【12】 カオス過ぎる学園
チュンチュン
「ん……あぁ……」
小鳥のさえずりに起こされた少年、透水純は目覚めと同時に異常な空気を感じて動く
普段はそこまで気配感知の力が優れている訳ではない純も、その奇妙な空気には注意が持って行かれる
視線の先にあるのは押し入れ
その奥から伝わって来るただならぬ気配に、額に汗をかきながら体を起こす
静かに床に足をつけて、歩む
膝を曲げて腰を落としどの方向にも移動できるようにすり足で動く
スニーキングでふすまに近づき
バッ
勢い良くふすまを開いた
「……!」
驚愕で固まる純
その視界の先には群青の長髪を白い頬にかけながら寝ている美女
というか、ウンディーネだった
「なんでここに居るんだよ!?」
押し入れの中で寝る!?
確か精霊界から警戒しているとか言ってなかった!?
いくら青いからって猫型ロボットみたいな事してんじゃないよ!
「……ん……。はぁ……おはようございます。透水純」
「あぁ、おはよう……って、違う!なんでこんなとこで寝ている!?」
普通に挨拶をされて返事をしてしまったが、すぐに聞く
「精霊界で見ているよりも現実世界に居た方が気配の探知も容易ですから」
「いやいや、それなら昨日の間に言ってくれれば寝床を用意したのに!」
「深夜になって思いついたので。布団を探してここに来たのですが、そこから先の記憶がありません」
精霊が寝落ちしたらしい
「はぁ……まぁいいや、朝食作って来るから、他の奴ら起こして来てくれるか?」
現状、透水家にはウンディーネの他に二人の居候者がいる
一応家の主として料理くらいは作ろうと決意
純は顔を洗ってから制服に着替えた
だけど、いつものブレザーは着ておらず、ワイシャツの上に黒のエプロンをしている
調理場に立ち、一人静かに男の料理が始まる——
結論から言うと、爆発や雷鳴が起こる訳でもなく普通に調理が終わった
出来たのはバタートーストと目玉焼き、サラダ
極々普通の朝食が四人分できていた
「おはよう、純」
「遅くなったわね」
「うっかりして二度寝をしてしまいました」
おい、ウンディーネ
純は心の中で悪態をつきつつも言葉には出さない
流魅とレインも降りて来たので安全に夜を開けれた事に安堵する
エプロンを脱いで料理を食卓へ並べ、各自席に着く
精霊、ダークエルフ、超能力者が日本の一般住宅にて食卓を囲んでいる
一瞬にて住宅地を吹っ飛ばすだけの力が集合している
「「「「いただきます」」」」
水を司り神話に乗る程の四精霊の一体が——
高い知能と凄まじい魔力を持つダークエルフが——
液体を様々な形状にして操作する異能力者が——
しょぼい透明化の異能を手に入れた厨二病が——
「「「「もぐ」」」」
——食パンを食べている。
「おいしい野菜ですね」
「香ばしさが無いな……」
「やっぱり純の料理ってどこまでも普通よね」
「同時に言われても反応しにくい!」
食べつつ純は今日の予定を聞く
「レインとウンディーネは今日は家に居るのか?」
「いや」
「いいえ」
「は?」
当たり前のように否定する二名の人外
てっきり家からでないものだと思っていた純は驚く
「隣家かどうかですら急襲への対応を考えたのですから、レインもわたしも極力あなたたちの近くに居ますよ」
確かに前日、レインが流魅の家ではなく純の家に泊まる事になったのも僅か一件の家の差を考えた上での事だった
「心配要りません。時川高校の校長とは面識があります」
いけない、この精霊はわりとコンタクトをとるらしい
「って……面識があるってまさか……」
「校内で待機するって言う事ですか?」
流魅が言葉を繋いで疑問を口にする
「そうよ」
「それがベストでしょう」
驚愕の流魅と純
「透水純と蒼波流魅は普通に授業を受けていれば良いですよ、警戒はわたしたちが行ないますから」
「ま、まぁ……わかった」
「なんか凄い事に……」
「あ、食器はわたしが洗っておきますから、皆さんは先に出てください」
食後、ウンディーネがそう言った
「ありがたいが……家の鍵を閉めないといけないから俺が洗っておくぞ?」
「水を変形させれば鍵はかけられます。鍵を持って家を出てください。わたしが施錠してから追いかけますので」
「そうか……じゃあ、御言葉に甘えさせてもらうぞ」
「ウンディーネ様、わたくしはどうしましょう?」
「レインは透水純と蒼波流魅と一緒に登校してください。襲撃を受けた時に対処できる戦力を揃えておいてください」
「わかりました」
登校するだけなのにかなり物騒だ
「蒼波流魅と透水純も、護身用具を持っているのなら一応持ち歩いた方が良いでしょう」
純も流魅もそんなものは持ってない
「さて、そろそろ出発するか」
ブレザーも着ていつも通り厨二病の空気を迸らせる純が言う
「みなさん、お気をつけて」
「はい、ウンディーネ様。先に行って参ります」
「行ってきまーす」
シャアア
透水家台所にて
水で構成された腕が食器を持ち上げて回転する水の塊を押し当てて表面の汚れを落として行く
ウンディーネの水流操作で自動で皿洗いは進んでいた
だが、そこにウンディーネは居なかった
今、ウンディーネは学校の近くの山に来ている
静かに山道を歩き、一つの洞窟の前で立ち止まる
「来ましたよ」
虚空に向かい、ウンディーネは呟く
「……くふふ」
虚空は、笑った
暗闇に包まれた洞窟から、闇色の服を纏った少女が現れる
「ファム……あなたがわたしの所に来たと言う事は……」
「そーだよ。殺しに来たんでしゅ」
金髪のツーサイドアップを揺らしつつファムと呼ばれた少女は微笑む
その微笑みは心の底から来る屈託の無い笑みで、話している内容とのギャップと相まって不気味な色を帯びている
「あなたはわたしに勝てない。無駄な事は止めてください。今すぐ日本から立ち去るのです」
「それは出来ないんでしゅよー」
ウンディーネの申し出をファムはあっさりと断った
少しも考えていない答えだったので、ウンディーネは言葉を続ける
「罪の無い民間人を巻き込むことは許されな——」
「——許されない!そう!許されない行為でしゅ!」
突如ファムは叫ぶ
ウンディーネは黙ってそれを見る
「人の命を奪うと言う行為は許されない行為でしゅよね!例え戦闘の二次災害に巻き込まれて死んだのだとしても、その尊い命を奪ったと言う行為には変わりない!」
「……」
「だから、わたしたちは許す訳にはいかないんでしゅ!
わたしら魔女を滅ぼしたにっくき科学どもに仕返しをしてやる!!」
ファムの先祖は魔法使いだった
かつてダークエルフと交わった事で生まれた強力な魔力を持つ魔法使いは百年戦争時、魔女狩りによって殺されて行った
ファムの祖先は殺されぬよう、扱える魔法の全てを書物に記し極力魔法はつかわないように生活していた
だが、異端審問会が家にガサ入れに入り、ダークエルフの直系で高度魔術を扱えたファムの先祖は火刑に処された
難を逃れた祖先の一部は家系を知られて殺されるのを防ぐ為に生まれた子に苗字を与えず、ある程度魔術が行使できるようになったら魔術を記した一冊の本を持って、人里離れた山に一人で住ませるようになった
当時は人が立ち入れない山には悪魔や悪霊などの幻想生物が住んでいたため異端審問会は入って来ない
処刑される事を避ける為に、危険は多いが山に住ませるようになった
そして、さらに彼らは進化した
より平和に生きる為に、山の中にいるドラゴンと共存した
自らが持つ魔法でドラゴンに水を与え、ドラゴンが狩って来た肉を人間が食べた
魔法を使える竜使いとなった
時は進み、ファムは生まれた
ダークエルフの血をひくため魔属のドラゴンともすぐに仲良くなり、彼女は当然のように生きてきた
だけど、やがて文明を学ぶ事になる
文明を学んだ彼女は、自分の先祖が科学を重んじる人々に殺されたことを知った
ただ単に、黒魔術を扱える可能性が存在するというだけで焼かれたのだ
ファムはそれを許せず、科学を恨んだ
「科学の発展を進めたのは主にヨーロッパだけど、それは最終決戦にとっておくんでしゅ。まず最初に滅ぼすのは高度経済成長を経て世界の科学の頂点にいる日本。その世界最高の技術を滅ぼしさえすれば他の国が相手だろうと勝てましゅ」
「やめるのです!そんな事しても、何の意味も無いでしょう!」
「人間は何の意味の無い破壊活動で自己満足を満たして来た、それと同じでしゅ。敵討ちが出来れば、それでいいでしゅ」
ファムはこの世界を滅ぼす事に躊躇いなど無かった
「でも、この国の科学技術に対しては勝てるかも知れないけど、ウンディーネしゃんには勝てないかも知れない。後から邪魔されるのも嫌だから、もう一度殺しに来たんでしゅ」
ファムとウンディーネの最初の出会いは数年前に遡る
当時からファムは科学の破滅を願っていて、一人の科学者を竜と共に惨殺しようとした
だが、そこでウンディーネが止めた
科学者を守り、ファムを撃退した
科学者はその記憶を精霊の力で消されているが、それは事実
何故、精霊であるウンディーネが人間を助けたのか
理由は簡単、科学と魔術がそれぞれの存在を認識すれば再び血が流れる可能性が有ったからだ
ウンディーネたち四精霊はこの世をもっとも平和的にキープする役割があった
人間同士の争いには干渉しなかったが、魔法が関係するときは止める事になっていた
精霊の力だけで抑え切れない場合は、人間と契約し、異能力者をつかって世界を救う事も許されている
それで契約したのが純と流魅だったりする
「まぁ、今すぐウンディーネしゃんを殺そうとは思っていましぇん。今夜、またここで勝負しましょう」
「……」
ウンディーネとしては、平和的に解決したいのだが、下手にものを言って今すぐ戦闘する事になれば山とは言え昼間だから登山者もいて、二次災害に巻き込まれる可能性が有る
そう言った意味では、深夜に勝負するのなら一般人が巻き込まれる可能性もごくわずかで、都合は悪くない
いずれ来る戦闘なら、最適だろう
「わかりました……今夜ですね」
「ウンディーネしゃんと戦うのは久しぶりだから楽しみでしゅ」
「あなたを殺すかも知れない。未練は残さないでおくべきですよ」
「ウンディーネしゃんを殺せれば満足でしゅ。世界も滅ぼせたら文句ありましぇん」
世界の命運を賭けた戦いが始まろうとしている
「なぁ……レイン」
「なにかしら?」
「なんで……白衣なんか着ているんだ?」
現在、時川高校の廊下を三名の非凡が歩いている
一人は、水流を操作する事が出来る女子高生
一人は、黒と青の改造制服を身に纏う痛々しい空気を放つ透明化の異能力者
一人は、艶のある褐色の肌でグラマーな肉体にタイトスカート、白衣を着て赤フレームの眼鏡をかけているアダルティな保健室の先生風のダークエルフ
「この学校の保健室はわたしが占拠する事になったわ」
校長が手を回したのか、そもそも前の先生はどこに行ったのか
等々疑問はわくが、そうとなった以上仕方ない
今日も一日、カオスな学園生活が始まる
こんにちは永久院です
今週は忙しくて投稿が遅れましたーっ
はぁ…
もうすぐラスボス戦です




