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11 すれ違い

翌日、昼にフィオナのところへエリオットが訪ねて来た。

卒業前の最後の試験が終わり、早目の休暇に入ったのだそうだ。

何だかとても怒っている。

フィオナは早めのランチをエリオットと取るために役所の裏の食堂へ行った。


「姉さん。どうして言ってくれないんだ。子供がいるなんて、本当か。」

エリオットは怒りを滲ませてフィオナへ詰め寄る。

最近、私と話す人は怒ってばかり。


「アレックスに聞いたのね。エリオットに言うなんて、ひどいわ。大丈夫だから、心配しないで。」

「大丈夫じゃないよ! こんなに痩せて、ひどい顔色じゃないか。」

「女性にひどい顔なんて言ったらだめよ。」

「姉さん!冗談じゃないよ、全く。年末の休暇はいつから?家に帰ってゆっくり過ごそう。父さんもわかってくれるよ。皆で乗り越えよう。」

優しい弟の言葉に胸が熱くなる。


エリオットとしても簡単に受け入れられはしなかったが、何より大切な姉である。何があっても支えると決めたのだ。


「何だったら、姉さんは仕事を辞めていいんだ。僕らは家族だろう。今度は僕が働くだけの話だよ。僕がアレックス・ミューラーと同じ職場だと姉さんも嫌な気持ちになるかもしれないね、、、。

仕事は別に探すよ。これでも成績上位だからね。いくらでも声はかけてもらえるんだ。、、、姉さん泣かないで。」


エリオットはずいぶん考えてくれたようだ。こんなに優しい子になってくれて。フィオナは最近涙脆いようで、今日もポロポロと涙が出てしまう。

「嬉しくて泣いてるのよ。今週いっぱいは仕事なの。エリオットは先に家に帰りなさいね。私も週末に帰るから。

それに、せっかく決まった騎士団の仕事を断るなんてだめよ。自分のことだけ考えて決めなくちゃ。私は、、、、もう関係ないもの。」


アレックスに不貞を疑われてから、何度も否定したが、彼は信じてくれない。好きな気持ちは変わらないが、少しずつ諦めの気持ちがフィオナを支配している。

「あいつは、アレックスは何も言って来ないのか。」

「もう終わりにしましょうって言ったの。それからは―会ってないわ。」

アレックスと2週間以上会ってない。もう会うこともないのかしら。

自分から言っておきながら落ち込むなんて。


「1週間、家庭教師でもしながら王都にいるよ。姉さん、実家には一緒に帰ろう。」

顔色の悪いフィオナを心配してエリオットは提案した。フィオナもここ最近の体調の悪さは自分でも戸惑っており、一人で馬車に乗るのが不安だったため、二人で帰る事を快く了承した。

エリオットは心配そうにフィオナを職場まで送り、手を振るフィオナを何度も振り返りながら学生寮へ帰っていった。


*********


その頃アレックスは。


はやる気持ちを抑えて昼にフィオナの職場へ行くと、先週よりさらに冷たさを増したセシリーからフィオナはいないと言われる。

「どうして。休みなのか。先週も休んでいたのに。」

「個人的なことには答えられません。」


セシリーはフィオナと拗れる前は気安く話ができていたのに、このところすっかりこの調子だ。

フィオナの事情を知っているに違いない。それなら納得だが、今はとにかくフィオナに会わなければ。


「セシリー、頼むよ。全部俺の誤解だったんだ。フィオナと話をさせてほしい。どこにいるのか教えてくれ。」


どんな事情か知らないが、親友として簡単に折れるわけにはいかない。セシリーは100%フィオナの味方だから。

あんなに悲しんで、体調を崩したフィオナに、諸悪の根源のこの男をホイホイ会わせるもんですか。


「信じられないわ。あんなにフィーを悲しませておいて、何なの。

私が協力すると思わないで。」

「フィオナの体は大丈夫なのか? 頼むから会わせてほしい。」

「何も言う気はないわよ。」


どんなに頼んでもセシリーは鉄壁の守りを崩さない。

アレックスは仕方なく職場へ戻った。


帰りにフィオナの寮で帰りを待つつもりでいたが、騎士団へ戻ると急な仕事を持ちかけられてしまう。

王太子が以前より婚約者候補だった令嬢をを食事に連れて行くから、警備をしてほしいとか。きっと一世一代のプロポーズが見れると、騎士団のメンバーは面白そうに話題にしている。

アレックスは正直、他人のプロポーズなどどうでも良かった。

むしろ騎士団など駆り出さずに勝手にやってほしいと思う。


王太子の外出は金曜日だが、今から警備計画を練る必要がある。アレックスは一心不乱に仕事を進めたが、今日はフィオナに会いに行けそうもないとわかると机に突っ伏して王太子を呪った。


*********


エリオットと別れて職場へ戻ったフィオナは、何か言いたそうなセシリーを気にしながら仕事を片付けていた。

悪阻は朝だけひどいタイプや、夕方に悪くなるタイプがあると聞くが、フィオナは1日中吐き気が続いて、苦手な匂いや食べ物を見ると一気に悪化するタイプだった。

レモンを絞った果実水なら辛うじて飲めるが、食べ物はビスケットを何とか齧るだけ。無理して食べてもすぐに吐いてしまう。


職場で皆が飲むコーヒーの香りも今のフィオナにとっては拷問のようだったが、自分の都合を押し付ける訳にはいかないと、何も言わずに耐えていた。

就業前になってケリー所長に呼び出されたフィオナは、フラフラと力なくソファへ座った。


「トールセンさん。体は大丈夫?」

所長はとても気遣わし気にフィオナの肩をさすってくれた。

「はい、何とか。」

青白い顔のフィオナはボーッと返事をする。

ケリー所長はそんなフィオナをじっと見つめていたが、決心したように申し渡した。


「あなたは明日からお休みよ。病気休暇があるでしょう。週末まで休んで、そのまま年末のお休みに入ればいいわ。また来年会いましょう。」

「そんなこと。私、できません。」


忙しい時に自分だけ休むなんて。

「体を壊している人は働かせられません。いい?これは命令です。もう家にお帰りなさい。」

所長は厳しい口調ながら優しい微笑みをフィオナへ向けた。


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