きっと、、、、。


フィオナはどうやって帰ったのか記憶がない。

気がついたら部屋に座り込んでいた。

涙も出ない。

頭が思考を止めてしまったようだ。


*********


「マクシム、ランチのお誘いに来たのよ。」

出て行くフィオナを見送り、マクシム・ミューラー医師の妻は笑顔で言う

「エリン。」

マクシムも負けない笑顔でエリンを迎えた。二人は非常に仲の良い夫婦だが、結婚した後、子供がなかなか授かっていなかった。


「今すれ違った方、とても具合が悪そうでしたわね。」

診察室の窓から歩き去るフィオナを見てエリンが言う。

「そうなんだ。未婚でね。悪阻がひどいようなんだ。」

「まあ。ご主人がいらっしゃらないのですか。お辛いでしょうね。」

「そうだね。。。アレックスみたいな勘違いした奴なのかもしれないけどね。どちらにしても、付き合った女性をあんな風に放っておくなんて、許せないね。」

「そうね。女性の敵ですわ。赤ちゃんて、素晴らしい授かり物ですのに、、、。」

「エリン、、、、。」

マクシムはそっと妻を抱き寄せた。

「僕らは今でも最高に幸せだよ。もちろん子供はできたら嬉しいよ。でも僕には君がすべてだから。」

エリンは幸せそうに夫の腕に抱かれていた。

こんな優しい夫といられて幸せだ、と何度も思いながら。


「アレックス様、検査の結果をとても喜んでおられました。今度、そのお相手の方をご紹介くださるのですって。」

「へぇ。それはそれは。楽しみに待つとしようか。」

「お相手の方も、辛い思いをされたでしょうにね。」

「まったくだ。」

「お名前を伺いましたの。フィオナ様と言われるそうよ。」

「何だって、、、、、!」

「ええと。姓は確か、トーレス、トーラ、、、、、」

「トールセン」

「そうよ! どうしてわかって、、、まさか。」

エリンはマクシムの顔が凍りつくのを見た。

「今帰った女性、彼女がそのフィオナだ。」


二人はしばらく固まっていたが、慌ててフィオナの後を追いかけた。フィオナはちょうどやって来た馬車に乗り込んでしまったようで、どんなに探しても見つけることはできなかった。


「とにかくアレックスの馬鹿野郎に会ってくるよ。どうなってるのか理解に苦しむよ。」

「ケンカはなさらないわよね?」

「僕とケンカしてる場合じゃないだろう、あいつは。」




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