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11-2

 ヒロミの心韻を受け、トワは足を止めた。


 「「――聞こうか」」

そしてヴォイアースの操縦席に飛び乗るためその脚部に乗せていた足を止め、振り返った。


 「「作戦行動中は記録のためもあって基本的に心韻はヴォイミを介して行うものに限定している。勿論個人間のやり取りも禁止できるわけではないが、推奨はされていない。ヴォイアースに対して隠し事をしない、というマナーのようなものでもある」」

「「ご、ごめんなさい……、こんなタイミングで」」

フロアでは他の機体も一斉に準備を始めていた。高らかなモーター音が次々と鳴り響き、巨大な羽の表面からは眩しく輝くスケイルヴェールが溢れ出るのが見えた。こうした環境でも、大声を張り上げることなく意思疎通ができるのは心韻の利点の一つであろう。ヒロミはやや口ごもるように返事をしながらもそう思った。トワは続けた。


 「「いや、だから今のうちに話しておこう。気がかりなことを持ち込まない方がいい」」

「「うん……」」

ヒロミはそう言って切り出した。

「「フェイミさんのこと……、以前ここにいたときにお世話をしてくれた方のことは、何か聞いてない?」」

「「あぁ――、そうだな、あの人物についてはセデイにも調べさせてはいない」」

「「よ、よかったら彼女のことも――」」

「「あえてそうしてるんだ」」

「「?」」

ヒロミの言葉を遮るようにトワが答えた。

「「正直に言ってしまえば、彼女は――彼女らはどうも得体が知れない。誰に雇われてるとか、そんな話をしたことがあるか?」」

「「ううん……」」

「「変に嗅ぎ回ったりすればこちらの身が危ないかもしれない。中枢の何らかの権力と直接繋がりがある立場なのは間違いないと思っている。でなければあのように動くことは出来ないだろう。そうした特殊な任を負う者たちがこの国には何名か存在する。彼女もその一人のはずだ。ヒロミに何らかの手段が与えられていないのならば、それは接触することは出来ないと解釈した方がいい」」

「「そう……なんだ……」」

ヒロミは言葉を噛みしめるように答えた。


 「「そんな答えでいいだろうか。何か思い当たることが――?」」

トワはそう言ってシーロトワミの頭部をさらに低い位置へと移動させた。飛び移らなくてもヒロミが副操縦席にたどり着けるようにという配慮だろう。

「「うん……、6区の事件のときも北門の方へ行ったりしていたし、同胞がいるとかで……、何か別の優先すべき仕事があるみたいだったの。あと――」」

ヒロミはそう言いながらトワに続いて機体のもとへ近付いた。

「「ローブをとったとき、素顔がトワにそっくりだった。その姿が、すごく印象に残ってる――」」

トワはその心韻を聞きながらも軽々とジャンプし操縦席に乗り込んだ。

「「なるほどな、だが不思議ではない話だ」」

そして特に驚いた様子もなく答えた。


 「「そうなの?」」

ヒロミも操縦席外側の足場に足を乗せそう返した。

「「そもそもの出自で言えば私だってあやふやだ。もしかしたらとある優秀な人物をクローンして生まれたうちの一人、なんてことに過ぎないのかもしれない。私はたまたま操士としての力があり、彼女には何か別の素質があった、と。もしくはただ似ているだけで、実際には何の関係もないか――。もっとも私は彼女の素顔を知ってるわけではないから似ているかどうかは判断できんがな。親族でない者と見た目が似ているというのも、さほど珍しいことではないのだ」」

ヒロミはなんとか後部座席までよじ登り、潜り込むように身を沈めた。あの時は確かフェイミを同様のことを言っていたはずだ。皆が姉妹のようなものだ、と。何か大きな意味を持つと思っていたことが、ネーリアにとっては意外にもよくある例の一つだったのかもしれない。改めてトワの返答を聞きどこか肩透かしを食ったような気分だった。

「「――確かに、操士としての力は微妙だったかも。いつもすごく慎重にゆっくり操縦していたし、ふふ」」

ヒロミはその様子を思い出し微笑んだ。そして、ネーリアにとっての「似ている」という感覚がそもそも地球人とはまったく相容れないものであることも思い返していた。

「「爆破事件のときの動きは何らかの――とても重要な、守るべき存在があった、ということだろう。おそらくだが――、それは"女王"に直結したものだ。彼女は今回の聖蛹移転にも絡んでいるように思う。これは単なる憶測だ。決して口に出して発言しないように。ヒロミも自ら情報を求めて動くようなことはしない方がいいだろう、また会える時はきっと来るはずだ」」

「「分かりました」」

ヒロミは了承した。思い当たるところがないわけではない。あえて詮索はしなかったが、彼女の知識の豊富さや、物事への周到な準備、その行動力などは、相応の教育や訓練を積んだ人物であることを想定させるのに十分だった。そしてヒロミ自身、フェイミと再会できることは間違いないという確信めいたものがあった。彼女の情報収集能力であれば、ヒロミが移植手術を終えた身であることも既に聞き及んでいるだろう。フェイミとは約束を交わしたのだ。彼女はきっとそれを果たしてくれる。ヒロミはそう信じた。


 「では行くぞ」

トワがそう言い、シーロトワミのモーターを起動させた。周囲のヴォイアースよりも一層高らかなモーター音が鳴り渡り、ヒロミの体内には体の芯を揺さぶるような心韻が響いた。機体は6本の足を地に着けた状態の着地形態から、後肢のみで起立する歩行形態へ移行し、羽から大量のスケイルヴェールを放出して姿勢を整えた。


 「「なんだか不思議な感じですね、ヒロミさ・ま!」」

"様"の部分はおどけた調子に聞こえた。操縦席内に並んで浮かぶ小型モニターのうちの一つが拡大された。それは第二操士団のルルアからヴォイミを通して送られた心韻だ。久しく見ていなかったいたずらっぽい笑顔がそこにはあった。

「「様はいりません。……よね、トワ……様?」」

ヒロミは言葉を選びながらもそう答えた。

「「ふふ、さあな。他人の副操士に向けて呼びかけたことなんてないからな。副操士が答えるのも聞いたことがない」」

「「そうですか……」」

トワの返事にヒロミもそう応じた。すなわちそれは副操士が普段ほとんど発言しないということも意味するのだろう。


 「「で、何だ?ルルア」」

改めてトワが尋ねた。

「「トワ様、"中和剤"はいいんですか?」」

見ると彼女らの乗る機体、エレイシュネイだけではない、視界に収まる範囲内全てのヴォイアースの周囲でヴォイミらが飛び交い、機体全体を覆うように何やら噴霧しているようだ。

「「あぁ、例の黒い霧の効果を抑えるとかいうものか。私のところには来てないが」」

「「えぇ、少なくともかすったくらいならば羽が使用不能になったり、操士が感染したりってことはないそうですよ。申請式だったんです、トワ様のところにも通知が届いてなかったですか?」」

「「そうだったか、まぁいずれにせよ私には不要だ」」

トワはそう答え、機体脇に用意されていた、説明にあったロングライフルをシーロトワミに構えさせた。そのあまりの銃身の長さは、見るからに取り回しの難しさを予感させた。

「「へ~ぇ、自信がおありなんですね」」

ルルアはそう言った。シーロトワミが前回負傷したのも、まさにユーフの放つ黒い霧の影響だったはずだ。つまりはそれだけヒロミの存在に賭けているということの表れとも言えるだろうか。


 シーロトワミにはロングライフル用の特別なマウントなどは準備されていない。トワはそれを機体の中肢で挟むように持つ方法を検討した。そして前肢を用い、ハンガーに用意されていた接近戦用の光剣を持ち上げた。それを腰部装甲に取り付けると、今度は通常サイズの射撃武器にも手を伸ばした。すかさず再びルルアからの心韻が届いた。


 「「ちょっと!トワ様、さすがにそれは我々に対して失礼じゃありませんか!?」」

ルルアは画面越しに目を丸くして怒りをにじませているように見えた。以前6区でトワにすり寄るように接近した姿とはまるで別人に思える攻撃性だ。

「「言ったじゃないですか!今回は完全に分担すると。あなたと、副操士様の、帰りを待って、決めたことですよ?ネストの破壊以外は我々の仕事です」」

トワは無言だった。2種の武器は離さなかった。どういう真意なのか。彼女らの戦闘能力を信用せず全て自分でやってしまおう、ということなのか?ヒロミには測り兼ねた。機動力を低下させても尚問題なく作戦を完遂出来るというアピールが目的だろうか。トワには何か策があるのかもしれないが、この状況でこれ以上の勝手な行動は操士間の不協和音を増す。間違いなく悪手だろう。トワは目の前にいる。ヒロミは直接確認したくも思った。だが既に出撃前のヴォイアースの機内であること、そしていざ言葉にしようとすると何と尋ねてよいかに詰まったこともあり、送ることは出来なかった。心韻が使えればトワ含め多くの者と自由にやり取りが出来る、そんなイメージもあった。しかし実際には案外窮屈なものかもしれない。ヒロミはそんなもどかしさを感じていた。


 「「スマーリの誇り高き操士たちよ!」」

両者の無言が貫かれたまま出撃準備が進む中、司令官の心韻が届いた。

「「今回は緊急任務だ、大げさな合図や詩はない。


 "仇なすものを 焼き払え"


そう詩にもあるが、新たなフォーメーションのテストも兼ねている。敵の行動に変化もあるだろう。今回はくれぐれも深追いはするな。皆、生きて蛹に還れ。いいな!」」

「「はっ!」」

各人が応じた。格納庫の上空に向け小さなスケイルヴェールの花火が打ち上がり、弾けた。それを合図に各機は一斉にモーターの出力を上げた。大量のスケイルヴェールを放出させ、十数機のヴォイアースと、追従する無数のヴォイミらが夜空へ舞い上がって行った。



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