【10】 お料理対決
モノポリーは終わり、現在時刻午後6:30
「お腹がすきましたね」
との言葉により、現在はとても奇妙な状況が広がっている
例えるのであれば、一触即発の乾ききった緊張の空気
「始めっ!」
少年——透水純が叫び、透水家のダイニングキッチンで戦いは始まる
「えぇい!!」
まず最初に動き始めたのは気が強そうなつり目がちの目の美少女——蒼波流魅
流魅は集中し、その身に宿る異能を呼び起こす
すると、水道から流れ出す水が集合して、下向きの円錐ができる
その円錐は回転を始めて、渦潮のようになる
その中に野菜を入れる事で洗浄する
「それでは、わたしは……」
次は、青く蒼い出で立ちの美女——ウンディーネが動いた
その名で気付く人は多いと思うが、彼女はかの四精霊の一体だ
水を司取りしウンディーネは人差し指を宙に円を書くようにくるりと動かし、静かに言霊を唱える
「アクアブレイブ」
ウンディーネが呟くと同時、水道の蛇口から流れる水が先ほど流魅がやったのと同じように集る
だけど、その水は大きな塊になるのではなく、薄く、円盤状に広がり、高速回転を始める
「斬り裂きなさい」
ウンディーネはさらに命令をだす
水の円盤は電動グラインダーのように回転したまま野菜へと近づき——
ザシュッ
人参がまるで豆腐のように切れる
「そろそろアタシもやろうかしら……!」
台所に立つもう一人の女性が動き出した
艶のある褐色の肌に、冷気のような銀髪
目は炎の用に紅く、ライダースーツに押し込まれたグラマーな体も相まってその姿は人間離れした美しさがある
言ってしまえば、人間ではないのだが
その正体はダークエルフ
高い知能を持つ彼女たちダークエルフは人間になりきり、共存して来た為、言葉が通じる
彼女——レインはフランスから来たのだが、日本語も喋る事ができるらしく、始めてであった時から日本語だった
「行くわよ!」
レインはウンディーネが切った野菜をフライパンへと移し——
「フレア!」
ボウウゥッ!!
渦潮、液体グラインダーに続いたのは、炎だった
窮屈そうな胸の前に右手でフライパンを構えて、左手の掌から火炎放射をしてフライパンを熱している
台所がとてつもなく非日常になっていた
と、なんでこのような状況になっているのか
既に説明したが、ウンディーネが空腹を訴えたところから始まる
「え……ウンディーネって精霊なのに腹減るのか?」
「はい」
「霊体も生命体には変わりないんだからエネルギーとっていないと現世界に存在ができないのよ」
「幽霊なんかみたいな現世界で実体がない存在はエネルギーを必要としないんですけどね」
「いろいろあるんですね……」
「ウンディーネって毒とか摂取しても死ななそうだよな」
「一応死にません」
「じゃあ……ガソリンとか——あがっ!」
「ウンディーネ様に何を摂取させようとしている」
「れ、レイン……この……!」
純がむせながらガンを飛ばすも、涙目では威嚇にならない
「夕飯はあなたにつくってもらおうかしら?」
「え……純のご飯はそんなに美味しくないですよ、レインさん」
流魅がさらっと言ったが、それは事実
純は味覚障害が有る訳ではないが、一般の男子高校生に過ぎない純は料理の練習なんてした経験は殆ど無く、普通に普通の「そんなに美味しくない」料理になる
まずくはないが、美味しい訳でもない
「記念すべき共同生活一日目ですから美味しいものを食べたいですね」
「かといって出前を頼むよりは家で手料理を食べた方がなんか良いですしね……」
「家の主がつくれないなら……どうしようかしら?」
レインが首を傾げたとき、ウンディーネが掌をうち、爆弾を落とした
「せっかくですから、お料理対決でもしますか」
さて、今現在は下準備部門で、流魅とウンディーネが洗浄とカットを行い、レインは一歩早く調理をしている
この料理対決では、ウンディーネと流魅の料理が完成するまでが制限時間になるから、レインは特別有利な事にはならない
三者三様に全力で調理をし、それの一部を審査員こと純が食べて審査するらしい
「水人!」
今、流魅が言霊を唱えて水で構成される人影が作り出される
「料理しろ!」
透き通った人影がフライパンやらなんやらを持って調理を始める
素早い作業で、流魅とのコンビネーションも凄い
役に立つ異能は用途が多い
「それではわたしは」
ウンディーネも一通り作業を終えてどこから持ち出したのか、金網の上に野菜と肉を置いて——
ブワアアアアア
金網の下に水を発生、水を蒸発させて水蒸気の熱で加熱している
蒸し焼きとでも言うべきか、食材は火を通されている
が、調理場に濃霧発生、調理の様子が見えなくなった
「ちょ、ウンディーネさん!?」
「な、何も見えない!」
「ふふふ。何も見えませんね」
「う、うおおっ!」
純はダイニングキッチンを取り巻く濃霧から逃げるべく部屋の隅、30分前まで立っていたその場所まで後退し、頭を抱えた
「どうしてこうなる……!?」
調理場では爆炎が上がり、静電気のような破裂音が聞こえ、野菜の破片が吹き飛び、異様な世界が広がっていた
そこは、まさに戦場だ
「……はぁ」
純はもはや溜息をつくしかない
これが現実だと受け止めで、戦場から目を逸らし、妄想もとい現実逃避に浸る
あぁ、今日の夕飯は何になるのか…と
戦いは、いよいよ最終章へ入り込んだ
「完成しました!」
「完成した!」
「完成したわ!」
三者三様の歓声を聞いて純は現実の世界へ帰って来た
珍しく一回で妄想を抜けた純はまず最初に戦況を確認する
奇跡的に家は無事で、燃えても居ないし穴もあいていないようだ
「さあ、純!食べな!」
「腕によりをかけてつくりました」
「わたしの料理が一番よ!」
自信のある叫びを聞いて、純も近づく……
それぞれが食卓へと置いた皿を見て——
「おい!なんで全員オムライスつくってるんだよ!」
そう、並べられているのは黄色の卵に包まれた大きなオムライスと思わしき料理がのった三つの皿
「偶然です」
「偶然よ!」
「偶然ね」
「偶然じゃねーだろ!ってか……レインのやつどうなってるんだよ!」
純がレインの皿をよく見たところで叫ぶ
「それ……よく見たら焦げまくりじゃんかよ!」
「なんだ?貴様が先ほどガソリン云々言ったからこう言うのが好きかと思ったのだが?」
なんと言うか、炭化している部分がある
香ばしいだろう
あの炎なら頷けるものがあるが
「外見で味は判断できないわ!食べなさい!」
「いやいや俺の嗅覚もこれはヤバいって訴えてるから!匂いが既に香ばしいから!」
「ずべこべ言わずに食べなさい!」
今は隣の蒼波家に居るであろう純の母、陽子のような言い様であった
一応審査員である事を理解している純はいやいやながら食べてみる
口に入ると同時に広がる苦みと香ばしさ
かすかに卵の味と野菜の味、ケチャップライスの味はするものの苦みとのバランスは取れていない
「これ……ヤバい味……」
「うるさいわね。黙って食べなさい」
「いや……審査に必要な量は食べたんでいいっす」
「それでは、次はわたしの料理を食べて頂けますか?」
次に、ウンディーネが動く
「はい、どうぞ」
「あぁ……なんか普通だな」
純はその外見に多少の安堵を抱き、持ったスプーンを差し込む
スッ
「なんかめっちゃスムーズに入った!?」
驚愕する純はそのスプーンをあげて口に運び、食べる
「これ……!」
口に入れると同時に広がる卵の風味とトマトの味
「うまい!……これ、完全にオムライスと違う気がするけどな」
「深めの皿なので混ぜて食べると良いでしょう」
ウンディーネに言われて純がオムライスをかき混ぜると、赤いご飯と黄色の卵が混ざり、その外見を変える
「トマトリゾットだな……これ」
「チーズとバジル、卵がトマトの酸味と上手く合ってると良いのですが」
「これ、めちゃくちゃ上手いぞ!」
本当は高圧水蒸気で米を炊く時に水の量が多過ぎてべちゃべちゃになってしまったのに無理矢理ケチャップを混ぜて調味料で誤魔化しただけなのだが、格別の味になっていた
「これ……野菜とかは入っていないのか?」
「わたしの分の野菜はナノレベルまでカットしたので野菜の味はありますけど、見えないでしょう」
包丁だと絶対できないだろうな
「最後はわたし!」
「いや、流魅のはいい」
純は拒む
「ウンディーネのトマトリゾットが既に美味しい。これ以上危険な橋を渡るのはよしたいのだ」
遠い目をしつつ話す純の脳裏には『炭』という単語が浮かぶ
「良いから食べなさい!」
「いやだ!」
「せっかく作ったのよ!」
「フッ、どうせ貴様の手料理などおれの料理に比べたら微妙なものだろう」
「あぁ、もうっ!」
純が口を開けたその瞬間に流魅がスプーンでオムライスを一口叩き込んだ
いわゆる『あ〜ん』と呼ばれるリア充たちの非生産的かつ能率的でない愚行だ
仲睦まじいリア充たちは爆発するべきだ
「んぐっ!?」
純は唐突なオムライスの飛来に反応して口を閉じたのだが、既にオムライスは口の中にあり、しっかりと食べる事になる
咀嚼し、嚥下する
…………
「……おいしいぞ。普通に」
普通のオムライスはおいしくできていた
いや、それは普通のオムライスではない
他の誰の為でもない、純の為に特別な思いを込めて作られたもの
流魅は、純の言葉に静かに俯き、頬を染めていた
お久しぶりです 永久院です
今回もラブコメイベントです
レインのぽっと出感が否めませんが、仕方ないです
いやー、主人公は羨ましいですね
僕もこんなイベントに巻き込まれたいです




