2話 ドラゴン事情
私は星の大精霊、シロボシ!
マスコットになって皆んなからお世話される、そんな悠々自適な生活を送るのが将来の夢だよ!
今は、空で出会ったドラゴンとなんやかんやでお友達になったよ。やったね!
『ごめんなさい……ごめんなさい……!』
お友達になった黒ドラゴンは小さく縮こまり、私に向かってひたすら謝罪してくる。
よく分からないけど、なんやかんやの流れで正体を晒したのが良くなかったかもしれない。
「やった! シロボシの話し合いのお陰で、ドラゴンさんが話に応じてくれたよ!」
そんな黒ドラゴンを前に、星の精霊こと魔法少女キラナは大喜び。
「まさに、シロボシの大勝利だね!」
「いや、違うよ。私は勝ってない」
「えっ?」
あの時の私はあくまで、自らの作り出した「可愛らしさ」によって平和に話し合いをする予定だった。
だけど、ドラゴンとの話し合いで私が選んだのは「威圧」。
可愛らしさを捨て、正体を晒してドラゴンを無理矢理従わせた。
「可愛さで相手を圧倒する筈だったのに……! こんなの、真の勝利じゃない……!」
「ええっ!?」
私はドラゴン以上にひどく落ち込んだ。
「うぅ……私の可愛らしいが通じないなんて……!」
「シロボシ……」
『あの……泣きたいのはこっち……』
可愛い姿を利用して悠々自適な人生を歩むと意気込んでいたのに。
結局は真の力を解放しないと、まともに相手を従わせられないなんて。
「……さて、反省はこのくらいにしておこうかな。次回の自分に期待しますか」
「あ、シロボシ元気になった」
『立ち直るの早……』
私はここで落ち込むのをやめた。私はマスコットを始めたての可愛い初心者だから、今以上にもっと可愛らしさに磨きをかけていけばいいんだ。
私にはまだまだ伸びしろがある。うん、そう思うとなんだか希望が出てきた。
とりあえず私はその場から立ち上がって、ドラゴンの真正面に立った。
「ドラゴンさん」
『はっ、はぃ……』
「早速だけど頼みがあるんだよね」
私はドラゴンに道を尋ねることにした。
「私達、地上の拠点が欲しくてさ。なんかいい感じの棲み家とかない?」
『棲み家ですか……』
私の質問を聞いたドラゴンは、うーんと唸り声を上げる。
程なくしてドラゴンは答えを見つけたのか、「それなら……」と話を切り出した。
『クレーター跡地とかどうですか?』
「クレーター跡地?」
『はい……かつて存在した大きな山の中央に、巨大な隕石が落ちて生まれたと言われている土地でして……』
「山の中央に平たい土地がある感じ?」
『その通りです……』
ドラゴンはゴツい手を器用に動かして、地面に絵を描いて分かりやすく説明する。
『巨大な山に囲まれているので、人間は滅多に入って来ません……』
「隕石は残ってるの?」
『隕石そのものはどうなったのかは分かりません……そもそも、隕石の衝突が本当にあったのかも不明でして……』
つまり、クレーターっぽいものがあるからそう呼ばれてるんだね。
「そんないい場所あるんだ。でも、そんないい土地に誰もいないってことあるの? 魔物とかいない?」
『あ、はい……今はレッドドラゴンの溜まり場になってます……』
使われてんじゃん。
『でも、貴方様なら容易にどかすことも可能かと……』
「それは流石に申し訳ないよ。ドラゴンが元から使ってた土地を、ぽっと出の奴が横取りするような真似は流石に……」
『大丈夫です』
ドラゴンはさらに言葉を付け加える。
『この土地に屯するドラゴンは素行の悪い格下共ですから』
「素行の悪い、ねぇ……因みにそこのレッドドラゴンはどんなことしてるの?」
『魔獣をおもちゃにしたり、いたずらに生態系を乱したり……』
確かに良くないことしてるね。
『あと、少し離れた土地にある人間の村に出向いては物資を略奪したり、ゴミを撒き散らしてます。時には貴重な資源を意味もなく潰したりも……』
だいぶ悪い奴だった。
「それは……そのレッドドラゴンさん達と、ほんの少しお話しないといけないかな……」
『雑魚掃除なら俺が担当します』
ドラゴンの一人称が変わってる。あの偉そうな喋り方は作ってたのかな。
『さあ、俺の背中に乗ってください。案内します』
「やったー!」
どうやらドラゴンさんは私達を背中に乗せて案内してくれるらしい。
ファンタジーで憧れるシチュエーションの上位にランクインする最高のやつじゃん。これはかなり嬉しい。
「ドラゴンさんありがとう!」
私はお礼にドラゴンさんの頭を両手で掴んで、可愛らしいマスコットフェイスで頬擦りしてあげた。
マスコットの可愛い顔が大接近だよ! これはかなり嬉しいお礼だね!
「ヒィ……」
私のお礼に、ドラゴンの口から小さな悲鳴が漏れた。なんかごめんね。
私達は地面に寝そべるドラゴンを登って、ゴツゴツするドラゴンの背中に乗った。
『では出発します』
私達が乗ったのを確認したドラゴンは、一言アナウンスをすると、大きな翼を羽ばたかせながら空へと飛び上がった。
翼で浮かび上がったというよりは、風を操る魔法で空に舞い上がった感じだ。
なんてことを考えてる間にも、ドラゴンは風を操作して目的の方角に向かって飛行を開始。物凄い速度で空を飛び始めた。
「高ーい!」
「速いねー!」
私達はドラゴンの空旅に大喜び。
私達は重力の魔法でドラゴンにくっ付いてるけど、普通の人なら、しがみつく場所が無くて途中で吹き飛ばされてたかもね。
「ねえ、ドラゴンさん」
空の旅の最中、私はドラゴンに色々と尋ねてみることにした。
「ドラゴンさんはお名前ある?」
『……俺はギルと言います』
「ギルさんだね。私はシロボシだよ、よろしく」
「私はキラナ! ギルさんよろしくね!」
ギルかぁ、中々いい名前してるじゃん。
「ねえギルさん」
『はい』
「ギルさんは普段から何をして生活してたの?」
『我……俺は、民の集う集落に降り立ち、民を魔物から守護し、見返りに貢ぎ物を貰って生活していました』
「人間と生活してたんだ」
ギルさんは良いように言ってるけど、それってつまり……
「つまりギルさんは、自分より弱い人間相手に威張り散らして好き勝手に暴れていたってわけだね!」
『ぐぅ……』
キラナの雑なまとめを聞いたギルからぐうの音が出た。
「図星なんだね」
「不思議だね。ギルさんって動物嫌ってるみたいだから、人間と暮らすの嫌そうなのに……」
「キラナ、それ以上は……」
「ギルさんって、ドラゴンの群れから追い出されたのかな?」
『ぐぅ……!』
キラナの追求を聞いたギルからさらに強いぐうの音が出た。
「あっ、ギルさんごめんなさい!」
『……俺は強いから、弱い人間を保護してただけだ。見返りに貢ぎ物を得て生活を……』
「それってなんだか、人間に飼育されてるみたいだね」
『ぐぅぅう……!』
キラナもうやめてあげて。
「……ギルさん、質問いいかな?」
『あ、はい……』
私は話の流れを変えるために、やけに力のないギルさんに質問を投げかける。
「クレーター跡地に屯してるドラゴンって、本来の群れから仲間外れにされたドラゴンだったりするの?」
『…………そんな感じです』
ギルは苦しそうに回答している。咄嗟に思いついた質問がこれで本当にごめん。
『どうやら素行の悪い個体がドラゴンの群れから追い出されて、そのドラゴン達が徒党を組んでいるそうで……』
「へぇ〜」
「そーいうことね」
だからやたら悪いことばかりしてるんだ。
「じゃあギルは、そのドラゴンなんかよりずっと頭がいいんだね」
『……変に慰めるのはやめてください』
「そんなんじゃないよ」
私は首を横に振る。
「人間や周りに無駄に迷惑かけたら、周りからすっごく恨みを買うでしょ?」
『……はい』
「そんなことしてたら、いつか力を持った大勢の人間に討伐されたりするリスクがあるわけじゃん?」
私はギルに優しく言い聞かせるように話を続ける。
「でもギルさんは違うよね。人間から一方的に奪わずに、人間を守る見返りとして色々と貰って……」
『……そう、ですかね』
「うん。ギルさん、素行の悪いドラゴンよりずっと頭いいじゃん」
私はギルの背中をポンポンたたく。
「後々のことを考えて討伐されるリスクを減らして、逆にその人間を味方につけてさ。ギルさんは長生きできるよ」
「シロボシ様……」
「そんな畏まらなくていいよ」
このやり取りで、僅かにだけど空間が穏やかになったような気がした。
「ねえギルさん」
『はい』
「あのさ……」
そんな空気の中、私はギルさんにもうひとつ質問をする。
「ギルさんってさ、クレーター跡地に屯してるレッドドラゴンとはグルでしょ?」
『!?』
私の質問に、ギルさんは目を大きく見開いて全身をビクリと震わせた。キラナも「えっ?」て短い単語を溢しながら私を見つめる。
『ななな、なぜ急に……!?』
「ごめん。なんか気になっちゃってさ。ギルさん、やけにレッドドラゴンの事情に詳しいなあって思って……」
「あ、確かに。居場所も知ってるし、ドラゴン達がやってることも詳しく知ってるね」
私の疑問にキラナも同意する。
「つまりさ……」
「うん」
「ギルさん、人間の集落に来たレッドドラゴンを下手に傷つけずに適当に追い返したでしょ」
『……!』
私の結論に、ギルは無言のままさらに震えだした。どうやら図星だったらしい。
「で、レッドドラゴン達に関しては、倒さないことを条件に定期的に集落を襲わせる、とか……」
「なるほど! それならギルさんを集落に長く住まわせる必要が出てくるね!」
「で、ギルさんを集落に長く繋ぎ止めさせる為に、人間に良い物とか貢がせたりとかできるわけじゃん?」
「そうだね! 賢ーい!」
「そもそもギルさんは、レッドドラゴンの事情にやたら詳しかったよね?」
「うん!」
「もしかしたらギルさんは時折、貢ぎ物の一部をレッドドラゴンに横流ししたりして、定期的にレッドドラゴン達のガス抜きとかしてたりして……」
「変に圧迫し続けたらどこかで爆発しちゃうもんね」
「でしょ? 貢ぎ物流して仲良くなって、ドラゴン達の事情とか詳しい話とか聞いたとか……」
『ごっ……!』
私達の話を無言で聞いていたギルさんはここで声を上げた。
『ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなさいっ!!』
ギルさんはずっと謝罪しっぱなし。どうやら私の推測は正解だったみたいだね。
「ギルさん……結構、賢いんだね」
『もう二度としません! 二度と民を揺さぶるような真似はしませんからぁっ!』
ギルさんは私がいいよと言うまで、ずーっと謝罪し続けていた。




