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ねこねこ戦記〜猫たちの異世界狂想曲〜  作者: 志雄崎あおい
7章 闇夜に浮かぶ月時計
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226話 戦略的撤退

「うーんキリが無い……」


 次々に襲い掛かってくるモコモコ兎達を蹴り飛ばしながらわたしは独り言のように呟いた。


 上空からのしかかるように攻撃をしてきたモコモコの体を演舞を踊るようにヒラリとかわすとそのまま円運動を重ねて蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされたモコモコの体は本体を現す暇もなく色を抜くようにすぅと景色に溶けるように消滅した。


 最初こそ一撃で倒す事が出来なかったが、慣れとは恐ろしいもので沢山の毛玉を蹴っている内に一撃で相手を消滅させられるくらいまで攻撃力が上がっていた。


 更に斬撃を増やす特技の応用で、蹴り攻撃を同時に二発まで出せるようになっていた。


「二連脚〈にれんきゃく〉!」


 せっかく思いついた特技なので戦いながら名前をつける事も忘れない。

 目の前の毛玉を蹴り飛ばすと、同時に真後ろにいた毛玉も吹き飛び消滅した。


 一度に出せる蹴りが二発になった事で単純に攻撃力が二倍になり、さらに蹴りの場合は最初から纏〈まとい〉の特性が含まれているらしく、わたしの回り三百六十度どこにでも出す事が出来るようだった。


 先ほどのように目の前の敵と真後ろの敵を同時に蹴る事も可能。更に、足は二本あるので飛び跳ねて両足を開いて蹴れば実質四発同時に蹴りを撃つ事も出来る。


 わたしはこれを四葉のクローバーに例えて、四葉〈よつば〉蹴りと名付ける事にした。


 そんな感じもあって最初こそ追い込まれる場面もあったけど、今は割りと安定して戦う事が出来るようになっていたのだが。


「……」


 わたしは牽制するように周囲を見回す。

 もうかなりの数を倒したはずなのに、わたしを取り囲む毛玉達の数はまったく減る様子がなく、倒しても倒してもすぐに補充される。


 しかし、その数は一定数以上増える事はなく、更に補充されてくるモコモコ達は衰弱し明らかに最初の頃よりも弱くなっていた。


 という事はやっぱり。

 一つの推測。


 元々、モコモコ達は倒している手ごたえが薄い事がずっと気になっていたのだが、やはり消滅しているからといって倒せているわけではない気がした。


 次々に補充されてくるモコモコ達も新しくやってきたというよりも、リングの外に出されたモコモコが再びリングに戻ってきているというだけという気がする。


 やっぱり本体は別な所に居て、この子達はその本体が生み出している外部端末のようなものなのではないだろうか。


 だとしたらこれ以上戦っても、彼等のスペック的なものが落ちて行くだけで倒しきるという事がそもそも不可能なのでは……。


 ふわりと薄手の生地を何枚も折り重ねたミルフィーユのような白いブライズメイドドレスのスカートを翻しながら宙を舞うと、落下の勢いそのままに踵から一体のモコモコに乗る。


 そこから宙返りで地面に着地すると独楽のように体をクルンと回転させて回し蹴りで飛ばした。

 そこまで考えて一つの結論に達した。


「逃げようかな」


 相手が戦う気満々なのに逃げるなんて、売られた喧嘩は買う主義を標榜しているわたしからするとちょっとなぁと思う所はあるのだけど、相手が無限湧きというのなら話は別である。


 戦いながらずっと頭の中で二頭身のわたしの姿をした天使と悪魔が囁いてくる。


「逃げちゃ駄目よ。獲物を前にして逃げるなんて最強の狩猟種たるネコ科のする事じゃないわ。そんなのネコ科の恥よ」

「効率のよい狩りを行うことこそネコ科の本領。時には逃げる事も大事。臨機応変さこそがネコ科が最強の狩猟種たる所以なのよ」


「は? 何言ってんのあんた。百獣の王を輩出したネコ科舐めてんの」

「あんた事こそ何いってんの。ライオンは群れで狩りを行う動物じゃない。あれこそ効率的な狩りを行っているネコ科の象徴でしょ」


「ひどい言い掛かりだわ。あなたの今の発言をライオンに対する名誉毀損で訴えます」

「名誉毀損も何も、事実は事実でしょ。ライオンは群れで狩りをする動物なのだから」


「なんですって!」

「なによ!」


 うぅ、頭の中で喧嘩しないでよぉ。


「で、どうするの?」

「で、どうするの?」


 脳内の天使と悪魔がわたしに決断を迫ってくる。

 実際の所、数は全くといって戦闘開始時点から変わっていなかったが、モコモコ達の動きはかなり鈍いものになっていた。


 逃げようと思えば逃げる事は出来るだろう。

 わたしは毛玉を蹴り飛ばしながらちょっと考えると、


「やっぱり逃げることにする」


 決断を下すと脳内で天使がムスッとした顔で、悪魔がドヤっとした顔でそれぞれ「主の御心のままに」と言い残して消えていった。なんでそこだけそんな大仰なの。


 いやまあ普段のわたしならどっちかというと脳内天使よりの考え方なんだけど、今回は本当にキリがないのでしょうがない。


 ある意味脳内天使と脳内悪魔で議論になってしまった時点ですでに結論は出ていたのかもしれない。

 この手の天使と悪魔の囁きで天使の方が勝つ事ってほぼほぼ無い気がするし。

 そうと決まったら。


「はぁっ」


 わたしはモコモコ達から距離をとると、高めの木の幹に足をかけると一気に駆け上がり枝に乗った。


 そこからジャンプを繰り返し、枝を乗り継ぐようにしてその場を離れる。

 チラリと後ろを見ると毛玉達がまるで白い綿毛の洪水のようにして追いかけてきていた。


「っ……」


 思っていたよりも追ってくるスピードが速い。

 森が終わり地面に着地すると、速度を緩める事なく田舎道をひたすら走って行く。


 ごうごうと地響きのようなモコモコ達が大移動する音が聞こえてくる。

 まるでスポンジから泡が溢れ出てくるかのように、森から大量の毛玉が塊となって溢れわたしを捕らえようと距離を詰めてくる。


 すでに、とりあえず相手が見えなくなる所まで逃げるという当初の考えは捨てていた。

 相手のあのスピードではそれは叶わない。

 故に、わたしはその場所を目指して一直線に駆けた。


「っ……!」


 ドアに手を掛けると勢いよく開き、滑り込むように中に入ると勢いよく扉を閉める。そしてテーブルと椅子を扉の前に積み上げてバリケードを作る。

 程なくして、


「――――!!!!!!」


 ガタガタガタガタと入り口を中心にして叩きつけているような音が建物内に響き渡った。


「……」


 しばらくの間、息を潜めて壁を叩きつける凶暴な音の行方を見守っていたが、どうやら入ってくる事はないらしいという事を確かめると安堵の吐息をついた。

 そして室内を見回す。


 長いバーカウンターに棚には様々なお酒が並んでいる。フロアにはテーブルと椅子が


 ――今入り口を塞ぐバリケードに使ってしまったので歯抜けになってしまっているけれど、置かれていた。


 見慣れた景色。

 ここはナイルのお店だった。


「まだ、みんなは帰ってきてない……か」


 灯りが点いてなく暗い店内で、わたしはポケットからニャルラトフォンを取り出すとディスプレイの灯りで辺りを照らしながらポツリと呟く。


 あれから結構な時間が経っているはずだけど、まだミケ達ですら帰ってきていないらしい。

 とりあえず灯りのスイッチを探して入れてみるが灯りが点く事は無かった。


「……停電?」


 確かこの村は電魔器と呼ばれる装置によって魔法会社から送られてきた魔力を電気魔法に変えて発電してるとか言ってたような。


 圏外になっちゃったから停電しちゃったのかな。


 漠然とそんな事を思いながら灯りを点ける事を諦めると、慎重にニャルラトフォンの画面の灯りを頼りにお店のスペースから居住しているスペースへと進んで行く。


 あの時の記憶が確かなら、この辺に――。


「あった……」


 廊下をしばらく進むと、普段はそこにはなかった扉が姿を現していた。

 わたしは扉の前に立つとドアノブを捻ると軽く押してみる。


 開く……。

 あの時は全く開く気配がなかった扉が微かに動く。

 今回は開くと、手元の感触が伝えていた。


「……」


 という事はこの中に彼女がいる。

 わたしが険しい顔でドアノブを掴んだまま固まっていると、


「ルナ……お嬢様?」


 背後から鈴を鳴らすような可愛らしい声が聞こえた。


「アイちゃん?」

「はい」


 振り向くと、メイド服を着た妖精の女の子が浮んでいた。

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[一言] アイちゃんとの再会は……果たして何を意味するのか(;'∀')
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